2022.04.21

【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田

二十四節気:穀雨(こくう)、初候:葭始生(よしはじめてしょうず)

4月も半ばを過ぎたのに肌寒い日が続きますね。衣替えをしたと思ったのに、上着をまた引き出してしまったので部屋も片付かず、どこかすっきりしない心地です。ただ、この4月20日から時候は「穀雨」へと変わり、春の最後の節気を迎えました。「穀雨(こくう)」は作物を育てる春の雨。百穀を潤す春に降る雨のことを表す「雨生百穀(うりゅうひゃっこく)」や「百穀春雨(ひゃっこくはるさめ)」が由来の言葉だと言われています。豊饒の雨を抜けると、あの爽やかな空気とともに初夏が近づいてくるのかと思えば、長雨を過ごすのも少し楽しくなってきます。

私がこうした季節のコラムを書くきっかけになった「新・増殖する俳句歳時記」というサイトがあるのですがご存知の方もあるでしょうか。その創設者である詩人・清水哲男氏が先月3月7日にご逝去されたと聞きました。元々私の兄が勤めていた出版社の編集長であったことで知ってからというもの、このサイトをまるで星座占いのように毎日覗き込んで日々変わる時節の気配を自分に纏わせていました。それから震災や紛争など不安の多い時期には事に触れてサイトを訪れて、そこに積み重なった文学の厚みにぴったりと体を寄せて幾度も励まして頂きました。私は残念ながら一度書籍のイベントだけでしかお会いできませんでしたが、このサイトや詩をご紹介することで私なりに清水氏を悼むことができればと思います。

「新・増殖する俳句歳時記」(※1)は曜日替わりで俳人や詩人が選んだ俳句を評した短文を1996年7月1日から2016年8月8日まで20年間毎日掲載し続け、季語ごとに検索もできるネット上の歳時記として構成されたサイトです。<被爆後の広島駅の闇に降りる>終了を予定していた20年間を締めくくる最後の掲載句は被爆した広島に降り立った清水氏自身の体験から生まれた句でした。清水氏は1974年に詩集「水甕座の水」で第25回H氏賞を受賞。1979年から約11年間、朝のワイド「FMモーニング東京」でラジオパーソナリティを務め、メディア論・映画論など詩以外の評論も多数執筆し、特に現代俳句に関わる仕事は多彩でした。清水氏の遺志で葬儀は行われなかったそうですが、こういうことをおっしゃっていたそうです。「ぼくはどんなに友達でも葬式には出ない主義だ」「その代わり、お祝い席にはかけつける」(※2)最後に、私の好きな詩より一部分だけ引用させて頂きます。心配事も多い時期にぴたりと体を寄せられる沢山の文学作品を残してくださってありがとうございました。

<唄が火に包まれる/楽器の浅い水が揺れる/頬と帽子をかすめて飛ぶ/ナイフのような希望を捨てて/私は何処へ歩こうか>

――詩集「水甕座の水」『美しい五月』より一部抜粋(「清水哲男詩集・現代詩文庫68」所収)

※1「新・増殖する俳句歳時記」
https://www.longtail.co.jp/~fmmitaka/

※2「詩人・清水哲男さんを悼む ビール党の素顔、プロの実力 延江浩が明かす」
https://dot.asahi.com/wa/2022041200079.html?page=1

(上田)