2022.09.29

【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん

これは間違いなくへんてこ映画だ! と思える作品になかなか出会えないのですが、久しぶりに遭遇しました。今年のイメージ・フォーラム・フェスティバル2022にて上映されていたブハーロフ兄弟監督の『ぬるま湯の土地』(2021)(原題:Land of Warm Waters)という作品は、まさしくへんてこであったのです。

この映画には不思議な人たちばかりが登場します。ゾリと呼ばれる怪しげな力を持つ男、誰も投票していないのに当選している爪と髪の毛にご乱心な市長、いつもスーパーの探知機に反応する体を持つ妻(のちに植物を出産!?)と不機嫌な夫とその家族、ペルーにいざなわれるおばあちゃん、声が出ないため電動式人工喉頭でお話をするおばあちゃん、崇拝されるサボテン、植物に興奮する男の人たち。繋がっているのか繋がっていないのかよく分からない人々が、何かに操られているようなそうでもないような。超常現象やマインドフルネス、サイエンスフィクション、サスペンス、陰謀、詐欺、ユーモア…映画ジャンルの垣根やメカニズムを曖昧にし、摩訶不思議な世界をモンタージュによって作り上げているのです。ちなみにこちらはスーパー8ミリで撮影されていて、手持ち撮影も相まって非常にアンダーグラウンドな感覚もあります。へんてこ映画ではあるものの、どこか政治的批判や植物、自然を大切にしていきたいという環境への配慮も感じられるので、現代人が観るべきだと感じさせる魅力もあるのです。また、タイトルやエンドロールで使用される新しい言語のようなレタリングや、ここぞというところに使われる合成(おそらくオプティカル合成なのでは!?)、コミカルで不定形な電子音などを使用した音楽などなど、細部にまで行き届いたこだわり抜いたへんてこさを味わうこともできます。

ブハーロフ兄弟は、イゴール・ブハーロフとイヴァン・ブハーロフというペンネームで活動をしているハンガリーの作家デュオで、1994年から映画制作とともにパフォーミングアーティストとして作品を発表し続けています。彼らのHPを見てみるととてもユニークな作品が多く、SMELLECTION AUTOMATという作品では、匂いで政治家を議会選挙で選んでみませんか? というコンセプトのもと、実際の政治関係者から集めた匂いのサンプルを嗅ぐことのできるマシーンを作成していたり、イヴァンが描いた不思議人間絵画があったり、イゴール名義のYouTubeチャンネルでは謎めいた短編作品やライブパフォーマンスの様子が見ることができたりと、彼らを調べれば調べるほどどんどん面白いものが出てきます。今後もしかしたら日本の映画祭やアートの分野でも見かけることがあるかもしれないので、へんてこ好きは要チェックですね!

(すみちゃん)