2019.01.24
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その31 ビュル・オジェと『アイドルたち』
ジャック・リヴェット、アラン・タネール、ブニュエル、シュミット、ファスビンダー、デュラス、ラウル・ルイス、オリヴェイラ、ヴェルナー・シュレーター、シャブロル、イオセリアーニ、ジャック・オディアール etc.・・・。ビュル・オジェがどれほどレジェンドな存在かは、フィルモグラフィに並ぶ錚々たる巨匠監督たちの名前を見れば一目瞭然です。特に『狂気の愛』(69)から晩年まで何度もタッグを組んだリヴェット作品やタネール『サラマンドル』(71)に見られるのびやかな身体性は、ヌーヴェルヴァーグ以降の新しい女性像を切り開いたといっても過言ではありません。とはいえこれほど巨匠たちに愛された理由はその演技力もさることながら、単純にむちゃくちゃかわいいからでは?と思ってしまうぐらい、若い頃からおばあちゃんになった今でも本当に変わらずコケティッシュでチャーミングです。
そんな彼女のかわいさが堪能できる作品を一本挙げるなら、映画デビュー作であるマルク’O監督『アイドルたち』(68)は外せません。アイドルが大衆の欲望とマスコミによってつくられた虚像であることを、トップアイドルたち3人が集まったユニットお披露目ライブにて彼ら自身が暴露していく様を描くこのミュージカルコメディにて、ジャン=ピエール・カルフォン、ピエール・クレマンティらと共に彼女が演じたのは文字通りの現役トップアイドル。ぶりっ子キャラで珍妙な歌やダンスを披露する彼女の役は、当時大人気だったフランス・ギャルやシルヴィ・ヴァルタンのパロディなのだとは思うのですが、カラフルなモードファッションを華麗に着こなす姿は本当のアイドルを束にしてもかなわないくらい可憐で、当時実際には28歳で既に10歳になる子ども(後に女優となるパスカル・オジェ)を持つ母だった事実には戦慄すら覚えます。
本作がジャック・リヴェットにインスピレーションを与え、翌年ビュル・オジェとジャン=ピエール・カルフォンが再共演する伝説的な傑作『狂気の愛』が生まれました(『アイドルたち』のテイストとは正反対の4時間を超える悲痛なモノクロ映画ですが)。『アイドルたち』は「演劇界のゴダール」とも称されたマルク’Oの商業主義への痛烈な批判が込められた作品ですが、原色を多用したカラフルな美術やコスチューム、時制を行き来するスリリングで実験的な映像(編集はジャン・ユスターシュ)などが今見ても新鮮で楽しめる愛すべき作品です。
(甘利類)