2019.07.10

【スタッフコラム】シネマと生き物たち by ミ・ナミ

『アメリカン・アニマルズ』とアメリカの鳥たち

皆さん、今まで買い物した中で一番高かったものは何でしょうか? 私は「鳥類原色大図説」という大型の鳥類図鑑です。千種を超える鳥類が生態とともに網羅されている本書は、鳥類画家・小林重三の美しく繊細な画が本当に見事で、愛らしい鳥たちはどれほど眺めていても飽きることがありません。古書にもかかわらず当時の私にとってはかなりの高額で、店のレジで順番を待つ間も悩み抜いたのを覚えています。

しかし世間には、想像を超える値段がつけられた鳥の本が存在しています。それは野鳥画家オーデュボンによる「アメリカの鳥類」。19世紀の北米に生息した鳥類を原寸大で描いた、カラー彩色の版画本です。その額、なんと時価12億円! そんな「アメリカの鳥類」を狙った若者4人による窃盗事件を元にした映画が、バート・レイトン監督による『アメリカン・アニマルズ』です。

オーデュボンがこの本を仕上げるに至る道のりは、決して順風満帆でありませんでした。私生児として生まれた彼は、18歳くらいから鳥のスケッチに没頭します。その間の商売は何一つ成功せず、ついに債務者監獄へ送られる始末。さらには、せっかくの200枚のスケッチをネズミに食いちぎられる悲劇にも見舞われます。多くの困難に打ちのめされつつも、11年の歳月をかけて彩色版画を完成させたそうです。

※ここから先は一部映画の内容に触れる部分があります。ご注意ください。

そうしたオーデュボンの苦難に満ちた人生を、青年たちが知ったときに抱いたシンパシーは容易に想像ができます。映画で描かれる青年たちの目的は「アメリカの鳥類」欲しさというより、何か大きな事を成し遂げて、鬱屈した日々を吹き飛ばすこと。とはいえ『レザボア・ドッグス』といった名作映画を参考に強奪計画を練る稚拙さで、この青春幻滅物語の末路は目に見えているわけですが、それでも気持ちのどこかにオーデュボンの鳥に魅せられるものがあったのではと思うと、私は同情を禁じ得ません。

図書館に押し入る前日、作戦に最後まで及び腰だった青年の一人の前に、オーデュボンの描いたフラミンゴが現れます。ひっそりと手招くような登場が印象的であり、何よりも、原寸大の版画の鳥を動いて見せることができる映画のマジックに、改めて感動をしたのでした。

(ミ・ナミ)