2016.05.05
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:立夏(りっか)、初候:蛙始鳴(かわずはじめてなく)
五月五日、立夏、こどもの日。夏が来ると思えば、春の過ごしやすさが名残惜しく、少し寂しい気持ちになりますね。でも好きな季節に関わらず、季節の変わり目はなんと寂しいものでしょうか。特に初夏の風の薫りは、多くの記憶を刺激して複雑な気持ちがします。普遍的な時の移ろいを思わせる春の芽吹きや秋の落ち葉の匂いと比べて、個人の記憶を想起させる夏の匂い。少年時代に遊んだ自然の匂いから、恋人や友人と近くで過ごした時の他人の匂い。自分の汗の匂いでさえ、この季節が来るまで毎年忘れているような気がします。
「夏めく」という季語は、夏の兆しを表す言葉ですが、翳り、少し歪んだものに魅かれる心も反映する言葉だそうです。夏の生命力に妖しい誘惑を見いだしてしまう、少しアダルトな感情ですね。立夏の初候、蛙始鳴(かわずはじめてなく)。これも知っての通り、蛙の求愛行動。一般に爽やかなイメージのある夏ですが、生命の強いきらめきは人間の感情も揺り動かしちゃいます。
『マグノリア』という映画は、人間の欲望やいかがわしさが多分に描かれながらも、それが人間の営みとして肯定されているような印象を受けた映画でした。この「マグノリア」もモクレン属を総称する呼び方で、春先に薫るハクモクレンから、初夏に咲くタイサンボク(映画の花はこれかな)、3月~7月くらいの間に花をつけるかなり古い花の一種です。香りも強く、たくさんの虫を惹きつけます。ミシシッピ州の木、花を代表する植物として、州の25セント硬貨のデザインにも使われているそう。人間関係と様々な問題が込み入ってくるこの映画のラスト近く、土砂降りの雨の中、立夏初候を告げる蛙ちゃんが信じられないくらいの量で落下してくるのですが、なぜだかとてもすっきりした気分になってしまったことを覚えています。映画の裏話では、旧約聖書の出エジプト記の、モーゼがユダヤ人奴隷を解放しなかったエジプト王に対して、戒めとしてカエルを大量に降らせたエピソードからきているとか。この映画の魅力を決定的にするシーンで、一生忘れられないインパクトなのですが、あぁ生命力だなぁと思ったのを覚えています。
さて、立夏の日には、菖蒲湯に浸かるという風習がありますが、薬草の効果で体の毒気を抜くだけでなく、心の邪気を払う効果もあるとか。これからどんどん暑くなってくる頃、しかもこどもの日ですし、ここはちょっと匂いたつ自分の毒気を払っておきたいところですね。
(上田)