★お客様へ
上映可能な最良のプリントをご用意しましたが、製作から長い年月を経ている作品のため、本編上映中お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承のうえご鑑賞いただけますようお願い申し上げます。

「旅は人が潜在的に変わろうとしていたものを明らかにする。 人と人との関係だけでなく、人それぞれの内部での変化。 旅によって人物だちはルーティーンの外に出る。 もちろん、どこに向かってどうかわっていこうとするのかは分からないにしても、 元いた所に戻るのではないことは確かだ。 自分の状況を新たな目で見つけることができ、変わることが可能だと感じる。 だから旅のテーマに惹かれる」――ヴィム・ヴェンダース

早稲田松竹クラシックスVOL.27はヴィム・ヴェンダース監督特集。 初期作品の中から、<ロード・ムービー3部作>である『都会のアリス』、 『まわり道』、『さすらい』の3本と、『アメリカの友人』の計4本を2週にわたって上映します。

ヴィム・ヴェンダース

本名はErnst Wilhelm Wenders。1945年生まれ。ドイツ、デュッセルドルフ出身。

ミュンヘン大学在学中に何本かの短編映画を作り、卒業製作で『都市の夏<キンクスに捧げる>』を発表。その後ニコラス・レイ監督のアシスタントを務める。<ニュー・ジャーマン・シネマ>の最も若い旗手として注目を浴びた。

フィルモグラフィ
・観客席(1967)≪未≫*短編16mm
・セイム・プレイヤー・シューツ・アゲイン(1968)≪未≫*短編16mm
・シルヴァー・シティー(1969)≪未≫*短編16mm
・アラバマ:2000光年(1969)≪未≫*短編
・3枚のアメリカのLP(1969)≪未≫*短編16mm
・警察映画(1970)≪未≫*短編16mm
・都市の夏<キンクスに捧げる>(1970)≪未≫*16mm
・ゴールキーパーの不安(1971)≪未≫
・緋文字(1972)≪未≫
・都会のアリス(1974)
・ワニの家族から/島(1974)≪未≫*中編16mm テレビ・シリーズ「わたしたちのための家」より
・まわり道(1975)
・さすらい(1976)
・左利きの女(1977)≪未≫*製作
・アメリカの友人(1977)
・RADIO ON(1979)*製作
・ニックス・ムービー/水上の稲妻(1980)≪未≫*共同監督
・ことの次第(1981)
・リヴァース・アングル(1982)≪未≫*短編16mm フランスのテレビ局A2の番組「シネマ・シネマ」より
・666号室(1982)*短編16mm フランスのテレビ局A2の番組「シネマ・シネマ」より
・ハメット(1982)
・パリ、テキサス(1984)
・東京画(1985)
・ベルリン・天使の詩(1987)
・鉄の大地、銅の空(1987)*製作
・都市とモードのビデオノート(1989)
・夢の涯てまでも(1991)
・時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!(1993)
・ベルリンのリュミエール(1995)≪未≫
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒(1995)≪未≫*共同監督
・愛のめぐりあい(1995)*共同監督
・リスボン物語(1995)
・エンド・オブ・バイオレンス(1997)
・ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(1999)
・ミリオンダラー・ホテル(2000)
・トローナからの12マイル(2002)*短編 「10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス」より
・Rain レイン(2003)≪未≫*提供
・ソウル・オブ・マン(2003)
・ミュージック・クバーナ(2004)*製作総指揮
・ランド・オブ・プレンティ(2004)
・アメリカ、家族のいる風景(2005)
・平和の中の戦争(2007)*短編「それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜」より

今回上映する4本のヴェンダース作品のうち、3本は<ロード・ムービー3部作>と呼ばれている。旅行記が書けない物書きの男と、その男と一緒に家を探す旅に出る少女が登場する、『都会のアリス』。物語を書きたいのに書けない男が旅の途中で様々なひとたちに出会い、一緒に旅をすることになる『まわり道』。孤独を守り、ワゴンに乗って映画館をまわる男と、妻と喧嘩して川に車ごと飛び込んでしまう無鉄砲な男がともに旅をする『さすらい』

