デヴィッド・ロウリー×デヴィッド・ロバート・ミッチェル 現代映画の徴(サイン)

ぽっけ

映画を観ていると、ふいにとてつもない寂しさに憑りつかれることがある。
スクリーンの向こうに広がるもう一つの世界。他の観客の中にいる自分の現実世界。この二つの世界をつなぐ窓が開いているのは映画が上映されているこの瞬間だけなのに、そこに飛び込むことも、扉を開いたままにしていくことも私たちにはできない。

「目が覚めた時に、いつも扉が閉まる気配がする」―ヴァージニア・ウルフ

この美しい引用から始まる『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』が、近年の映画には稀に見る静けさと共に私たちに届けてくれるのは、映画を観ている自分と似た、一人のゴーストの姿なのかもしれない。

無慈悲にも突然の交通事故で命を失った主人公Cが、シーツをかぶったゴーストとして立ち上がり、自分の存在に気づいてもらえないまま、去っていく恋人の姿を見つめるとき。誰もいない部屋の中で悠久の時間をたった一人で過ごす間、(すでに消えているのに)消えてしまいたい気持ちになりながら彼はそこに立ち続ける。彼と、彼が見つめるこの世界は存在していると言えるのだろうか。

セレブと貧しいアーティストたちが混在するL.A.のシルバーレイクという街、そのポップカルチャーの奈落で『アンダー・ザ・シルバーレイク』のオタク青年サムが目覚めたとき、まるでゲームや映画から抜け出したようなシチュエーションが次々と目の前に現れる。

夢か妄想か、裏窓から中庭のプールを双眼鏡で覗いて見染めた美女は一夜にして姿を消してしまった。そこに残された謎めいた暗号。それを手掛かりにフィリップ・マーロウばりに調査をすれば、新興宗教や死のカルト教団の存在が露になっていく。謎が謎を呼び、伝染病のように情報がつらなっていくいかがわしさ。偶然にしては出来すぎた『ラ・ラ・ランド』とは真逆のハリウッドの悪夢。真実が最も見つけにくいこの時代、この街で、サムはこの物語の豊かな広がりに心を掴まれてしまった。

国際情勢の不安の中、発達したメディアによって色んな事が把握しやすくなった一方で、本当の事がわかりづらくなった現代。自分の存在の不安、世界の存在の不安、藁にも縋るようにそこにある真実を掴もうとするわたしたちにも似た彼らの姿。その姿を見つめている間中わたしたちの心に妙な心地よさを伴いながら去来する、宇宙を漂流するようなこの得体のしれない寂しさ、空しさはなんだろう。だけど、きっと<それ>に気づいているのは自分だけじゃない。映画はそのことだけを報せて、スクリーンから離れた私を再び、存在するかもわからないこの世界へと立ち向かわせてくれる。

A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー
A GHOST STORY

開映時間 ※上映は終了しました
デヴィッド・ロウリー監督作品/2017年/アメリカ/92分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・編集 デヴィッド・ロウリー
■撮影 アンドリュー・ドロス・パレルモ
■音楽 ダニエル・ハート

■出演 ケイシー・アフレック/ルーニー・マーラ

■2017年シッチェス カタロニア国際映画祭撮影賞・カルネー・ホベン賞受賞/サンダンス映画祭観客賞ノミネート/インディペンデント・スピリット賞ジョンカサヴェテス賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

© 2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

【2019年4月20日から4月26日までの上映】

これは、時をかけ、愛を確かめ、魂を浄化させていく「死の先」にある物語―。

田舎町の小さな一軒家に住む若い夫婦のCとMは幸せな日々を送っていたが、ある日夫Cが交通事故で突然の死を迎える。妻Mは病院でCの死体を確認し、遺体にシーツを被せ病院を去るが、死んだはずのCは突如シーツを被った状態で起き上がり、そのまま妻が待つ自宅まで戻ってきた。Mは彼の存在には気が付かないが、それでも幽霊となったCは、悲しみに苦しむ妻を見守り続ける。しかしある日、Mは前に進むためある決断をし、残されたCは妻の残した最後の想いを求め、彷徨い始める―。

自分のいなくなった世界で、愛する妻を想い彷徨う 実力派俳優と監督による斬新なファンタジー

『ムーンライト』『レディ・バード』など、刺激的な作品を次々と打ち出し続ける気鋭映画製作スタジオA24。今、世界の映画界から最も注目浴びるスタジオが今回描くのは、斬新ながらもどこか懐かしさを感じさせるシーツ姿の幽霊が主人公の物語。死んでもなお、愛する妻への想いを胸に、何十年もの時を彷徨い続ける幽霊の旅路を、切ない音楽とともに紡ぎ出し、サンダンス映画祭の観客賞を筆頭に、世界各国の映画祭でノミネート&受賞した。

監督はディズニー映画『ピートと秘密の友達』のデヴィッド・ロウリー。今後も続々と公開作が決定しているアメリカの俊英だ。不慮の事故死を遂げ、シーツ姿の幽霊となって彷徨い続ける夫を演じるのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したケイシー・アフレック。夫に先立たれた妻を演じるのは『キャロル』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したルーニー・マーラ。ふたりはロウリー監督の過去作『セインツ -約束の果て-』でも共演している。

アンダー・ザ・シルバーレイク
UNDER THE SILVER LAKE

開映時間 ※上映は終了しました
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作品/2018年/アメリカ/140分/DCP/R15+/シネスコ

■監督・製作・脚本 デヴィッド・ロバート・ミッチェル
■撮影 マイケル・ジオラキス
■編集 ジュリオ・C・ペレッツ4世
■音楽  リッチ・ヴリーランド

■出演 アンドリュー・ガーフィールド/ライリー・キーオ/トファー・グレイス/ゾーシャ・マメット/キャリー・ヘルナンデス/パトリック・フィクスラー/グレイス・ヴァン・パタン/ジミ・シンプソン

■第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品

© 2017 Under the LL Sea, LLC

【2019年4月20日から4月26日までの上映】

この街は、何かに操られている。

“大物”になる夢を抱いて、L.A.の<シルバーレイク>へ出てきたはずが、気がつけば職もなく、家賃まで滞納しているサム。ある日、向かいに越してきた美女サラにひと目惚れし、何とかデートの約束を取り付けるが、彼女は忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。折しも、大富豪や映画プロデューサーらの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没し、街を操る謎の裏組織の存在が噂されていた。暗号にサブリミナルメッセージ、都市伝説や陰謀論をこよなく愛するサムは、無敵のオタク知識を総動員して、シルバーレイクの下にうごめく闇へと迫るのだが―。

『イット・フォローズ』の監督が放つ、<新感覚>ネオノワール・サスペンス!

クエンティン・タランティーノ監督に、「こんなホラーは観たことがない」と言わしめた『イット・フォローズ』に、日本でも中毒者が続出したデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督。今度は、セレブやアーティストたちが暮らすL.A.の街<シルバーレイク>を舞台に、消えた美女を探すうちに、街の裏側に潜む陰謀を解明することになるオタク青年の暴走と迷走を描く。

主人公のサムには、『ハクソー・リッジ』でアカデミー賞にノミネートされたアンドリュー・ガーフィールド。彼が行方を追うサラには、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』のライリー・キーオ。

デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を頂点とする、妖しいL.A.奇譚の系譜を引き継ぎながら、幻想的な映像と天才的に斬新なアイディアで、“私たちは誰かに操られているのではないか”という現代人の恐れと好奇心に迫る、ネオノワール・サスペンスが誕生した。