2022.01.06
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
皆さまあけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
年初め、当館の犬好きスタッフと話をしていたときのこと。彼女の「そういえば『春の夢』に出ていた映画監督の作品に、犬の映画ありませんでした?」という一言で、急に思い出した1本がありました。『春の夢』とは、昨年当館で上映した、うだつの上がらない3人の男性(実は全員映画監督)と彼らのマドンナによるほろ苦い青春劇。そのトリオの1人、パク・ジョンボム監督による2012年公開の映画『ムサン日記〜白い犬』です。
主人公は、北朝鮮と中国の国境近くにあるムサン(茂山)から韓国へやって来た青年スンチョル(パク・ジョンボム)。北にいた時と同じおかっぱ頭にボロ服のままポスター貼りをしてはいますが、現場では安い賃金でこき使われ、なじられ、しまいには別のポスター貼りの連中とのなわ張り争いで暴力を振るわれてしまいます。熱心に教会に通い、自宅のラジカセで賛美歌を流して聖書を読みふけり、聖歌隊のスギョン(カン・ウンジン)に憧れていますが、もちろん彼女を遠くから見つめたり、後をつけたりするだけ。せっかく彼女の父が経営するカラオケ店で働けることになるのに、ろくに話しかけることもできません。
愚直なまでに純粋さを守って生きるスンチョルが寝食をともにしているのが、南のチンド犬(珍島犬)と北のプンサン犬(豊山犬)のミックス、白い犬ペックです。自分のダウンジャケットの破れ目にはガムテープを貼って着るスンチョルが、愛犬ペックには拾ったその日から可愛らしい赤い服を着せたりする“親バカ”ぶりが大変ほほえましいのです。人生の暗部をこれでもかと描いている本作ではありますが、ペックとスンチョルがたわむれるシーンに差す陽光はペックの白い毛のふわふわ感を際立たせ、実に暖かく、救われる思いがします。韓国にも北朝鮮にも居場所のないスンチョルは、南北のミックス犬にそんな自分を投影し、それでも白いまま生きるペックをよりどころにしているかのようです。
終盤、スンチョルは息の詰まる生活から抜け出すために純粋な自分を捨てて新たに生き始めるのですが、そんな彼を残酷過ぎる結末が待っていました。私はスンチョルの悲しみに感情移入し、彼の背中を押してあげたくなるのです。生き物偏愛家には厳しい描写部分もある映画ですが、ペックという存在があったからこそ傑作になりえたと感じています。やはり犬は尊い。久々に記憶から蘇った作品でしたが、そんな1本だったと、改めて思わされたのでした。
(ミ・ナミ)