2018.11.08

【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田

二十四節気:立冬(りっとう)、初候:山茶始開(つばきはじめてひらく)

季節について綴るこのコラムを書いていると、何度となく同じ季節が巡り、同じお題が巡ってきて、あぁこれは前に書いたものだったか、あれは書こうと思ったけれど書かなかったのだろうかなどと考えているうちに頭の中で季節を何周もしてしまうことがあります。以前、山茶花と椿をご紹介したときには、昔はこの二つの花が混同されていたことや、冬の季節の匂い、チャップリンの「街の灯」の話を通して、目に見えないものの記憶についてお話しさせていただきました。

季節と記憶、イメージはとても強く頭の中で結びついていて、一つの言葉を聞いて想像すると、日本人なら誰もがその雰囲気を想起することができます。「冬ざれ」という言葉は冬に風物が荒れ果てて物寂しい様子や、その季節のことを言います。冬がくるという意味の「冬さる」という言葉を濁って発音すると、風雨に晒され色が褪せたり朽ちたりする「曝(ざ)る」という言葉の意味がかぶさり、そうした景色の形容になったそうです。

この言葉が私に想起させる情景の中では光が透き通っていて色味がなくどこか乾いています。黒い木立や、人気のない住宅街、路地裏、金柑が実る冬枯れの庭の間を歩いていくイメージが浮かびました。しかし私に見えるこういったイメージがいったいどこで生まれたのかとよく不思議に思います。実際見たことある風景とはどこか違った、たしかに冬らしいこのイメージ。それはまるで夢をみているときのように頭の中に浮かびあがってくるのです。

季節の言葉は俳句歳時記で多くの場合「時候」「天文」「地理」「人事」「宗教」「動物」「植物」などに分けられており、これはさながら図鑑のジャンル分け索引のように並べられています。抽象的な言葉(一月、春)もありますが、ほとんどは具象的な言葉です。実際にある事物を表す言葉が、私の頭の中に私だけのイメージを想い起させること。同時に、他の人は同じ言葉でどんなことを想像するだろうと思うことに、文学の浪漫があるなぁと思います。映画の話でなくてすみません。

晩秋から冬に咲く山茶花、冬に咲き始める椿とその交雑種である寒椿が愛されるのは、冬ざれの景色の中に大きくて色鮮やかな花びらをふっくらと重ねて、冷たい雨雪に耐える姿に、私たち自身の冬ごもりの姿を重ねるからでしょうか。古くから日本人に愛され続けてきた花です。山茶花の花言葉は「困難に打ち勝つ」「ひたむきさ」。これから寒くなりますが、お体にお気をつけくださいませ。

(上田)