2016.10.27
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
「『たそがれの女心』と秋の空」
二十四節気:霜降(そうこう)、次候:霎時施(こさめときどきふる)
今年は閏年(うるうどし)なので、年始から数えると10月27日はちょうど301日目。そう思うと今年もわずかですね。北国や山の方では霧が霜になって降りる頃【霜降】、この時期に吹く強い北風を「木枯らし」と言います。東京都の初霜の時期を調べてみると、1900年頃に比べると約一か月もずれてしまって、当初は11月頭だったのが近年では12月になってしまっているようです。温暖化なのか、ちょっと残念ですね。(二十四節気は京都を基準にされているらしく、京都では現在11月中旬~下旬頃に初霜のようです)
「霎」は「こさめ」「しぐれ」と読みます。10月は旧暦では「神無月」が一般的ですが「時雨月(しぐれづき)」と呼ばれることもあるようです。時雨とは本来は晩秋から冬の季節の変わり目に一時的に降っては止みを繰り返す雨。いわゆる「女心と秋の空」という変わりやすい天気のことですね。この言葉、実は「女心」と言うようになったのは近代で、男性には甘く女性には厳しかった昔は、移り気な男性を表して「男心と秋の空」と言われていました。明治くらいからは自由な女性の姿を反映して、感情の起伏の激しさや、物事に対して移り気な女性を表すようになっていったそうですが、辞書では今でも「男心」の方が主流なんだとか。
『たそがれの女心』というマックス・オフュルス監督のフランス映画があります。「Madame de…」(マダム…)という名前もなき夫人を表す原題で、将軍の美人妻として、どこの舞踏会へ行っても持て囃される貴婦人が主人公です。この恋愛悲劇では、耳飾りが重要な小道具として登場します。結婚祝いに夫からプレゼントされたものの、彼女の秘密の借金のために質入れされた耳飾りは、夫の愛人や宝石商など、登場人物たちの秘密を照らしながら持ち主を転々としていきます。そのときには取引や駆け引きのための物としての価値しかありませんが、主人公が恋をしている男性から同じ耳飾りを受け取ったときには、全財産を賭けても片時も手離したくないほど特別な価値を持ってしまうのです。
お飾りの妻として耐えてきた彼女の最後の恋の結晶は、誰の手にも渡らないように教会に寄進されます。もしそのまま教会の隅で人々に忘れ去られたとしても、この映画を観た人にとっては、それはもうただの耳飾りではありません。物事の価値や意味は色んなことで移ろっていきますが、それを留めるのが人々の記憶や物語を頼りにしていることは、どこか儚くて美しいなと思いませんか。
(上田)