2018.11.22
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その29 ウィノナ・ライダーと『へザース ベロニカの熱い日』
10~20代にかけてウィノナ・ライダーが演じた役柄の多くは、周囲から浮いたところのある少し影のある女の子でした。めがねで昆虫オタクの主人公への片想いが最後まで報われない、切ない瞳が悶絶もののデビュー作、『ルーカスの初恋メモリー』(86)や、霊と交信するゴス少女を演じたティム・バートン監督『ビートルジュース』(88)など、初期ウィノナ信者にとってこの時期の出演作はどれも不朽の名作なのですが、一本代表作を選ぶとしたらやはりマイケル・レーマン監督『へザース ベロニカの熱い日』(88)になります。
高校生ベロニカは、アメフト部やチアリーダーたちが我が物顔で仕切る学校での生活にうんざり。厭世的な想いを日記に書き散らすブルーな毎日を過ごしていました。しかしそんな日々ははぐれ者の転校生J.Dと恋に落ちたことで一変していきます。J.Dは彼女を抑圧した連中を葬り去ろうと過激な復讐計画を話し、冗談だと思ったベロニカは賛同しますが、J.Dはどこまでも本気だったのです…。
本作はアメリカの高校のスクールカースト(身分格差)の実態をブラックな笑いと共に皮肉たっぷりに暴き出した、ハイスクールムービーの金字塔です。J.Dに恐怖と反発を感じながら、同時にほの暗い共感と愛情を覚えて苦悶するベロニカを見事に演じたウィノナは撮影当時16歳。シナリオに惚れこみ、エージェントからの「こんな映画に出たら君のキャリアは破滅だ」という猛反対を押し切っての出演だったといいます。実生活においても高校に馴染めず、酷いイジメを受けて不登校状態になっていた彼女にとって、ベロニカはまさに奇跡的なはまり役でした。
本作の肝はもちろん過激なブラックユーモアにありますが、ウィノナの等身大の青春が焼き付けられているからこそ、毒々しくも不思議と瑞々しさを湛えた、青春映画の傑作になったのだと思います。終盤、銃を手にJ.Dに果敢に立ち向かっていくベロニカのカッコよさは永遠です(ダサかわな80’sファッションも最高)。今年は製作から30周年記念で、本国アメリカではなんと4Kレストア版が公開。さらにTVシリーズもスタートするなど、未だにカルトなファンが多いことを証明しました。ぜひ日本のスクリーンでもベロニカの勇姿に再会したい!
(甘利類)