![toppic](../../img/lineup/2012/120512/top.jpg)
1935年アテネ生まれ。子ども時代にナチスによる占領を体験、戦後パリのソルボンヌ大学に入学するが、中退してギリシャに戻り、映画評を書きながら過ごす。
68年に短編『放送』を撮り、70年に長編『再現』でジョルジュ・サドゥール賞を受賞して映画監督として認められる。『1936年の日々』に続く「現代史三部作」の二番目の作品で4時間近い大作『旅芸人の記録』が世界的な評価を受け、現代史三部作の締めくくりでもある『狩人』でその評価を確実なものとする。80年の『アレクサンダー大王』でヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞。
・放送(1968)*未公開
・再現(1970)*未公開
・1936年の日々(1972)*未公開
・旅芸人の記録(1975)
・狩人(1977)
・アレクサンダー大王(1980)
・アテネ/アクロポリスへの三度の帰還(1982)*未公開
・シテール島への船出(1983)
・蜂の旅人(1986)
・霧の中の風景(1988)
・こうのとり、たちずさんで(1991)
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒(1995)*未公開
・ユリシーズの瞳(1995)
・永遠と一日(1998)
・エレニの旅(2004)
・それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜(2007)
![暁は一日の始まりでしかないが、黄昏は一日を繰り返して見せるのだ。
人間が昇る太陽より沈む太陽に注意を払うのも、そのためなのである。
「悲しき熱帯」 ――クロード・レヴィ=ストロース](../../img/lineup/2012/120512/tx1.jpg)
今週の上映は「霧の中の風景」と「永遠と一日」。
それぞれの主役は、幼き姉弟と人生の黄昏時を向えた一人の老いた詩人。
正反対のようでいて、心に響く音色はどこか似ている。
触れれば壊れてしまいそうな、無垢がむき出しになった宝石。
アンゲロプロス監督の作品の中でも最も叙情性に満ちた二作品をご紹介します。
「永遠と一日」の詩人のアレクサンドレは重い病を抱え、命の落日を悟る。
そして妻の手紙をきっかけに、詩人は生涯を回想し始める。
何も歩を進めることだけが旅ではない。
彼の思いを巡らす旅は地理も時間もバラバラだ。
だが、その想念の歩みの中には人生の重要な局面が避け難く現れてくる。
少年のころの、娘の誕生の、そして30年前の妻アンナとの、海辺の家での思い出。
だが、詩人が振り返る過去は、
砕けたガラス片のように決して元には戻らず、後悔が滲む。
「霧の中の風景」の12才の少女ヴーラと5才の弟アレクサンドロスの姉弟は出発した。
幼き姉弟にとっての日の出。顔も知らない父を探す旅。
それは文字通り0からのスタートだ。
アテネからユーゴスラヴィア、オーストリアを経てようやく、ドイツに至る大旅行。
“カモメさん、お別れだよ、ドイツに行くんだ”アレクサンドロスの希望に満ちた台詞。
カモメさんは質問する。“ドイツってどんなところだ?”
そして、二人の無垢で甘やかな夢に、苛酷な現実の質量が雪のように堆積してゆく。
人と人、国と国、過去と現在、夢と現実、生と死…。
至る場所で残酷に立ちはだかる境界線。
今という時間は過去へと流され、未来は絶えず妥協と失望の現実となってゆく。
くぐもる景色は未だ晴れ渡らない。永遠の堂々巡り…。
その先を、まだ見ぬ景色を希求して旅人たちは行く。
両作を追っていくと、黄昏時のような、
世界の輪郭が淡くぼやけた不思議な瞬間が訪れる。
旅の果てに、詩人が紡いだ言葉と二人の子供が見た景色。
老いた詩人が問い、そして二人の幼き姉弟が踏み出した、“明日”。
映画に世界を託した巨匠のメッセージに、心振わせずにはいられない。
(ミスター)
永遠と一日
MIA AIWNIOTHTA KAI MIA MERA
(1998年 ギリシャ/フランス/イタリア 134分 ビスタ/SR)
2012年5月12日から5月18日まで上映
■監督・製作・脚本 テオ・アンゲロプロス
■製作 エリック・ユーマン/ジョルジオ・シルヴァーニ/アメデオ・パガーニ
■脚本協力 トニーノ・グエッラ/ペトロス・マルカリス/ジョルジオ・シルヴァーニ
■撮影 ヨルゴス・アルヴァニティス/アンドレアス・シナノス
■音楽 エレニ・カラインドルー
■出演 ブルーノ・ガンツ/イザベル・ルノー/アキレアス・スケヴィス/デスピナ・ベベデリ/イリス・ハジアントニウ/エレニ・ゲラシミドゥ/ヴァシリス・シメニス/ファブリツィオ・ベンティヴォリオ
■1998年カンヌ国際映画祭映画祭パルムドール受賞
★本編はカラーです。
北ギリシャの港町、テサロニキ。作家で詩人のアレクサンドレは重い病を患い、入院を明日に、今日が最後の日だと覚悟して目覚める。少年のころ、海辺の家から親友たちと3人で、島まで泳いでいった思い出の夢。遠くに母の声が響く。「アレクサンドレ!」…
