ヒトラー〜最期の12日間〜
DOWNFALL
(2004年 ドイツ/イタリア 155分)
2006年8月26日から9月1日まで上映
■監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル
■原作 ヨアヒム・フェスト『ヒトラー 最期の12日間』 / トラウドゥル・ユンゲ『私はヒトラーの秘書だった』
■脚本 ベルント・アイヒンガー
■出演 ブルーノ・ガンツ(『ベルリン・天使の詩』『永遠と一日』) / アレクサンドラ・マリア・ラーラ / ユリアーネ・ケーラー
■2004年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
(C)GAGA communications inc.1942年、ミュンヘン出身の若き女性トラウドゥル・ユンゲはナチス総統アドルフ・ヒトラーの個人秘書の職に就く。その2年半後、1945年4月20日、ベルリン。ソ連軍の砲火から身を守るために、ヒトラーは側近達と共に地下要塞へと退却する。そんな中にユンゲもいた。ソ連軍の猛攻により、戦況は日毎に悪化していく。1945年4月31日、アドルフ・ヒトラー自殺。全てを目撃した秘書ユンゲが今明かす、衝撃の真実とは…。
本作には、戦争映画にありがちな派手な戦闘や、美しき友情劇、必死で誰かを守りぬく感動の涙などはほとんど無い。その舞台の大半が、薄暗く澱んだ死臭のような空気の漂う地下要塞で展開する。
そしてここで、第三帝国の崩壊に至るまでの人間模様が淡々と、まるでドキュメンタリーを見てるかのように物語は進んでいく。そのありのままを映し出すカメラが、今まで怪物として描かれてきたヒトラーや側近たちに人間味を出していく。
しかし、今作はヒトラーの人間性がテーマでは決してない。一番描きたかったのは第三帝国というナチス組織の崩壊模様である。この組織崩壊を描くために、ヒトラーの人間としての面が必要だったのだと私は思う。
オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督は、終わりの近づく足音が聞こえたときの、人間達の悲しき最期、崩壊していくものの美しさを見せたかったのではないのだろうか。
(パンプキン)
白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々
SOPHIE SCHOLL - DIE LETZTEN TAGE
(2005年 ドイツ 121分)
2006年8月26日から9月1日まで上映
■監督 マルク・ローテムント
■脚本 フレート・ブライナースドーファー
■出演 ユリア・イェンチ / アレクサンダー・ヘルト / ファビアン・ヒンリヒス
■2005年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
(C)Jurgen Olczyk1943年、ドイツ。スターリングラードの大戦に敗れ、後戻りの出来ない苦境に立たされていることを政府はひた隠しにし、国民はヒトラー率いるナチスの恐怖政治に対して疑念を日に日に濃くしていたが、誰もそれを口には出せなかった。そんな時代に生まれた、ゾフィー・ショル21歳。目に映るもの全てに興味を抱き、人生を謳歌するごく普通の女学生。
ある日、ゾフィーは、その身に勇気を携えて、仲間と共にある行動を起こす。「打倒、ヒトラー」そう呼びかけるビラを大学中に撒いたのだ。運悪くその場で捕まえられたゾフィー達は、厳しい尋問を受けることになる。そして三日間という異例の速さで下された判決は、やがて全てのドイツ国民の心を揺さぶる事件になった…。
この映画は、ヒトラーの独裁政権時代に、ヒトラー打倒を市民に呼びかけた「白バラ」と呼ばれる実在のグループをモデルにした、史実に基づく映画である。
たくさんの映画があって、その中には死の風景を描いたものもたくさんある。処刑台に向かうゾフィーの姿は本当に清々しかった。
「今まで私がしてきた決断は全て正しかった。生きてきた中で無駄な時間なんて少しもなかった。愛情も恩恵も浴びるほど受けた。だからこれから自分の身に起こることも、受け入れて当然のこと」
そういう、恐いくらいまっすぐな言葉が聞こえてきそうな背中だった。これから他人の手で命を絶たれようという時に、人はこんな風に美しくいられるのか。
きっとゾフィーにとっては、それこそが完璧な自由への解放だったのだろう。21年間の人生に自らの意志で幕を下ろしたゾフィーの瞳は、これから光の海へ放される魚のように澄んで、ゆっくりと細められた。
(猪凡)