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wimwenders

1945年、デュッセルドルフ生まれ。大学で医学と哲学を学ぶも、画家を志してパリへ移った。 パリのシネマテークに通ううちに映画に魅せられ、ドイツに帰国後ミュンヘン映画テレビ・カレッジに入学する。

1960年末のニュー・ジャーマン・シネマの波とともに、1970年、『都市の夏』で長編監督デビューを果たすと、 その後に続く『都会のアリス』('73)、『まわり道』('74)、『さすらい』('75)が 「ロード・ムーヴィー3部作」として広く知られることとなった。

1981年の『ことの次第』で ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞後、『パリ、テキサス』('84)でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞、 『ベルリン・天使の詩』('87)でカンヌ国際映画祭監督賞受賞など数多くの賞を受賞している。

90年代半ばより、アメリカに制作の場を移し、『エンド・オブ・バイオレンス』('97)や『ミリオンダラー・ホテル』('00)などを監督。 妻のドナータと共にベルリンとアメリカで生活し、自身の製作会社を拠点に活動している。2011年の『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』では3Dに挑戦した。

2015年、第65回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞が授与された。最新作は、3D映画『誰のせいでもない』。

filmography

・都市の夏('70)<未>
・ゴールキーパーの不安('71)
・緋文字('72)<未>
都会のアリス('73)
まわり道('74)
さすらい('75)
アメリカの友人('77)
・ニックス・ムービー/水上の稲妻('80)<未>
・ことの次第('81)
・666号室('82)<TVM>
・ハメット('82)
パリ、テキサス('84)
・東京画('85)
ベルリン・天使の詩('87)
・都市とモードのビデオノート('89)
・夢の涯てまでも('91)
・時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!('93)
・ベルリンのリュミエール('95)<未>
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒('95)<未>※オムニバス作品
・愛のめぐりあい('95)
・リスボン物語('95)
・エンド・オブ・バイオレンス('97)
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ('99)
・ミリオンダラー・ホテル('00)
10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス('02)※オムニバス作品
・ソウル・オブ・マン('03)
ランド・オブ・プレンティ('04)
・アメリカ,家族のいる風景('05)
・それぞれのシネマ('07)※オムニバス作品
・8 -Eight-('08)※オムニバス作品
・パレルモ・シューティング('08)
・Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち('11)
セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター('14)
・もしも建物が話せたら('14)※オムニバス作品
・誰のせいでもない('15)

70年代から80年代前半のヴェンダースは、ヌーヴェルバーグ以降の映画の変容(あるいは混乱)を最も真摯に体現した映画作家でした。『都会のアリス』や『さすらい』といったこの時期の作品で描かれたのは、とりあえずの目的を持ちながらもそれを曖昧にしてやり過ごそうとするかのような、主人公たちの逡巡と停滞感に満ちた鈍重な旅でした。ヴェンダースは一般的な劇映画の「物語」に抵抗しながら、そこから抜け落ちてしまう人々の息づかいを如何に映画にするかを一作毎に模索するような映画を撮り続けたのです。ある意味青臭いともいえるこの時期の作品群は、まさにこの時期にしか作れない青春期の瑞々しさがありました。

とはいえ、ひとはいつまでも青春の当事者ではいられません。コッポラに招かれてハリウッドで監督した『ハメット』の失敗を経て、ヴェンダースは自分が愛したアメリカ映画的な「物語」の語り部に徹する決意をします。84年に発表した『パリ、テキサス』は初期から一貫して描いてきたロードムービーではありますが、主人公のトラヴィスにはかつて描いてきた主人公たちのように旅自体を楽しむ余裕はありません。彼は愛を失い、絶望の果てに記憶も失いかけながら、人生を再び生き直すために果敢に過去と向き合うのです。唯一無二の個性派俳優ハリー・ディーン・スタントンがナスターシャ・キンスキーに朴訥と、しかし情熱的に語りかける感動的なシーンには、不器用ながらも物語に向き合うことを決意したヴェンダースの懸命な姿が重なって見えてきます。

世界中で絶賛された本作を境に、ヴェンダースの映画は大きな変貌を遂げていきます。

87年の『ベルリン・天使の詩』はファンタジックで美しい作品ですが、『パリ、テキサス』を境に変わった映画作家ヴェンダースの心情について語った作品でもあると思います。人々の喜びも悲しみも、ある一定の距離を持って見つめながら、自分の無力さに責め苛まれる主人公の天使・ダミエルは、幾多の映画を観ながらウジウジと悩んでいた(それはそれでとっても魅力的だった)かつての映画青年ヴェンダースそのものです。ダミエルはブランコ乗りの女性に恋をしたことから天使であることを止めて、人間として生きることを決心しますが、ヴェンダースもまた今までこだわっていた幾多の屈折を取り払い、人間の喜びや悲しみに寄り添う「物語」を大事にする映画作家として生まれ変わることをここに宣言するかのようです。

