『20センチュリー・ウーマン』はマイク・ミルズ監督自身の母をモデルに描いた「母と息子」の物語。 母ドロシアは55歳。シングルマザーで、仕事もバリバリな彼女でしたが、 思春期の真っ只中で反抗期を迎えた15歳の息子ジェイミーのことがさっぱり分からなくなっていました。 そこで、2人の女性、24歳のアビーと17歳のジュリーに息子の後見人になってほしいとお願いします。 自分よりも歳の近い彼女たちなら、ジェイミーの助けになれる、よき理解者になれると思ったのです。
私は映画を観る前、自分とはほど遠い世界の話だと思っていました。
アートカルチャーを牽引するマイク・ミルズ監督の作品だから、ただただ憧れを抱くような、おしゃれな世界が広がるのかなと。
でも、想像していたよりも、はるかに身近な物語でした。
15歳の息子ジェイミーは母に反抗的で、でも母の一番の理解者だと自負しているような、そんな姿に、過去の自分を重ねたり。
母ドロシアの葛藤が、もしかしたら私の母にもあったのかななんて想いを巡らせたり。
これから訪れるかもしれない子育てまでをも想像したり。
夢と現実の狭間で人生を模索中のアビーの姿に勇気をもらったり。
悩みながらも自由奔放に、しなやかに生きるジュリーには、もう戻れない少女時代を羨んだり。
マイク・ミルズ監督は、母と息子の物語を描いていると同時に、 1979年という時代の転換期を生きた、「20世紀の女性たち」を、とっても魅力的に描いています。 そして、彼女たちと特別な時間を過ごし、いろんなことに影響されたジェイミー(つまりミルズ監督)は、 大人になったら、こんなにステキな映画を撮るのかと思うと、胸が熱くなったのです。 私にもそんな特別な時間があったかなと、思わず振り返ってしまいました。
一方、ウディ・アレン監督が贈る『カフェ・ソサエティ』は、 とびきりのロマンティックでほろ苦い大人のラブコメディに仕上がっております。 舞台は1930年代、黄金期のハリウッド。青年ボビーは、美女ヴェロニカ(愛称ヴォニー)に一目ぼれ。 紆余曲折を経て交際をはじめるも、残念ながらフラれてしまうボビー。 失意のなか故郷NYへと戻った彼でしたが、そこで運命の女性と出会い、結婚。なんと、その名はヴェロニカ! しかし、運命のいたずらはまだまだ終わらない! 月日が流れ、幸せに過ごすボビーの前に、あのヴォニーが現れて…
という、あらすじだけでも皮肉たっぷりです。 生きていると、ことに、恋愛においてはたくさん出会う「もしかして」。 もし、あの時違う選択をしていたなら…なんて、誰しもがきっと一度は頭をよぎるこの「もしかして」を、 ウディ・アレン監督はキラキラ物語には留めません。 二つ選ぼうだなんて欲張ってはいけないのです。どっちを選んだって、行き着く先は結局おなじ。 それでも、彼らが「もしかして」に希望を持つのは、二人で過ごした特別な時間があったから。 その過去の輝きに執着していたら、たとえその先で幸せな道を歩んでいたとしても、なぜかくすんでしまうのです。
「あの時代はずっと僕を魅了し続けている」と語るアレン監督。 彼自身の郷愁と憧れを描いたこの物語は、いつまでも“あのころ”に寄りかかっている足踏みさんたちに、 特別な時間を糧にして、前に進めばよいのだと、助言してくれているかのようです。
良くも悪くも、今の自分を生かすのは、“あのころ”の自分にほかなりません。 時代は巡り、いろんなものに影響されて、今につながっているのです。 こうして映画に影響される私が、明日を生き、未来につながるように。 どんなに時が流れても、あのころ過ごした特別な時間が、なくなることはないのです。 それって、とてもステキなことだと思いませんか。
(もっさ)
カフェ・ソサエティ
Cafe Society
(2016年 アメリカ 96分 ビスタ)
2017年10月21日から10月27日まで上映
■監督・脚本 ウディ・アレン
■撮影 ヴィットリオ・ストラーロ
■編集 アリサ・レプセルター
■衣装 スージー・ベンジンガー
■出演 ジェシー・アイゼンバーグ/クリステン・スチュワート/ブレイク・ライブリー/スティーヴ・カレル/コリー・ストール/パーカー・ポージー/ケン・ストット/ジーニー・バーリン
Photo by Sabrina Lantos
© 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
