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“時間”とは、いったい何でしょうか。

『10ミニッツ・オールダー』は、15人の監督が“時間”をテーマに撮影した、
各作品10分ずつのコンピレーション・フィルム。
カウリスマキ、ビクトル・エリセ、ヘルツォーク、ジャームッシュ、
ヴェンダース、チェン・カイコー、ベルトルッチ、ゴダール…
名前を見るだけで湧き上がる興奮が抑えきれない、
そんな錚々たる巨匠たちが一同に会した本作は、まさに贅沢の極み!
数あるコンピレーション・フィルムの中でも最高峰と言って良いでしょう。

“結婚”を10分で決めた男をスマート&ビビッドに描いたカウリスマキから、
10のエピソードの“最後の瞬間”を圧巻の映像で映し出したゴダールに至るまで、
同じ“時間”をテーマにした作品でも、監督たちのアプローチは実に様々です。

それは、地球の、宇宙の、生命の、誕生の、死の、人類の、恋人たちの時間。
長く、短く、鋭く、なめらかな、流れるような、滴り落ちるような時間。
過去から現在へ、現在から未来へ、未来から過去へ、時空から時空へ、紡がれていく時間。
はじまりと、終わりの時間。

とても身近、それでいて不可思議な“時間”に想いを馳せるとき、
胸に起こるこの言い知れぬ気持ちに、そっと永遠が触れた気がする…
そんな奇跡のような瞬間を無数に持ち、私たちの心にそっと寄り添ってくれる映画。
それが『10ミニッツ・オールダー』なのです。

そう、映画とは、時間の中を流れる芸術。
映画を愛し、映画に愛された監督たちが贈る、“永遠の10分”。
芳醇なひとときをご堪能ください。
(ザジ)


人生のメビウス

アキ・カウリスマキ「結婚は10分で決める」
『過去のない男』の名コンビ、カティ・オウティネンとマルク・ペルトラ主演、同じく『過去のない男』に出演のロックバンド、マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカも登場するカウリスマキらしい寡黙なラブストーリー。刑務所から出所したばかりの男がたった10分で決めた“結婚”を描く。ビビッドに決まる色彩、スマートな展開、無口だけれど鋭く優しい台詞。男前な風情にシビれる。


ヴィクトル・エリセ「ライフライン」
『マルメロの陽光』から20年。世界中の映画ファンが新作を待ち望む寡黙な作家、ビクトル・エリセの、監督最新作がこの「ライフライン」だ(と言っても10年前になるのだが)。舞台はスペイン、エリセが生まれたのと同じ、1940年の物語。しのびよる戦争の影に覆われた小さな村に響く新たな生命の“誕生”。ひたすら美しく緊密なモノクロの映像と歌声の合間に、第二次世界大戦突入の混沌とした不穏な空気が見え隠れする。自ら自叙伝的な作品と語る、パーソナルな一作。


ヴェルナー・ヘルツォーク「失われた一万年」
新作を発表する度に物議を醸し出す異才・ヘルツォークが投げかける異色作は、ブラジルとボリビアの国境付近、アマゾンのジャングルの奥地に81年まで住んでいたウルイウ族についてのドキュメンタリーだ。近代文明との接触により、一瞬で石器時代から20世紀まで “進化”してしまった彼らの運命を追う。時間とは? 進化とは? 何が彼らにとって幸福であったか? 鋭い映像と問いかけが強烈な印象を残す、力強い一作。


ジム・ジャームッシュ「女優のブレイクタイム」
映画界に対する冷静、かつロマンチックなまなざしで展開される女優の“孤独”。『KIDS/キッズ』『ボーイズ・ドント・クライ』のクロエ・セヴィニー演じる女優が、トレイラーで過ごすブレイクタイムは10分しかない。できるだけリラックスしようとする彼女と、休みなく続くノック。まわりの手厚いケアが彼女を追い込んでいくアイロニックな物語。ゆらめくようなモノクロの美しい映像に、サイレント映画時代のような衣装をまとったクロエが映える。シーンとシーンの間に、何かを予感させながら何も起きない、というジャームッシュらしさが、女優の行き詰る吐息になって映画を包み込む。


ヴィム・ヴェンダース「トローナからの12マイル」
ロード、ロック、U.S.A、死のドライブ! 砂漠のど真ん中でバッド・トリップを経験し、迫り来る悪夢から逃れようとする男。意識を失いかけながら、ひたすら猛スピードで車を飛ばす。さっきまでは気楽にクッキーを食べていたのに、ちょっとした悲劇から彼の人生は一変し、今や追いかけてくるのは“死”ばかりであった。次の病院まであと10分。絶体絶命、死神とのレース。果たして、文字通りの「バッド・トリップ」の結末やいかに? どう見ても最高にかっこいい、ヴェンダースによる究極のロード・ムービー。


スパイク・リー「ゴアVSブッシュ」
2000年11月の米大統領選で破れたゴアの最大の敗因=“運”。コントラストの強いモノクロの映像で、猛烈に鋭くスパイク・リーからの政治的メッセージが発せられる。次から次へと立て続けに軽いパンチを食らったような印象を残す言葉。小気味よい映像のリズム。最後の瞬間までなだれ込むように力を緩めない、コンパクトでスタイリッシュなインタビュー・フィルム。


