第28回「癖があるものがお好き？」

服を買うときに、一癖あるものに惹かれてしまいます。そういう服と出会った時の一瞬のトキメキ（という名の衝動）をなんとか耐えられたら良いのですが、“1点もの”や“残り1点”という状況が重なると「これは運命の出会い！」なんて言い訳をして、買ってしまうのが常なのです。今回はそんな衝動や欲求が少しは引っ込む（？）ホラーコメディ作品『ファブリック（原題：In Fabric）』（2019）をご紹介します。

主人公シーラは銀行で働くシングルマザー。新しい恋を見つけるため、デートに着ていくドレスを新調しようとセール中のブティックへ向かいます。彼女が手にしたのは深紅のドレス。胸元は深めのVネックでウエストの部分には黒い花柄のワンポイントが入り、袖のシフォン素材の透け感などセクシーさが際立つデザインです。シーラがドレスを見てサイズが合わないかも…いや、その前に派手過ぎないかしら…？　などと迷っていると、すかさず怪しげな店員のゴリ押しトークが炸裂。後に明かされる、「事故死したカタログモデルが愛したいわくつきのドレス」とは知らずに購入してしまったシーラは、ドレスによって引き起こされる奇妙な事件に次々と見舞われるのです。

本作の監督は『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』（2012）など個性的な映画を手掛けるピーター・ストリックランド。A24配給ということもありビジュアルがお洒落で、ホラーが苦手な私ですが、予告動画のB級ホラー感も相まって気負わずに鑑賞出来ました。ドレスを洗濯しようとすると洗濯機がハチャメチャに破壊されるなど、クセ強展開が多いこの映画。エロティックなマネキンのお手入れなど突拍子もない場面もあり、怖がっている時間より笑い転げる時間のほうが多かったような気がします。

そんな本作ですが、時折ドレスがふわりと宙に浮いて幽霊のように佇むシーンはとても美しく「私といると不幸にさせてしまうけれど嫌わないで…」というドレスの心の叫びのようにも見えてくるのが不思議です。衝動買いしてしまったものの、あまり着ていない服たちがこうして夜な夜な佇んでいたら…と想像したら少し怖くなってきました。ちなみにインタビューでピーター・ストリックランド監督は、消費社会への風刺という意図はないと語っているそうですが、衝動買いモンスターである私の購買意欲を削ぐのにしっかり成功しています。そして、『サスペリア』（1977）をはじめ往年のホラー映画からのオタク的引用が垣間見える監督の魅力にすっかり憑りつかれてしまいました。どうやら私は映画も一癖あるほうが好きみたいです…。

（しかまる。）