2024.01.25
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
昨年11月、引っ越しをして新たな環境に移り住みました。しかし振り返れば、早稲田松竹に入館して7年の間に4回も引っ越しをしています。何度目かのタクシー移動に落ち着かない様子のカメを見ると、不肖の飼い主の定まらない暮らしぶりに罪悪感で胸の奥がチリチリとするのでした。
こんな風に、どんな方にも人生にはあらゆる節目の瞬間があると思います。そして生き物とともに暮らしている人ならば、そのたびに起こる出会いや別れ、生活の変化に生き物もまたつき合うことになります。そのたびに私たちは人生の岐路に立たされ、ある者は苦渋の決断をするのかもしれません。今回取り上げる作品は、現在劇場公開中の韓国映画『マイ・ハート・パピー』です。
愛犬のゴールデンレトリバー“ルーニー”と子供の頃から兄弟のように育ったミンス。恋人へのプロポーズも成功して幸福な人生を送るかと思いきや、突然彼女から犬アレルギーを告白され、新生活のためにルーニーを手放す苦渋の決断を迫られることになります。面倒見のいい従兄ジングクの協力も得て、二人はルーニーの新しい里親を探そうと決意します。
ルーニーの完璧なパートナーのために奔走するミンスとジングクは、ソウルを飛び出し遠く離れた済州島へ向かうのですが、行く先々で様々な境遇の人々と犬たちに出逢います。家族の事情で海外へ移住するため愛犬を手放す人、引き取り手のいない犬たちでパンク寸前な保護施設の運営者、人当たりはいいけれど飼い犬を虐待する老男性…幸福とは言い難い犬たちを見て見ぬふりができない二人は、そのたびに犬たちを引き取り、ついに総勢8頭の大所帯に…! 旅が進むごとに犬が増えていく珍道中は(当の本人たちは大変だとは思いますが)、私のような犬好き観客にとって眼福でしかありません。
一方で、ミンスのように人生の岐路に立たされたとき、一緒に時を過ごしたかけがえのない“家族”である動物に何をしてやれるのか、シリアスな問いにも直面させられる映画でした。相手が人間ならば里親を探して手放すということは難しいはず。しかし現実に犬や猫たちといった動物は、私たち動物好きに振り回されてその生を生きているようにも思います。「いつも一緒にいるのが家族」という映画のセリフが、私の心に今も重くのしかかっています。
(ミ・ナミ)