チェン・カイコー「夢幻百花」
昨日なかったビルも今日は建つ。目まぐるしい変貌を遂げる北京で、一人の男が引っ越しをしようとしていた。男の言う通りトラックを走らせた運送屋だったが、そこには木があるだけで家がない。しかし、男には確かに見えているのだった。失われてしまった時が――。時の流れについていけずに無垢な男が固執する心の宝石への限りない“郷愁”をファンタジックに描く。チェン・カイコーは、ハリウッド進出を経て高まる故郷・中国への想いをユーモラスかつ哀切な比喩として表現した。


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イデアの森

ベルナルド・ベルトルッチ「水の寓話」
ノドが乾いた、水を汲んで来てくれ――そう老人に頼まれて川を探しに行った青年は、ある美しい女性に出会う。惹かれあった二人は結婚しやがて子供を授かった。数年が経ち、車を購入した一家は初めてのドライブに出かけるが…。一日千秋の思いで水を待つ男の話を通して描く時間の絶対性と相対性。インドの寓話をベースに、ベルトルッチが故郷・イタリアを舞台に独特の映像美と秀逸なストーリーで魅せる。


マイク・フィギス「時代×4」
マイク・フィギスは、「Timecode」、『HOTEL』に続く、4分割のスクリーン、そして10分間ワンカットというセンセーショナルな手法を取り入れ、“記憶の不連続性”から時間にアプローチした。4分割のスクリーンの中で、映画はシンプルに、現在を通して過去と未来を探っていく。互いにつながりながらも、それぞれの部屋は異なった時間軸の中にある。ベケットやシーガルらに敬意を持って共感を示したような作品、とフィギスは語る。


イジー・メンツェル「老優の一瞬」
『つながれたヒバリ』で東欧を代表する監督となったイジー・メンツェルが、同作出演後、30年近くの交流があった老優ルドルフ・フルシンスキーの人生を10分に凝縮した耽美的一作。ルドルフ・フルシンスキーは、イジー・メンツェルの代表作のひとつでもある85年の作品『スイート・スイート・ビレッジ』にも出演。アメリカ、イギリス映画にも数多く出演し、生涯の出演作は120作を越える。惜しまれながらも94年に74歳で逝去した。


イシュトヴァン・サボー「10分後」
『メフィスト』で81年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイシュトヴァン・サボーは、倦怠期にさしかかったある夫婦を通して神のみぞ知る人生の一寸先の“未知の時間”を描く。見事なワンシーンワンショットに目を釘付けにされている間に、夫婦の日常が少しずつしかし大きく崩壊していく。衝撃的かつリアル、リアルかつとても映画的。


クレール・ドニ「ジャン=リュック・ナンシーとの対話」
目的地までの時間をひた走る急行列車。そのコンパートメントの中では、哲学者のジャン=リュック・ナンシーと若い女性・アナのふたりが時を忘れさせるほどの熱い議論を交わしている。ジャン=リュック・ナンシーは、心臓移植手術を受け他人の心臓によって生きている自分を省みて、他者と自己の関係を模索し続ける、実在の現代フランスを代表する哲学者。 運行時間とそれを上回る濃密な時間の対比が印象的な10分は、ヴィンセント・ギャロ主演『ガーゴイル』で新境地を開拓したクレール・ドゥニが展開する現代哲学論とも言える。なお、ドゥニは『10ミニッツ・オールダー』2作合わせて、唯一の女性監督である。


フォルカー・シュレンドルフ「啓示されし者」
『ブリキの太鼓』でカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞監督となったフォルカー・シュレンドルフは、ギリシャの哲学者アウグスティヌスの「告白」を原典に、蚊のモノローグを通して<過去の現在・現在の現在・未来の現在>という異なる“三つの「現在」”の概念に迫る。蚊の視点を再現した浮遊するカメラワークにご注目。


マイケル・ラドフォード「星に魅せられて」
日本中を涙で包んだ大ヒット作『イル・ポスティーノ』の監督、マイケル・ラドフォードは、80光年のタイムトラベルから帰還した宇宙飛行士の体験を通して“銀河時間”の不可思議さを描く。人が一生を終えるほどの地球時間に対し、たった10分しか歳をとらなかった男が直面する、過酷な運命とは…。コンパクトだが感動の波が押し寄せるSFの秀作。主演は、『007』シリーズ、『ドラゴン・タトゥーの女 』など現在も不動の人気を誇るダニエル・クレイグ(当時34歳)。


ジャン=リュック・ゴダール「時間の闇の中で」
時間に“最後の瞬間”が訪れるのか。「愛」「歴史」「静寂」「恐怖」「永遠」等、10のエピソードの“最後の瞬間”を映し出す中で、〈時間の闇=映画〉こそが「永遠」というメッセージを残す。 映画監督の代名詞とも言えるゴダールは、1本1分の映像を10本という贅沢な10分を用意した。BGMに使用されたのは、ちょうど10分の楽曲「鏡の中の鏡」(アルヴォ・ペルト作曲)。胸に染み入るような悲しくも優しい旋律にのせて、ゴダールの力強い映像が迸る。締めくくりにふさわしい、圧巻の一作!

★両作品ともビスタ/SRD上映です。


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