W a s E d a s H o c h I k u i N オカルトハウス

ホラー映画は「恐怖」という人間の根源的な感情に訴えるジャンルです。それはとりもなおさず、その時代時代の観客の感性をヴィヴィットにとらえることが求められる、ということでもあります。無自覚に今までのクリシェをなぞってしまえば、それは簡単に反転して「笑い」の対象になってしまいます(『最‘狂’絶叫計画』でテレビから出てきた貞子がカンフー技でボコボコにされる場面にはただただ心が痛みました…)。ホラーは実はかなりモードチェンジが激しいジャンルなのです。

今回上映する『ヘレディタリー/継承』と『来る』はほぼ同時期に製作された作品ですが、どちらも「家族」をテーマにしているのは興味深いことです。本作で大絶賛された新鋭アリ・アスターと、常に賛否両論を巻き起こしながらも時代の感性をとらえてきた中島哲也がこの普遍的な主題をホラーとして描くに際してどのように向き合い、結果新しい血を入れるのに成功したかに是非ご注目を。

ヘレディタリー/継承
Hereditary

開映時間 ※上映は終了しました
アリ・アスター監督作品/2018年/アメリカ/127分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 アリ・アスター
■撮影 パヴェウ・ポゴジェルスキ
■編集 ジェニファー・レイム/ルシアン・ジョンストン
■音楽 コリン・ステットソン

■出演 トニ・コレット/ガブリエル・バーン/アレックス・ウォルフ/ミリー・シャピロ/アン・ダウド

■2018年インディペンデント・スピリット賞主演女優賞・新人作品賞ノミネート/放送映画批評家協会賞主演女優賞・SF/ホラー映画賞ノミネート

© 2018 Hereditary Film Productions, LLC

【2019年6月15日から6月21日まで上映】

この家族の物語は、あなたの永遠のトラウマになる

グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは夫・スティーブン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーと共に家族を亡くした哀しみを乗り越えようとする。自分たちがエレンから忌まわしい“何か”を受け継いでいたことに気づかぬまま…。

やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発。祖母に溺愛されていたチャーリーは、彼女が遺した“何か”を感じているのか、不気味な表情で虚空を見つめ、次第に異常な行動を取り始める。そして最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊する。“受け継いだら死ぬ”祖母が家族に遺したものは一体何なのか?

全米を凍り付かせた“完璧な悪夢”——これが現代ホラーの頂点

「家族」は生まれた瞬間から半ば強制的に私たちを縛る制度であり、そこから逃れることは難しいものです。だからこそ『ヘレディタリー 継承』で描かれる血族の宿命によって呪われ破滅してしまう物語には、こちらの芯に迫ってくるようなリアリティとイヤな感じが立ち込めています。そんなただでさえ恐ろしい物語を描くアリ・アスターの演出力は新人監督とは思えないほど完成されています。恐怖の感性を世界規模でドラスティックに更新した『リング』や『呪怨』などのJホラーの技術を完璧に吸収しているばかりか、加速度的に起こる禍々しい事態の連鎖によって私たちの神経をグラグラと揺さぶっていくのです。

特に音による恐怖演出は革命的であり、ホラー映画の水準をネクストレベルに押し上げたといっても過言ではありません(近年これほど音響にまで計算が行き届いた映画は、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』くらいでしょう)。振り切れたような過剰な恐怖がほとんど崇高な域に達した、新たなるホラークラシックの誕生です。(ルー)

来る
It Comes

開映時間 ※上映は終了しました
中島哲也監督作品/2018年/日本/134分/DCP/PG12/ビスタ

■監督 中島哲也
■原作 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」(角川ホラー文庫刊)
■脚本 中島哲也/岩井秀人/門間宣裕
■企画・プロデュース 川村元気
■撮影 岡村良憲
■編集 小池義幸
■音楽 冨永恵介/成川沙世子

■出演  岡田准一/黒木華/小松菜奈/松たか子/妻夫木聡/青木崇高/柴田理恵/太賀/志田愛珠/蜷川みほ/伊集院光/石田えり

©2018「来る」製作委員会

【2019年6月15日から6月21日まで上映】

決して「ぼぎわん」の名を呼んではならない。「ぼぎわん」は、声と形を真似て、人の心の闇に…来る!!!

オカルトライター・野崎のもとに相談者・田原が訪れた。最近身の回りで超常現象としか言いようのない怪異な出来事が相次いで起きていると言う。田原は、妻・香奈と幼い一人娘・知紗に危害が及ぶことを恐れていた。野崎は、霊媒師の血をひくキャバ嬢・真琴とともに調査を始めるのだが、田原家に憑いている「何か」は想像をはるかに超えて強力なモノだった。

民俗学者・津田によると、その「何か」とは、田原の故郷の民間伝承に由来する化け物「ぼぎわん」ではないかと言う。対抗策を探す野崎と真琴。そして記憶を辿る田原…幼き日。「お山」と呼ばれる深い森。片足だけ遺された赤い子供靴。名を思い出せない少女。誰かがささやく声。その声の主…・そ・う・か!・あ・れ・の・正・体・は、・あ・い・つ・だ!

あの中島哲也の最恐エンターテインメントが、来る

斬新なコマーシャルで名を轟かせた中島哲也監督(個人的にはスマップがガッチャマンになるNTTのCMや、豊川悦司と山崎努がド派手な卓球勝負をするサッポロビールのCMを見たときの衝撃が忘れられません)。映画作品では現実への生理的嫌悪感がポップさの裏に見えるところに彼の持ち味があり、それはもともとホラーと親和性が高い感性だったと思います。満を持して放たれたこの新作は家族間に巣くう魔というテーマやボルテージの高い怒涛の展開こそ『ヘレディタリー 継承』と共通していますが、こちらはむしろナ・ホンジン監督『哭声/コクソン』にも似た、禍々しくも異常なドライヴ感ゆえに目が離せないサービス満点のエンタメ精神が濃厚です。

中島監督らしい毒々しいセンスは健在ですが、今回は明確に「ホラー」というジャンルに振り切っているため、むしろ今まで以上に間口が広くストレートに楽しめる作品に仕上がっているように思います。近年の邦画で稀にみる怪作にして快作。『ヘレディタリー 継承』と続けて観るとその方向性の違いが楽しめる二本立てだと思います。(ルー)