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メルヴィル

■監督 デヴィッド・リンチ

1946年アメリカ・モンタナ州生まれ。

いくつかの美術学校で絵画や映像制作を学び、映画『イレイザーヘッド』(76)で監督デビュー。その不気味で不可解な自主映画は全米で話題となり、独立系映画館の深夜上映にもかかわらずロングランヒットする。当時、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エル・トポ』(70)や、ジョン・ウォーターズ監督の『ピンク・フラミンゴ』(72)、ジム・シャーマン監督の『ロッキー・ホラー・ショー』(75)と並び、ポップカルチャーに大きな影響を与えた作品として「ミッドナイト・カルト」と呼ばれ、一部の観客たちに熱狂的に支持された。

次作『エレファント・マン』(80)はアカデミー作品賞にノミネート、『ブルーベルベット』(86)ではアカデミー監督賞にノミネートされる。『ワイルド・アット・ハート』(90年)では、カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞。『マルホランド・ドライブ』(01年)でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞する。2017年、前作から25年後の世界を描く新作「ツインピークスThe Return」を発表し大きな注目を集めた。

映画のみならず現代アートや音楽の分野でも活躍し、2010年には、美術界において権威のある「Goslar Kaiserring award for 2010」を受賞した。

2017年に監督引退を公言。今後の動向が注目されている。

Filmography

・イレイザーヘッド(76)
・エレファント・マン (80)
・砂の惑星 (84)
・ブルーベルベット (86)
・パリ・ストーリー(TV)(88)
・ツイン・ピークス(TV)(89)
・ワイルド・アット・ハート(90)
・ツイン・ピークス(TV)(90-91)
・キング・オブ・アド (91)
・オン・ジ・エアー(TV)(91)
・ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間(92)
・デヴィッド・リンチのホテル・ルーム (92)
・クラム(94)※製作
・ナディア(94)※製作総指揮・出演
・デューン/スーパープレミアム[砂の惑星・特別篇](94)
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒(95)※オムニバスのうち一篇
・ロスト・ハイウェイ(97)
・ナイト・ピープル(97)※出演
・ストレイト・ストーリー (99) ・マルホランド・ドライブ(01)
・ダムランド(02)
・ザ・ショートフィルム・オブ・デイヴィッド・リンチ(02)
・ミッドナイトムービー(05)※出演
・インランド・エンパイア(06)
・それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜(07)※オムニバスのうち一篇
・ザ・ベスト・オブ・デイヴィッド・リンチ・ドット・コム(07)
・サベイランス(08)※製作総指揮
・狂気の行方(09)※製作総指揮
・デュラン・デュラン:アンステージド(11)
・我が美しき壊れた脳(14)※製作総指揮
・デヴィッド・リンチ:アートライフ(16)※出演
・ラッキー(17)※出演
・ツイン・ピークス The Return(TV)(07)

「これぞアメリカン・シュールレアリスムだ!」

リンチの出世作『ブルーベルベット』のDVD音声解説でデニス・ホッパーが言ったこの一言が強く印象に残っています。不条理で独創的な彼の作品ですが、その根本にあるのは意外にも彼が愛した黄金期のハリウッドや、健全なアメリカン・ウェイ・オブ・ライフのイメージです。多くの場合観客はその甘い夢の世界に陶酔させられますが、いつしかそこから浮かび上がる漆黒の闇に戦慄することになります。

しかし、その悪夢のような世界は戦争や人種差別といったリアルな病理から隔てられています。ファンタスティックで甘美ですらあるそんな危険な側面もまた(フィルムノワールやギャング映画が体現していたような)、かつてのアメリカのイメージの魅力と地続きにあるものだと思います。リンチ作品の根底にあるのは古き良きアメリカの記憶です。

それはかつて世界中の人々があこがれ、魅了されたものです。難解といわれるリンチ作品が驚くほどのポピュラリティーを得ているのは、そんなかつてのアメリカのイメージを現在でも多くの人たちが共有しているからだと思います。アメリカがかつての希望に満ちた国には見えなくなってしまった今、甘美な郷愁と戦慄へ誘うリンチワールドは私たちをより一層惹きつけるのです。

イレイザーヘッド
pic (1977年 アメリカ 89分 DCP ビスタ)
【上映日】9/22・24・26・28
■監督・製作・脚本・編集・美術・特殊効果・音響効果・作詞 デヴィッド・リンチ
■撮影 フレデリック・エルムズ
■撮影助手 ハーバート・カードウェル
■音楽 ピーター・アイヴァース

■出演 ジャック・ナンス/シャーロット・スチュワート/アレン・ジョセフ/ジャンヌ・ベイツ/ジュディス・アナ・ロバーツ/ローレル・ニア

©1977 David Lynch-All RightReserved.

