2018.05.10
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
Vol. 8 はな子と『ダンボ』
5月26日は、井の頭自然文化園のスター、ゾウのはな子の命日です。亡くなった2016年当時、日本で飼育されているゾウの中では最高齢の69歳だったそうです。吉祥寺駅には、片足を上げてポーズを取るはな子の銅像が建てられ、在りし日のおちゃめな姿がしのばれます。はな子は1949年9月、「戦争で傷ついた子どもの心を癒したい」というタイの実業家から日本の上野動物園へ贈られ、1954年3月に井の頭自然文化園へ移されたそうです。日本では過去の戦争の際、戦時殺処分のために多くの動物が命を落としましたが、「花子」という名前は、そのときに餓死させられたゾウの名にちなんだそうです。ゾウにまつわる平和と優しさのエピソードにふれるたび、もう二度と悲劇が繰り返されない世界を願って止みません。
ゾウ映画の名作と言えば、1941年のディズニーアニメ『ダンボ』ではないでしょうか。サーカスのゾウ、ジャンボのところにコウノトリが運んできた、一頭の可愛い赤ちゃんゾウ。くしゃみをした途端、巨大な耳が現れて周囲を驚かせます。他のゾウたちは「ダンボ」と呼び嘲笑しますが、ジャンボ母さんの深い愛情に育まれて成長していきます。しかしある日、サーカスを見に来た子供がダンボの耳をからかい、ジャンボを激怒させてしまいます。大暴れしたジャンボは、「凶暴なゾウ」として檻に入れられてしまうのでした。仲間外れにされ悲しむダンボを、ネズミのティモシーがはげまします。やがてダンボは、隠れた才能を発揮することに…。
上映時間64分という短さにもかかわらず、親子の絆と友情から始まり、最後は成長物語につながるストーリーが素晴らしい本作。そして何よりも、主人公のダンボが愛くるしくてたまりません。しかし、リアリティのあるゾウの姿かというと、少々違和感があります。たとえばダンボが水を飲むシーンは、鼻からゴクゴク吸い上げていますが、実際のゾウは鼻から吸ったものを口に持って行って飲みます。『ダンボ』製作当時、ディズニースタジオは深刻な赤字を抱えていました。予算がかけられないため複雑な描写はできず、シンプルな作業で可能な漫画的表現を取り入れたのです。またダンボの造形は、作画スタッフの2歳の息子をヒントにしたそうです。確かに、目をこすったり、笑顔を浮べる表情は人間の赤ちゃんにそっくりですね。わかりやすい可愛さや面白さにしぼって完成された『ダンボ』ですが、1940年代で最も成功したディズニー映画といわれています。
そんな『ダンボ』は、ティム・バートン監督による実写映画化が進んでいます。そのニュースを最初に聞いた時はかなり驚きましたが、先ごろ公開されたダンボのビジュアルも、原作とはまた違ったリアルさが衝撃的でした。来年公開予定のこちらも、生き物偏愛家としては大変楽しみです。
(ミ・ナミ)