カリフォルニア州、サクラメント。
17歳のクリスティンが「文化のある」東海岸の大学に行きたいと言い、地元の大学に行かせたい母親と大げんかするところから始まる『レディ・バード』。
少しとんがった彼女は自分を「レディ・バード」と名づけて周りに呼ばせたり、学校で有志のミュージカルに参加してみたり、「人とは違う自分」を模索中。
希望や不安が入り混じる将来のこと、親友との喧嘩、クラスのイケてる子たちとの距離感、2人のボーイフレンド、そして事あるごとにぶつかってしまう母親との関係…レディ・バードの高校最後の1年間はめまぐるしく過ぎていく。
『レディ・バード』で描かれるのは、誰もが経験したことのある出来事や感じたことのある気持ちだ。恋愛だけでもなく、友達のことだけでも、家族のことだけでもない、実際の青春時代は、その全部が同時進行で起こってる。そして当たり前だけれど「毎日の生活」がある。監督のグレタ・ガーウィグの自伝的要素が色濃く反映された本作は、特別ではないささいな瞬間を丁寧に掬い取る。台詞や小道具、音楽のひとつひとつに、飾りっ気のない、でも愛すべき「リアル」が宿っているのだ。
フロリダ州、オーランド。ディズニーワールドのある街。
『フロリダ・プロジェクト』の6歳の女の子ムーニーは若い母親ヘイリーと安モーテル暮らし。定職のないヘイリーは宿泊代を払うのもギリギリで、いまにもホームレス一歩手前だ。だけど、大好きなママや友だちと過ごすムーニーの毎日はカラフルで楽しそう。照りつけるフロリダの青空が眩しくて、厳しい状況が時には不思議とキラキラ見えてしまう。
けれど、かつてウォルト・ディズニーが「誰もが安心して暮らせる理想都市」を作ろうと計画された夢の国のすぐ隣で、彼女たちの「家がない」という現実の問題は容赦なく降り注ぐ。愛するムーニーと一緒にいるため、プライドを捨てて日銭を稼ぐヘイリー。盗んだマジックバンド(ディズニーワールドの入場するためのチケット)を観光客に格安で売る彼女の姿はとても生々しい。そう、これはすべて「リアル」なのだ。アメリカという大きな国の片隅で、ともすると見逃されてしまいそうな人たちに、監督のショーン・ベイカーはカメラを向ける。
豊かな国、強い国だったはずのアメリカ。でも、最近のアメリカ映画で描かれるアメリカはちょっと違う。『トップガン』のトム・クルーズみたいなバリバリのヒーローはあまり出てこない。かわりに(?)やりたいことがあるようでどうも上手くいかないアラサーのフリーターとかが主役だったりする。安アパートで暮らし、スリフトショップで服を買う。つまり、とても身近な「私の話じゃん!」というやつだ。
非日常だった「アメリカ」が、自分の生活と地続きに感じるようになった。そういう「普通」の人たちを描くアメリカ映画が多くなった気がする。でも「普通」の人たちの、なんてことない日々の一瞬一瞬にこそドラマがあるのだ。ありふれた文句に聞こえるけれど、今週の上映作品を観れば、本当にそうなのだと思うはず。そして、その日々がどれだけかけがえの無いものなのかという事にも気付かせてくれる。
レディ・バード
Lady Bird
(2017年 アメリカ 94分 ビスタ)
2018年11月17日から11月30日まで上映
■監督・脚本 グレタ・ガーウィグ
■撮影 サム・レヴィ
■編集 ニック・ヒューイ
■音楽 ジョン・ブライオン
■出演 シアーシャ・ローナン/ローリー・メトカーフ/トレイシー・レッツ/ルーカス・ヘッジズ/ティモシー・シャラメ/ビーニー・フェルドスタイン/スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン/ロイス・スミス
■2018年ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演女優賞受賞/アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞・脚本賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート
©2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24
2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、大都会ニューヨークへの大学進学を夢見るクリスティン(自称レディ・バード)。高校生活最後の1年、友達や彼氏や家族について、そして自分の将来について、悩める17歳の少女の心情は揺れ動く。やがて「レディ・バード」が出した答えとは――
全米4館から1557館まで拡大公開され、5週連続トップ10入りのスマッシュヒット。米レビューサイト「ロッテン・トマト」ではサイト史上最も多くの批評家から高評価を獲得。今年のゴールデン・グローブ賞では作品賞と主演女優賞を受賞、アカデミー賞でも5部門ノミネートという快挙を達成した『レディ・バード』。
監督・脚本を務めるのは、本作で念願の単独監督デビューを果たした『フランシス・ハ』『20センチュリー・ウーマン』の個性派女優グレタ・ガーウィグ。自伝的要素を反映させたオリジナル脚本で、大人と子供の間でさまようティーンエイジャーの懸命な姿や、母と娘のすれ違う関係性を丁寧に描き出した。
痛々しくも愛すべき主人公レディ・バードを演じるのは、『つぐない』『ブルックリン』のシアーシャ・ローナン。シアーシャと母親マリオンを演じたローリー・メトカーフは共にアカデミー賞女優賞にノミネートされた。そのほか、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズと『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメといういま最も旬な俳優がレディ・バードのボーイフレンドを演じているのも見逃せない。
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
The Florida Project
(2017年 アメリカ 112分 シネスコ)
2018年11月17日から11月30日まで上映
■監督・編集 ショーン・ベイカー
■製作 ショーン・ベイカー/クリス・バゴーシュ/シン=チン・ツォウ ほか
■脚本 ショーン・ベイカー/クリス・バゴーシュ
■撮影 アレクシス・サベ
■音楽 マシュー・ヒーロン=スミス
■出演 ウィレム・デフォー/ブルックリン・キンバリー・プリンス/ブリア・ヴィネイト/ヴァレリア・コット/クリストファー・リヴェラ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
■2018年アカデミー賞助演男優賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞助演男優賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート
©2017 Florida Project 2016, LLC.
6歳のムーニーと母親のヘイリーは定住する家を失い、“世界最大の夢の国”フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルで、その日暮らしの生活を送っている。シングルマザーで職なしのヘイリーは厳しい現実に苦しむも、ムーニーから見た世界はいつもキラキラと輝いていて、モーテルで暮らす子供たちと冒険に満ちた楽しい毎日を過ごしている。しかし、ある出来事がきっかけとなり、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく…。
全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』で世界中を驚愕させたショーン・ベイカーが、今度は35mmで撮影した待望の最新作。フロリダの眩いほど鮮やかなブルーの空、モーテルのピンクやパープル――どこか現実離れしたカラフルな世界で、その日暮らしを送るシングルマザーと6歳の娘の破天荒な生活、そして同じくモーテルで暮らす人々のひと夏の物語を少女の視点から描き出す。
最強にキュートなムーニーを演じるのは、天才子役ブルックリン・プリンス。ヘイリー役には監督がインスタグラムで発掘し、初演技とは思えない存在感を放つブリア・ヴィネイト。さらに二人を見守るモーテルの管理人のボビーを、名優ウィレム・デフォーが好演しいてる。