5年かけて完成させ、カルト的な人気を得た、
衝撃の長編デビュー作

もじゃもじゃ頭の印刷工・ヘンリーは、ガールフレンドのメアリーから奇妙な赤ん坊を出産したと告白され、結婚を決意する。しかしメアリーが家を出てしまい、ひとり赤ん坊の世話をすることになったヘンリーの精神は次第に破綻していく…

リンチの名を世界に轟かせた大怪作。連続する悪夢のような場面に目がいきがちですが、普遍的な感情に訴えかけてくる切実な映画でもあります。製作直前のリンチは21歳の学生でありながら恋人の妊娠によって突然父親になっていました。本作にはその当時の不安な心境が投影されています。撮影は資金難のために5年にも及び、朝は新聞配達、夜はセットで寝泊まりして撮影する夫に耐えきれなくなった妻とは結婚一年目にして離婚。「就職しろよ」と諭されながら親に借金。安いからとずっと大豆を食べる日々がもたらす精神の荒廃と魂の絶叫が全編に塗り固められています。

「天国では全てうまくいく」は劇中で歌われる曲の歌詞ですが、裏を返せば「この世ではうまくいかないことばかり」という嘆きの歌であり、超現実的でいて身につまされる本作を象徴しています。泣けてきます。

エレファント・マン
pic(1980年 アメリカ/イギリス 124分 DCP シネスコ)
【上映日】9/22・24・26・28
■監督・脚本 デヴィッド・リンチ
■原作 フレデリック・トリーブス/アシュリー・モンタギュー
■脚本 クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン
■撮影 フレディ・フランシス
■音楽 ジョン・モリス

■出演 ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/アン・バンクロフト/サー・ジョン・ギールグッド/ウェンディ・ヒラー/フレディ・ジョーンズ

■1980年度アカデミー賞作品賞ほか主要8部門ノミネート/英国アカデミー賞3部門受賞3部門ノミネート

©1980 Brooksfilms Ltd.AllRightReserved.

「僕は動物じゃない!僕は人間だ!」
全世界に衝撃と感動を与えた出世作

19世紀末のロンドン、その特異な容姿ゆえ見世物小屋の"エレファント・マン"として暮らしていたジョン・メリックは、外科医トリーブスの研究発表をきっかけに世間の脚光を浴びることになった。しかし、メリックが望むことは、有名人になることでも、人々から同情されることでもなかった。彼の願いはただ一つ、人間らしく生きることであったが…。

本作はリンチらしからぬ英国を舞台にした感動作であり、その題材と怪奇映画タッチのバランスがしばしば議論の的になる作品です。とはいえ、異形の者の真の人間性は『フランケンシュタイン』『ノートルダムのせむし男』といった往年のハリウッドホラーの裏テーマであり、それらの作品の多くもヨーロッパが舞台に選ばれていたことを考えれば、本作は古典的なハリウッド映画のヨーロッパ趣味への見事なオマージュであり、リンチのフィルムグラフィに違和感なく収まる作品だと思います。英国怪奇映画の監督としても名高いフレディ・フランシスによる夢幻的な映像も素晴らしい名作です。

インランド・エンパイア
pic (2006年 アメリカ/ポーランド/フランス 180分 ブルーレイ ビスタ)
【上映日】9/22のみ
■監督・製作・脚本・撮影 デヴィッド・リンチ
■撮影 エリック・クレーリー/オッド・イエル・サルテル/オーレ・ヨハン・ロシュカ

■出演 ローラ・ダーン/ジェレミー・アイアンズ/ハリー・ディーン・スタントン/ジャスティン・セロー/ウィリアム・H・メイシー/ジュリア・オーモンド/ローラ・ハリング/裕木奈江

©2007 Bobkind Inc‐STUDIOCANAL. All Rights Reserved.

映画史を塗り変える3時間の陶酔
リンチ・ワールドの新境地にして集大成!

ハリウッド女優のニッキーは、主役2人が撮影中に謎の死を遂げ、製作中止となった作品で抜擢され再起を狙うが、やがて奇妙な世界が彼女の現実と交錯し始める…

現在までのところリンチ最後の劇場長編であり、昨年映画監督引退宣言を発表したので実際に最後の長編作品になる可能性が高い作品です。本作もまたかつてのハリウッドへのオマージュが核にありますが、それは憧憬というより、現在ではその夢の世界は完璧に失われ、形骸化しているという喪失感が映画全体に感じ取れます。あまりにも不可解なエピソードの数珠つなぎと全編のDVカメラ撮影による暴力的な映像、そしてリンチ自身によるノイズミュージックの轟音が観る者を包み込む圧倒的な映像体験。観る人が百人いたら百通りの解釈が生まれる、あまりにも謎めいた巨大モニュメントです。

本作と2017年発表のTVシリーズ「ツイン・ピークス The Return」を観れば、リンチの創造性が涸れるどころか更に凄まじいものになっていることは明らか。引退宣言を撤回し、今すぐにでも映画界に完全復帰して下さい!

