2019.05.02

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その34 ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドと『愛のメモリー』

ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドは、当時中学生だった私が「演技」や「俳優」とは何か? という問題をはっきりと意識するきっかけになった女優です。それほどブライアン・デ・パルマ監督『愛のメモリー』(76)の彼女は衝撃的でした。

物語は1959年のニューオリンズから始まります。裕福な屋敷に住むマイケルは、美しい妻のエリザベスと娘との三人で幸せな日々を送っていましたが、ある夜母と娘は誘拐されてしまいます。身代金を要求されたマイケルは警察の助言に従い、受け渡し場所に白紙の入ったカバンを置いていきますが、これが原因で逆上した犯人グループはエリザベスとサンドラを乗せた車で暴走した果てにクラッシュ。河に投げ出されたふたりは行方不明になってしまいます。それから16年後。未だ悲しみとトラウマに囚われ続けるマイケルは、ローマでエリザベスの生き写しのような若い女性サンドラにめぐり逢います。サンドラと熱烈な恋に落ちたマイケルは、周囲の反対をよそに早急に結婚しようとするのですが…。

(ここから先はオチに関わってくるので、フレッシュな気持ちで観たい未見の方は次の段落を飛ばして下さい)。

実はサンドラの正体は行方不明になって成長した娘のエイミーでした。マイケルの財産を狙う彼の同僚に、マイケルは金を惜しんで母娘を見殺しにしたのだと吹き込まれ、復讐のために彼を騙しつづけていたのです。終盤、同僚の魂胆を知り激情したマイケルは揉み合ったなりゆきで彼を殺害。さらにサンドラの正体がエイミーだとは知らぬままに彼女を追って銃口を向けますが、父への真の愛情を取り戻していたエイミーはマイケルに抱きつき、その瞬間に真相を悟ったマイケルも強く抱擁するという感動的な結末を迎えます。

ビュジョルドはこのラストシーンで、二十代中盤のサンドラからローティーンのエイミーにワンカットで変容するという驚愕の演技を披露しています(撮影当時33歳)。その名演は神がかっており、初見時にはあまりに感動して声を出して泣いてしまったのを覚えています。デ・パルマ作品の中では小品ですが、個人的には最愛の作品です。

カナダ出身のビュジョルドはアラン・レネ『戦争は終わった』(66)で主演デビュー。レネやデ・パルマ、イーストウッド、アラン・ルドルフ、クローネンバーグなど癖のある名匠たちとのコラボレーション作品はもとより、文字通り彼女に捧げられた美しい短編『Genevieve』(64)やクロード・ルルーシュがアメリカ資本で撮った西部劇『続・男と女』(77、あの名作の続編というよりセルフリメイクに近い)などもおすすめです。

(甘利類)