登場人物は皆、自ら旅をしようと決心して動きだしたわけではない。なりゆきだったり、自分でも気が付かないまま旅路に立っていたり。そんなひとたちが、風景の移動、時の移動のなかに身を置いて自分の内面に触れたとき、自分自身の旅が始まるのだ。

ヴェンダースの映画の登場人物たちのように、風景のなかに溶けて、流れる時間に身を任せてみて初めて、自分がいまどこにいるのか、必要なものは何なのかがわかってくるのかもしれない。

(1974年 ドイツ 112分 モノクロ)
■監督・脚本 ヴィム・ヴェンダース
■脚本 ファイト・フォン・フェルステンベルク
■出演 リュディガー・フォグラー/イエラ・ロットレンダー/リサ・クロイツァー/エッダ・ケッヒェル

2008年10月18日から10月24日まで
 ★「まわり道」と二本立て上映

アメリカ東海岸の遊歩道。青年作家フィリップ・ヴィンター(リュディガー・フォグラー)は、海辺で「アンダー・ザ・ボードウォーク」をくちづさんでいる。ポラロイドカメラで風景を撮り続けながら、アメリカをさすらって1ヵ月になるが、ドイツの出版社と約束した旅行記のストーリーを書けないままに締切が過ぎてしまった。

資金が尽き果て、ミュンヘンに戻る心積もりで空港会社へ行くと、ドイツの管制塔がストを起こし飛行機が飛ばないという。偶然空港会社に居合わせた9才の少女アリス(イエラ・ロットレンダー)とその母リザ(リサ・クロイツァー)に頼られて、出発までの世話を引き受けることになってしまったフィリップ。

ところが母親のリザが、アリスをフィリップに預けて姿を消してしまう。ニューヨークからアムステルダムに、そしてドイツのヴッパタールにと、アリスの祖母の家を探し求める旅が始まった。

ヴェンダースの<ロード・ムービー>が誕生した記念すべき第1作目。音楽を担当したのはCAN。冒頭でフィリップがうたう「アンダー・ザ・ボードウォーク」を始め、ジューク・ボックスから流れるキャンド・ヒートの「オン・ザ・ロード・アゲイン」、チャック・ベリーのライブ、そしてシビル・ベイヤーの「ソフトリー」…。旅には、必ず音楽が寄り添う。

(1975年 ドイツ 104分)
■監督 ヴィム・ヴェンダース
■原作・脚本 ペーター・ハントケ
■出演 リュディガー・フォグラー/ハンナ・シグラ/ナスターシャ・キンスキー/H・C・ブレッヒ/ペーター・ケルン/リサ・クロイツァー

2008年10月18日から10月24日まで
 ★「都会のアリス」と二本立て上映

北海からエルベ川が流れ込む河口に近い、グリュックシュタットの小さな町。広場に面した一室で、トロッグスの「アイ・ジャスト・シング」のレコードを聴きながら窓ガラスを破る青年ヴィルヘルム(リュディガー・フォーグラー)。

物語を書きたいのに書けないでいる彼に、母(マリアンネ・ホッペ)は、金を工面して旅立たせようとする。ガールフレンドのジャニーヌ(リサ・クロイツァー)に別れを告げ、ヴィルヘルムは母に送られてボン行きの列車に乗った。母が用意してくれた旅行鞄には、アイヒェンドルフの『愉しい放浪児』とフローベールの『感情教育』が入っていた。

旅の途中、ナチスの影を引きずる老人ラエルテス(H・C・ブレッヒ)、口がきけない少女ミニョン(ナスターシャ・キンスキー)、女優のテレーゼ(ハンナ・シグラ)、自称詩人のランダウ(ペーター・カーン)らに出会い、ともに旅を進めることになるが…。

ヴィム・ヴェンダース長編第5作目であり、'74の『都会のアリス』に次ぐヴェンダースの<ロード・ムービー3部作>、第2作目。原題「FALSECHE BEWEGUNG」は“誤った動き”という意味。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』を土台にし、19世紀ロマン主義の風土を現代に捉えなおした作品。

★本編はカラーです

(1976年 ドイツ 176分)
■監督・脚本 ヴィム・ヴェンダース
■出演 リュディガー・フォグラー/ハンス・ツィッシュラー/リサ・クロイツァー/ルドルフ・シュントラー

