【2020/11/14(土)~11/20(金)】『サンダーロード』『パブリック 図書館の奇跡』 // 特別レイトショー『リトル・ミス・サンシャイン』

まつげ

世の中の生き方・善悪・社会のルールには、正しいとか正解とされる理想のきれいな“マル”が沢山あふれています。今週の作品で描かれるのは、その“マル”の枠からはみ出したり、ぶつかり変形することで生まれる、個性的なカタチの姿です。

『サンダーロード』の主人公・警官ジムは、出来損ないだった自分が、亡くなった母親へ感謝を上手く伝えられなかったり、妻と娘と良好な家族を築けなかったり、そして、仕事でも踏んだり蹴ったりと上手くいかない事だらけ。不器用で繊細なジムは、理想の自分に近づこうとするほど、歪で可笑しい自分になってしまいます。

『パブリック 図書館の奇跡』の主人公・公共図書館員スチュアートは、とてもまじめに仕事に取り組んでいます。大寒波の影響で路上での凍死者が続出する冬のとある日、行き場を失ったホームレスたちが閉館後も居座わる事件が起こります。人種、年齢、職業などは一切問わず受け入れている公共の場である図書館で浮き彫りとなる、図書館のルールと己の正義との葛藤。スチュアートは、日々フランクに接する常連の利用者であるホームレスたちと立てこもりを選び、正面から問題に立ち向かいます。

『リトル・ミス・サンシャイン』の主人公は、小太りメガネっ子の少女オリーブ。その家族のフーヴァ一家は、それぞれの交わることない信念に真っすぐに飛び抜けていて、ちょっぴりエキセントリック。そんな家族が、オリーブの夢である美人コンテストでの優勝を叶えるため、一家総出でフォルクスワーゲンのバスで1200キロの旅に出ます。案の定、出発早々ぶつかり合う家族ですが、旅の最後には変化する家族の姿が…

今週の作品はエンタテイメントを土台に、ユーモアを交えながら気軽に見ることができます。さらに、主人公たちが見せてくれるそれぞれの“マル”のカタチは、観る者に社会の問題を考えさせたり、やっぱり人間って愛おしく、面白いと改めて感じさせてくれます。見た後に、明日も頑張ってみようとそっと背中を押してくれる作品がやってきました。

今週は『サンダーロード』『パブリック 図書館の奇跡』の二本立てと、『リトル・ミス・サンシャイン』のレイトショーです。

パブリック 図書館の奇跡
The Public

エミリオ・エステベス監督作品/2018年/アメリカ/119分/DCP/シネスコ

■監督・脚本・主演 エミリオ・エステベス
■製作 エミリオ・エステベス/リサ・ニーデンタール/アレックス・ルボヴィッチ/スティーヴ・ポンス
■撮影 フアン・ミゲル・アスピロス
■音楽 タイラー・ベイツ/ジョアン・ヒギンボトム

■出演 アレック・ボールドウィン/ジェナ・マローン/テイラー・シリング/クリスチャン・スレイター/ガブリエル・ユニオン/ジェイコブ・バルガス/マイケル・ケネス・ウィリアムズ/ジェフリー・ライト/チェ・“ライムフェスト”・スミス

©EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

忘れられない夜になる

米オハイオ州シンシナティの公共図書館で、実直な図書館員スチュアートが常連の利用者であるホームレスから思わぬことを告げられる。「今夜は帰らない。ここを占拠する」。大寒波の影響により路上で凍死者が続出しているのに、市の緊急シェルターが満杯で、行き場がないというのがその理由だった。

約70人のホームレスの苦境を察したスチュアートは、3階に立てこもった彼らと行動を共にし、出入り口を封鎖する。しかし、図書館館長、刑事と検察官、マスコミなどそれぞれの思惑が交錯。やがて警察の機動隊が出動し、追いつめられたスチュアートとホームレスは驚愕の行動を決断する…。

図書館員の勇気があなたに希望を届ける――名優エミリオ・エステベスの監督最高傑作!

監督・主演を務めたのは名優エミリオ・エステベス。ある公共図書館の元副理事がロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセイにインスピレーションを得て、完成までに11年を費やした。突然“命の避難所”となった公共図書館を舞台に、サプライズ満載の人間模様と奇跡の瞬間を映し出す笑いと涙たっぷり、予測不可能な感動作が誕生した。

共演は、『ローマでアモーレ』『ミッション:インポッシブル』シリーズのアレック・ボールドウィン、『トゥルー・ロマンス』『ニンフォマニアック』のクリスチャン・スレイター、『ネオン・デーモン』のジェナ・マローン、Netflix「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のテイラー・シリングなど実力派揃いのキャストが集結。

主人公の勇気ある行動は、今を生きる私たちにそっと語りかけてくるような問いかけであり、あらゆる観客の胸に響くに違いない。

サンダーロード
Thunder Road

ジム・カミングス 監督作品/2018年/アメリカ/92分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本・編集・音楽・主演 ジム・カミングス
■撮影 ローウェル・A・マイヤ
■編集 ブライアン・バンヌッチ
■美術 ジョスリン・ポンダー
■衣装 ミカエラ・ビーチ

■出演 ケンダル・ファー/ニカン・ロビンソン/ジョセリン・デボアー/チェルシー・エドマンドソン/メイコン・ブレア/ビル・ワイズ

© Thunder Road All Rights Reserved.