ベルリンの都市の歴史や文学が重層的に絡み合う本作が、同時にあたたかく観る者を包み込むのは、この時のヴェンダースの嘘偽らざる実直な心情が見事な映像詩に昇華されているからだと思います。

(ルー)

ベルリン・天使の詩
Der Himmel uber Berlin
pic (1987年 西ドイツ/フランス 127分 ブルーレイ ビスタ)
2017年1月7日-1月13日上映
■監督・製作・脚本 ヴィム・ヴェンダース
■製作 アナトール・ドーマン
■撮影 アンリ・アルカン
■音楽 ユルゲン・クニーパー

■出演 ブルーノ・ガンツ/ソルヴェーグ・ドマルタン/オットー・ザンダー/クルト・ボウワ/ピーター・フォー ク

■1987年カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞/全米批評家協会賞撮影賞受賞 ほか多数受賞

©1987 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH and ARGOS FILMS S.A.

天使は、恋をすると死ぬ――
世界で大ヒットを記録したヴェンダース不朽の名作

pic 天使は人を見護り、人の内心の声を聞き、いつでもどこにでも行ける。人がつくった壁、西と東とに分けるベルリンの壁も天使には無用だ。その万能の天使にもできないことはある――人間になることはできない。ましてや、人に恋したりすると、天使は死ぬ。

ベルリンの天使ダミエルは、親友の真面目な天使カシエルが心配するのにも平気で、人間になりたいといい、不思議な映画スター、ピーター・フォークにそそのかされもして、翼をつけた空中ブランコの美女マリオンに恋をしてしまう…。

pic『パリ、テキサス』から3年ぶりにつくられた『ベルリン・天使の詩』。ヴェンダースが10年ぶりに母国に帰り、ベルリンそしてドイツに対する思いを大きく深く美しく描き切った、全編にユーモアと詩情を湛える傑作である。『パリ〜』に続き1987年のカンヌ国際映画祭で最優秀監督賞に輝き、全世界で熱い絶賛をうけた。

pic 天使ダミエルを演じたのは『ヒトラー 〜最期の12日間〜』『永遠と一日』で知られるドイツの名優ブルーノ・ガンツ。また、刑事コロンボでおなじみのピーター・フォークが本人役で出演している。撮影は『ローマの休日』の名匠アンリ・アルカン、また、ヴェンダースの長年の協力者ペーター・ハントケによる難解で詩的なダイアローグも作品に大きく影響している。

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パリ、テキサス
PARIS, TEXASpic
(1984年 西ドイツ/フランス 147分 ブルーレイ ビスタ)
2017年1月7日-1月13日上映
■監督 ヴィム・ヴェンダース
■脚本 サム・シェパード
■脚色 L・M・キット・カーソン
■撮影 ロビー・ミューラー
■音楽 ライ・クーダー

■出演 ハリー・ディーン・スタントン/ナスターシャ・キンスキー/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/ハンター・カーソン

■1984年カンヌ国際映画祭パルム・ドール、国際映画批評家大賞、全キリスト教会審査員賞受賞/英国アカデミー賞監督賞受賞

© 1984 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH, ARGOS FILMS S.A. and CHRIS SIEVERNICH, PRO-JECT FILMPRODUKTION IM FILMVERLAG DER AUTOREN GMBH & CO. KG

原風景のさすらいから、
男は、愛を求めて帰ってきた――
カンヌを感動の涙につつんだ愛の傑作!

pic4年前に失踪した男・トラヴィスがテキサスの荒野で見つかった。弟のウォルトが迎えに行くが、彼は記憶を失っているらしい。妻のジェーンや息子のハンターのことを話しても何も答えない。ふとつぶやいたのは「パリ、テキサス」という言葉。かつて母と父がはじめて愛を交わしたその場所に、トラヴィスは土地を買ったのだという。

ウォルトがトラヴィスを家に連れて帰ると、7歳になったハンターが待っていた。4年間ウォルトと妻のアンヌを両親として育ってきたハンターとトラヴィスの再会はぎこちなく傷つきやすい。それでも徐々に打ち解け出すふたり。ある日、アンヌはトラヴィスに、ジェーンがヒューストンの銀行から毎月ハンターのためにわずかな送金を続けていることを明かす。それを聞いたトラヴィスは、ハンターと共にジェーンを探す旅に出る――。

pic 『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』と“ロード・ムービー三部作”を発表し高い評価を受けたヴェンダースが、ピューリッツァー賞受賞の劇作家にして俳優サム・シェパードのシナリオを得て、ロード・ムービーの頂点を極めた傑作。記憶を失い荒野をひとり彷徨っていた男が、息子との絆を取り戻し妻への愛を貫く姿が綴られる。哀感漂うライ・クーダーの音楽に乗せて、ロビー・ミュラーが映し出すテキサスの風景が美しい。

ナイーヴで詩情みなぎる演技でトラヴィスを演じたのはハリー・ディーン・スタントン。そしてジェーン役のナスターシャ・キンスキーの魅力も忘れがたい。ラストのテレフォンブースでの長回しは映画史に残る名シーンである。1984年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。

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