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マルホランド・ドライブ
pic (2001年 アメリカ/フランス 147分 DCP ビスタ)
【上映日】9/23・25・27
■監督・脚本 デヴィッド・リンチ
■撮影 ピーター・デミング
■編集 メアリー・スウィーニー
■音楽 アンジェロ・バダラメンティ

■出演 ナオミ・ワッツ/ローラ・エレナ・ハリング/ジャスティン・セロー/アン・ミラー/ロバート・フォスター

©2001 STUDIOCANAL.AllRightsReserved.

わたしのあたまはどうかしている
カンヌ映画祭ほか世界で絶賛された
妖しく危険なミステリー

犯罪とロマンスに満ちたあてどない道、マルホランド・ドライブ。そこで事故が発生する。女優への夢に胸膨らみハリウッドにやってきた金髪の純真な女性ベティは、事故で記憶を亡くした黒髪の魅惑的な女性と出会い、彼女の記憶をたどる手助けをはじめる。名前をなくしてしまった女性はいったい…。

ビリー・ワイルダー監督の名作『サンセット大通り』を下敷きにした本作は、リンチの集大成的な作品であり、名実ともに彼の最高傑作です。長年のオブセッションであるハリウッドの光と闇、甘い幻想と残酷な現実が今まで以上に鮮烈なコントラストで描かれただけでなく、劇中で女優の卵 ベティを演じたナオミ・ワッツが、映画の展開そのままに本作をステップにして実際にハリウッドスターになってしまった、という(もしかしたらリンチの思惑すら超えた)奇跡を起こしてしまったからです。その奇跡は本作の虚実をさらに曖昧にし、蠱惑的なものにしました。

リンチが映画史に残した最高にエレガントでエロティックな悪夢の世界。英BBCによって 21世紀の映画ベスト1に選ばれた文句なしの歴史的傑作。21世紀の映画は真にここから始まったのです。

ロスト・ハイウェイ
pic(1997年 アメリカ/フランス 135分 ブルーレイ シネスコ)
【上映日】9/23・25・27
■監督・脚本 デヴィッド・リンチ
■脚本 バリー・ギフォード
■撮影 ピーター・デミング
■音楽 アンジェロ・バダラメンティ

■出演 ビル・プルマン/パトリシア・アークエット/バルサザール・ゲティ/ロバート・ブレイク/ロバート・ロジア/ジャック・ナンス

©1997 LosthighwayProductions

それは、1本のビデオテープとともにやって来た

ジャズ・ミュージシャンのフレッドは、ある朝インターコムから響く「ディック・ロラントは死んだ」という謎の声に起こされた。ドアの向こうには誰もいない。そしてその翌日から、彼の元にビデオテープが届き始める。1本目には彼の家の玄関が、2本目には寝室が、そして最後に届けられたテープには、彼が妻のレネエを惨殺する様子が収録されていた…。

ハイウェイの路面を疾走し続けるオープニングに被さるデヴィッド・ボウイ「アイム・ディレンジド」…いきなり脳髄に突き刺さるような強烈なオープニングに導かれる、今まで以上に不条理でつじつまが合うようで合わない、謎めいて最高に「いかがわしい映画。」(これがVHS版のキャッチコピーでした)。

トレント・レズナー、ラムシュタインがサウンドトラックに参加、マリリン・マンソンもカメオ出演するなどリンチをリスペクトするアーティストたちの参加も豪華な、早すぎた21世紀のフィルムノワール。近年では『6才のボクが、大人になるまで。』のお母さん役が印象的だったパトリシア・アークエットの絶頂期を目に焼き付けましょう。あと個人的にはナターシャ・グレッグソン・ワーグナーが最高です。この名前、覚えて帰って下さい。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間
pic (1992年 アメリカ/フランス 135分 DCP ビスタ)
【上映日】9/23のみ
■監督・製作総指揮・脚本 デヴィッド・リンチ
■脚本 ロバート・エンゲルス
■撮影 ロン・ガルシア
■音楽 アンジェロ・バダラメンティ

■出演 シェリル・リー/レイ・ワイズ/ダナ・アッシュブルック/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/キーファー・サザーランド

©1992 TwinPeaksproductions.AllRightsReserved.

世界一美しい死体となる女子高校生の
最期の7日間の秘密を描く、傑作ミステリー

2017年に新シリーズが放映されたことでも話題になったリンチ製作の伝説のTVシリーズ『ツイン・ピークス』の前日譚を描いた劇場版です。タイトルが示すとおり、一話目で死体として発見される美少女 ローラー・パーマーの生前最期の日々が描かれるのですが、ドラマのスピンオフ故なのか、リンチの意外にベタなギャグセンスが悪乗り気味に繰り出される、結構な怪作になっています。ドラマを観ていた人でさえ驚くカオスな内容のため、ドラマを観ていない人でもリンチらしいよくわからなさはよくわかって楽しめるという、間口の広い親切設計。爆笑必死のデヴィッド・ボウイ出演場面をお見逃しなく!

(ルー)

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