2008年10月25日から10月31日まで
 ★「アメリカの友人」と二本立て上映

映画館を巡回して映写機を修理し点検する技師ブルーノ・ヴィンター(リュディガー・フォグラー)は大型ワゴンを運転して、東ドイツの国境に近い町から町をひとりで気ままに旅している。

朝の静けさのなか、一日を始めようとしているブルーノの目の前を、フォルクスワーゲンで<カミカゼ>のように疾走してエルベ川に飛び込んだのはローベルト・ランダー(ハンス・ツィッシュラー)。

出会ったふたりはワゴンでともに旅を始める。最初は互いに関心を持つことを避けながら、しかし段々に互いを知り合い、互いのオリジンにまで旅を深めながら、東西ドイツ国境の立入禁止地区、ノーマンズランドの米軍監視所に至る…。

『都会のアリス』、『まわり道』に続き、ヴェンダースの<ロード・ムービー3部作>を完結させた集大成。’75年7月1日から10月31日まで、東ドイツとの国境沿いに撮影が行われた。

ドイツ語原題は「時の流れのままに」。これは『まわり道』で、旅に出る前のヴィルヘルムが寝言でつぶやいた言葉と同じである。

(1977年 西ドイツ・フランス 126分)
■監督・脚本 ヴィム・ヴェンダース
■原作 パトリシア・ハイスミス
■出演 デニス・ホッパー/ブルーノ・ガンツ/ジェラール・ブラン/ダニエル・シュミット/ニコラス・レイ/リサ・クロイツァー

2008年10月25日から10月31日まで
 ★「さすらい」と二本立て上映

ニューヨーク。老画家(ニコラス・レイ)のもとに、トム・リプレー(デニス・ホッパー)が訪れる。ポガッシュと名乗る老画家は、トムの注文で死んだはずの画家デルワットの“晩年の”画を描き続けており、トムはそれをヨーロッパの美術商の競売に忍び込ませて売りさばいているのだった。

ハンブルグ。トムが額縁職人ヨナタン(ブルーノ・ガンツ)を知ったのは美術商ガントナーの画廊でのオークションの最中だった。画商アランがトムにささやく――「腕の良い額縁職人だが、白血病で長くない。治療に莫大な金がいる。妻が私のところで働いているが」。

トムのいかがわしい仲間ミノ(ジェラール・ブラン)が、顔を知られる恐れのない素人を殺し屋に探し求めるところから、ヨナタンが物語の中心人物として動き始める。トムの計画はパリでは成功するが、ハンブルグ、ミュンヘンと、友情に深入りすればするほど、完全犯罪の歯車は狂い始める…。

主演のデニス・ホッパーをはじめ、ジェラール・ブランにニコラス・レイ、サミュエル・フラー、ダニエル・シュミット、ペーター・リリエンタール、ジャン・ユスターシュ、サンディー・ホワイトロー…。総勢8人もの映画監督が出演するという、驚異的なキャスティング。

“この作品のすべてが、私にとってはアメリカ映画についての過去へのまなざしでもあるのです。”とヴェンダースは語る。

★本編はカラーです

作品の質感や映像の豊かさとは別に、作り手の思いを認めることができたとき、
<このひとの作る映画が好きだなあ>と感じる。
映画の随所に現れる、先人への敬意。映画への愛。音楽への熱。
ヴェンダースの映画からは、そんな作り手のまなざしがひしひしと伝わってくる。

わたしたちは一生のうちで、一体何本の素晴らしい映画に出会うことができるだろう。
世間や批評家の評価ではなく、自分の身体に一致する、友となる映画。
道しるべと言うよりも、ただ黙ってそばにいてくれるような、そんな映画。

ヴェンダースの映画は、友人のような映画なのではないか。そう思う。

映画はわたしたちのこころに光を届けてくれる。
映画がある限り、映画館がある限り、映画を伝えようとしているひとたちがいる限りは。

映画を観たあと、あなたの目の前の道がひらくことを願っています。

(sone)

写真提供:フランス映画社


このページのトップへ