2017.03.30

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その12 ソンドラ・ロックと『愛すれど心さびしく』

聾唖者の青年と彼を愛する周囲の人々との(ディス)コミュニケーションを繊細に、そして徹底的に救いなく描いた『愛すれど心さびしく』(68、監督ロバート・エリス・ミラー)は、カーソン・マッカラーズの原作「心は孤独な狩人」を忠実に映画化した掛け値なしの名作だ。主人公の青年・シンガーを演じるアラン・アーキンの抑制の効いた芝居もさることながら、本作でデビューしたソンドラ・ロックが演じる高校生のミックも鮮烈な印象を残して忘れがたい。

ミックは貧しい家庭環境の中で音楽家を志し、小枝の様に痩せた小さな体をまだ見ぬ未来への期待で膨らませているような少女だ。シンガーに買ってもらったクラシックのレコードを繰り返し聴き、音楽への想いを彼に毎日のように話す。しかし、不幸な事故や貧困、当時の保守的な南部の風潮によってすべての希望は打ち崩され、夢は潰えていく。

ソンドラ・ロックは原作のイメージの生き写しにすら見える(だからこそ、撮影当時23歳だったにも関わらず大抜擢されたのだろう)。彼女は本作の演技でアラン・アーキンと共にアカデミー賞にノミネートされた。その後、イーストウッドの公私に渡るパートナーとなり、『アウトロー』(76)や『ガントレット』(77)、『ブロンコ・ビリー』(80)などの傑作に相次いで出演。この時期のイーストウッド作品には心地よい風が吹き抜けるようなリラックスした雰囲気があり、それも当時のミューズだったソンドラ・ロックのタフでセクシーな存在があればこそだったと思う。しかしその後の破局からイーストウッドに起こした訴訟、彼との私生活の暴露本の出版といったゴシップばかり残ってしまい、女優として評価が貶められているようなのが残念だ。

ネズミに人を襲わせる少年の物語『ウイラード』(71)や不愉快なまでに投げやりなラストが伝説になったエロティック・ホラー『メイク・アップ』(77)など、やたら変な映画に出演しているのも個人的にグッとくるものがある。近年はほとんどフェイドアウト状態だったが、本国で公開待機中のアラン・ルドルフ監督の新作「Ray Meets Helen」では久々に主演を務めているようだ。女優として再評価されるきっかけになってくれれば、と思う。

(甘利類)