踊っても、踊っても、切ない。

テキサス州の警官ジムの愛する母親が亡くなる。ジムは葬儀で母親が好んだブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダーロード」を流そうとするが、娘のピンクのラジカセが故障し失敗してしまう。無音のなか涙ながらに踊りだすジム…。母の死に加えて、妻とは別居中、仕事も空回り。トラブルばかりの日常のなかで、ジムは親権争いの渦中にいる幼い娘クリスタルとの距離感に苦しみながらも、親子の関係を築いていく。

サンダンス映画祭が熱狂した短編グランプリ受賞作から奇跡の長編が誕生!切なくも心温まる“涙のサンダーロード”ムービー!

監督・脚本・編集・音楽・主演と一人5役を務めたのは米映画界の新鋭ジム・カミングス。愛する母の葬儀で突然踊り出す警官…、この衝撃的なインパクトみなぎるファースト・シーンは、2016年サンダンス映画祭で圧倒的支持を受けグランプリを獲得したワンカット12分の短篇『Thunder Road』を基にした自作自演リメイク。

満を持して長編化した本作は、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)映画祭で2018年度グランプリを受賞し、同年カンヌ映画祭ACID部門に正式出品。シアトル国際映画祭、ナッシュビル映画祭などで戴冠、ドーヴィル・アメリカン映画祭ではグランプリを獲得した。

ブルース・スプリングスティーンのアルバム「明日なき暴走」の冒頭を飾る名曲「涙のサンダーロード」が物語の起点であり、映画タイトルの由縁。すべてを失って壊れゆく不器用な父と、おてんば盛りな9歳の娘の、オフビートな笑いの中に潜む不揃いな愛に泣く、切なくも心温まる傑作!

【特別レイトショー】リトル・ミス・サンシャイン
【Late Show】Little Miss Sunshine

開映時間 開場19:35 / 開映19:50(~終映21:30)
ジョナサン・デイトン&バレリー・ファリス監督作品/2006年/アメリカ/102分/PG12/DCP/シネスコ

■監督 ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス
■脚本 マイケル・アーント
■撮影 ティム・サーステッド
■編集 パメラ・マーティン
■音楽 マイケル・ダナ

■出演 グレッグ・キニア/トニ・コレット/スティーヴ・カレル/ポール・ダノ/アビゲイル・ブレスリン/アラン・アーキン

■2007年アカデミー賞助演男優賞・脚本賞受賞・作品賞・助演女優賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞最優秀作品賞・主演女優賞ノミネート/インディペンデント・スピリット賞作品賞・監督賞・助演男優賞・新人脚本賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

■パンフレット販売なし

★レイトショー上映はどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます(二本立てとは別料金となります)。 

Photographs © 2006 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

夢と希望を乗せて、黄色いバスは行く

ニュー・メキシコ州に住むフーヴァ一家はちょっぴりエキセントリック。家長リチャードは“負けを拒否する"がモットーのモチべーション・スピーカー(成功論提唱者)で、家族にも持説を語る、語る。自分で開発した 「9 ステップ成功論」出版で勝ち組になる気まんまんだ。そんな父親に反抗するかのように息子ドウェーンはニーチェに倣って沈黙を続ける。9歳の娘オリーヴは、ビューティ・クイーンになることを夢見てミスコン出場に備えている。ヘロイン吸引が原因で老人ホームを追い出されたグランパは悪癖をやめず、勝手なことを言い放題。

母親シェリルは、てんでバラバラな家族をまとめようと奮闘中だ。そんなシェリルがゲイの恋人に捨てられて自殺未遂した兄フランクを自宅に引き取った日、オリーヴは 「リトル・ミス・サンシャイン」コンテスト決勝への繰り上げ出場権を獲得。旅費節約のため、一家そろってオンボロ・ミニバスで、決戦の地カリフォルニアを目指す旅が始まるが…。

幸せの黄色いバスに乗った愛すべき落ちこぼれ家族の奇妙でハートフルなロード・ムービー

2006年にサンダンス映画祭でプレミア上映された本作は、熱狂的なスタンディング・オベーションで大喝采を浴び、後に世界各国の映画祭や映画賞でも絶賛され、第79回アカデミー賞では作品部門含む4部門へのノミネート。しかも、マイケル・アーントにとって初脚本にも関わらずアカデミー賞脚本賞受賞など、映画業界のインディ作品としては驚異的な記録を残してきた。

監督は『ルビー・スパークス』や『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫妻。ミュージック・ビデオやCMで知られたクリエイターで、本作が初の劇場長編作品だ。一家を演じるのは母役のトニ・コレット(『ヘレディタリー/継承』)をはじめ、アラン・アーキン(『アルゴ』)、スティーブ・カレル(『フォックスキャッチャー』)、グレッグ・キニア(『ブリグズビー・ベア』)、ポール・ダノ(『スイス・アーミー・マン』)、アビゲイル・ブレスリン(『ゾンビランド』)と超豪華。

ブラックな笑いの中に家族の絆と優しさが伝わるオフビートな本作。誰一人完璧じゃないフーヴァー家の真っ直ぐな生き方は、あなたにも大切な何かをくれるはず。