もっと刺激的で、胸のときめく人生を送りたい。漠然とそんな願望を抱いたニューヨークの平凡な青年ボビーがハリウッドを訪れる。時は1930年代、この華やかなりし映画の都には、全米から明日の成功をめざす人々が集まり、熱気に満ちていた。映画業界の大物エージェントとして財を築いた叔父フィルのもとで働き始めたボビーは、彼の秘書ヴェロニカ“愛称ヴォニー”の美しさに心を奪われる。ひょんな幸運にも恵まれてヴォニーと親密になったボビーは、彼女との結婚を思い描くが、うかつにも彼はまったく気づいていなかった。ヴォニーには密かに交際中の別の男性がいたことに…。
大ヒットを記録した『ミッドナイト・イン・パリ』で真夜中のパリに魔法をかけたウディ・アレンの最新作は、観る者を黄金時代のハリウッドへと誘うロマンティック・コメディ。ひとりの男とふたりのヴェロニカ、彼ら3人のもつれた恋の成り行きを通して、誰しもが共感できる“夢”や“人生の選択”といったテーマを探求していく。思わず目からウロコが落ちるアレン流の恋愛観や人生観を、シニカルなストーリー展開やユーモアで魅了する。
主人公の青年ボビーを演じるのは、これが『ローマでアモーレ』に続く2本目のアレン作品となるジェシー・アイゼンバーグ。そして、『パーソナル・ショッパー』のクリステン・スチュワ−ト、『ロスト・バケーション』のブレイク・ライブリーがダブル・ヒロインを演じている。また、撮影監督をこれがアレンとの初タッグとなる、『地獄の黙示録』『ラスト・エンペラー』の名匠ヴィットリオ・ストラーロが務め、ゴージャスで艶やかな魅惑のビジュアルを創りあげた。さらに、クリステンがブランド・ミューズを務めるシャネルが衣装提供しているのも見逃せない。
20センチュリー・ウーマン
20TH CENTURY WOMEN
(2016年 アメリカ 119分 ビスタ)
2017年10月21日から10月27日まで上映
■監督・脚本 マイク・ミルズ
■撮影 ショーン・ポーター
■編集 レスリー・ジョーンズ
■衣装 ジェニファー・ジョンソン
■音楽 ロジャー・ニール
■出演 アネット・ベニング/エル・ファニング/グレタ・ガーウィグ/ルーカス・ジェイド・ズマン/ビリー・クラダップ
■2016年アカデミー賞脚本賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演女優賞ノミネート ほか多数ノミネート
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1979年夏、カリフォルニア州サンタバーバラ。55歳のワーキングマザー兼シングルマザーのドロシアは、15歳のひとり息子ジェイミーについて2人の女性たちに相談をもちかけた。ひとりはドロシアの家で間借りをする24歳の写真家アビー。もうひとりは、ジェイミーの2つ上の幼なじみジュリー。彼女たちにドロシアは言った。「ジェイミーを助けてやって。この混沌とした時代に自分を保って生きるのは難しい。でも私はついててやれない。子離れしなきゃ。私ひとりの支えじゃとても足りないわ。」15歳のジェイミーと、彼女たちの特別な夏がはじまった。
前作『人生はビギナーズ』では、自らの父親との関係を描いたマイク・ミルズ監督。6年振りの新作では、自身の母親をテーマに、15歳の反抗期の少年と意志の強いシングルマザーの親子の絆、そして2人を助ける個性的な女性たちとの、ひと夏の物語をユーモアを交えて爽やかに描く。脚本は監督本人が手がけ、誰しもが心に残っている遠い記憶のぬくもりと情熱を巧みに再現し、アカデミー賞脚本賞に初ノミネートされた。
母親を演じるのは名優アネット・ベニング。親子にかかわる2人の個性的な女性を『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグ、『ネオン・デーモン』のエル・ファニングがそれぞれ出色の演技を見せている。新人ルーカス・ジェイド・ズマンが悩み多き息子ジェイミーを好演した。
本作は、監督ならではの「母と息子のラブストーリー」であるとともに、作品タイトルが示すように「20世紀の終わりにむけて力強く突き進んで行く女性たち」の映画であり、また1979年という「転換期」――決して戻ることのできない時代とイノセンスへのエレジーでもある。パンクロックやニューウェイヴといった一瞬の時代に生まれた音楽カルチャーに彩られた、ミルズ監督の最高傑作が誕生した。