2018.03.08

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その22 ヴァレリア・ドビチと『パッション・ダモーレ』/京マチ子と『いとはん物語』

映画において(映画だけじゃないけど)女性の美醜は極めてデリケートな問題であり、ちゃんと扱っている作品は多くありません。どんなにリアルに現実を反映させて見せても、大半の劇映画は多かれ少なかれ理想化された世界です。殊に映画の主役は画面映えするひとの方が求められることが多く、この問題はなおざりにされている様に思えます。

しかしこれを真っ向から描いた作品も存在しています。その代表はエットーレ・スコラ監督『パッション・ダモーレ』(81)。舞台は19世紀イタリアの片田舎。主人公のハンサムな将校は、勤務先で上司の従妹フォスカに出会います。彼女はまだ30歳手前なのですが病弱で、なおかつ極度の不器量を恥じ、男性に愛される希望を完璧に諦めたまま死を待っていました。そんな中でフォスカは将校との出会いに運命的なものを感じ、一生に一度の純愛に身を焦がしていきます。「たとえ言葉だけでも愛していると言ってください」「もし犬が好きなら私を犬だと思ってください」…。どんなに疎まれても将校に付きまといしがみつく彼女の言葉が切なく響きます。フォスカ役ヴァレリア・ドビチの繊細な演技は美醜を超えた気高さを湛えており、この題材を格調高い恋愛映画に仕上げるスコラ監督の手腕が冴えわたります。

そしてわが国にも強力な醜女ものがあります。伊藤大輔監督の『いとはん物語』(57)です。大正時代の大阪、老舗扇屋の三姉妹の長女お嘉津(京マチ子)が本作のヒロイン。美人ぞろいの次女と三女に比べ、お嘉津の不器量ぶりは周囲が不憫に思うほどのものでした。ある日、お嘉津をはやし立てた青年たちを追っ払ってくれた友七(鶴田浩二)に彼女は恋をします。お嘉津の気持ちを知った母は友七の気持ちなどお構いなしに結婚話を進めていきます。お嘉津は人生で初めて訪れた幸福の予感に包まれますが、友七は小間使いのお八重と想いあい、結婚の約束をしていたのです…。

本作は残酷なほどに切ない悲劇です。黄金期の大映の総力を結集した美術セットや美男美女俳優は贅を凝らした美しさですが、それ故にお嘉津の哀しさが引き立つ演出の容赦のなさは見ていて辛くなる程です。そして何よりも京マチ子の不細工メイク。正直衝撃を受けるほど壮絶なのですが、見ているうちにお嘉津のいじらしさと心の美しさに胸打たれます。人気絶頂期にこの役を引き受け、情感豊かな名演を見せる京マチ子の女優魂には頭が下がります。個人的には世界レベルの素晴らしい名作だと思います。

(甘利類)