娘のカテリーナに、3年前に死んだ妻アンナの手紙を託すが、そのうちの1通が、30年前の夏の日の思い出を呼び戻す。その一日、自分は少年のころの記憶にふけって、アンナの激しいまでの深い愛に気づかないでいた。
町中に出たアレクサンドレは、アルバニア難民の少年と出会う。売りに出されそうになった少年をとっさに救い、国境に送り届けようとするアレクサンドレだが、少年は彼から離れようとしない。そして、ふたりの明日までの旅が始まる――。
アンゲロプロス監督長編第11作目となる『永遠と一日』。詩人に訪れた最後の一日の心の旅を、圧倒的な美しさで描き、98年カンヌ国際映画祭パルムドールに 輝いた。主演は『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツ。ドイツ人であるが、初対面のアンゲロプロスに「着ているコートまでぴったりだ」と言われ、愛用のアルマーニのコートを着たままで出演し、新たな代表作を生みだした。
現在から少年の日の過去へ、あるいは、娘が生まれ親戚が集まった夏の日へ、さらには難民の少年を送り届ける雪のアルバニア国境へ…映画はストーリー運びを超え、大胆に飛翔し、自由に縦横に展開していく。また、ポエジーな物語をさらに美しく彩るのは、『シテール島への船出』以来全作品を担当している、エレニ・カラインドルーのテーマ曲である。
「過ぎてゆく時間、失われたこと、大事な瞬間に対する無理解、失望感。アレクサンドレが母に独白するシーンは、彼が自分の内面のバランスを取り戻す唯一の瞬間です。あのシーンには、『こうのとり、たちすさんで』でマストロヤンニが問いかけた“いくつ国境を越えれば、家に帰れるのか”という問いに対する答えがある。アレクサンドレは“失われた(言葉)”と、“忘れられた(言葉)”という二つの言葉を再発見するのです」
テオ・アンゲロプロス(作品パンフレットより抜粋)
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霧の中の風景
TOPIO STIN OMICHLI
(1988年 ギリシャ/フランス 125分 スタンダード/MONO)
2012年5月12日から5月18日まで上映
■監督・原案・製作・脚本 テオ・アンゲロプロス
■製作 エリック・ユーマン/ステファヌ・ソルラ
■脚本 トニーノ・グエッラ/タナシス・ヴァルティス
■撮影 ヨルゴス・アルヴァニティス
■音楽 エレニ・カラインドルー
■出演 ミカリス・ゼーケ/タニア・パライオログウ/ストラトス・ジョルジョグロウ/イリアス・ロゴセティス/ミカリス・ヤナトス/エヴァ・コタマニドゥ
■1988年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)・国際映画批評家協会賞・OCIC賞受賞/1988年シカゴ国際映画祭最優秀監督賞・最優秀撮影賞受賞/1989年ヨーロッパ映画賞グランプリ
★本編はカラーです。
★製作から長い年月が経っているため、本編上映中一部お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。
アテネ駅に今夜も幼いふたりの子供が来ている。12才の少女ヴーラと5才の弟アレクサンドロスの姉弟。ドイツにいるという父に会いに行くため、列車に乗ろうとしている。お金はない、国境なんて知らない、ふたりにとっては所詮、大旅行だ。だが、ふたりは今日も列車に乗る勇気が出なかった。眠りにおちる前の闇の中でヴーラにお話をせがむアレクサンドロス。ヴーラは語りはじめる―― “始めに混沌があった。それから光が来た。光と闇が分かれ、大地と海が分かれ、川と、湖と、山が現れた…。”
翌日も、アテネ駅に立つヴーラとアレクサンドロス。発車の笛が鳴る。ついにふたりは列車に飛び込んだ。駅員がドアをバタンと閉め、列車は走り出した。切符のないふたりはデッキで身を寄せ合って眠る。これから経験する、彷徨、出会い、失望と希望が、ふたりが世界を知ることになっていくのをまだ知らない。それは、善や悪、真実や嘘偽、愛や死、沈黙や言葉、人生を知る旅…。
幼い姉弟が、アテネからドイツにいるという父を探すため、国境を知らない旅に出たという実話が元になった本作。アンゲロプロス監督は、痛切なまでに美しいおとぎ話的な映像詩に結晶させて、88年のヴェネチア映画祭を深い感動に包みこんだ。そして銀獅子賞をはじめ7つもの賞を受賞し、さらにベルリンの壁崩壊後初のヨーロッパ映画賞で堂々のグランプリに輝いた。
12才の少女ヴーラを演じるタニア・パライオログウ、弟アレクサンドロスを演じるミカリス・ゼーケは新聞告知のオーディションでギリシャ全土から集まった千人の子供たちから選ばれたふたりで、映画初出演である。また、『旅芸人の記録』の一座たちが顔ぶれそのままに、主人公たちを誘うかのように登場している。
「世界は映画によって救われると私は信じたいし、私にとっては映画とは世界であり、私の旅です。ささやかでも心が動くユートピアをいくつか発見したいと思い、それを映画との私の旅と信じようと思っているのです。」
テオ・アンゲロプロス(作品パンフレットより抜粋)
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