なぜこんなに不思議な映画が生まれたのか。
『メッセージ』と『パーソナル・ショッパー』は観終わったあと、
ささやかな興奮とともにそんなふうに思わずにいられない映画だ。
セレブの要望の通りに色んな場所に行って代わりに買い物をする、 個人付きのスタイリストのような職業(パーソナルショッパー)をしているモウリーン。 彼女は三ヶ月前に亡くなった双子の兄と交わした約束を胸に、忙しい毎日を過ごしている。 その約束とはもし死後の世界があるとしたら、モウリーンに必ず何かの方法でメッセージを送るというものだ。
突如地球の様々な場所現れた謎の物体。地球外から現れたこの物体はどうやら宇宙船らしい。 その地球外生命体とコンタクトを取るために国中のエキスパートが集められた。 ルイーズは言語学者だ。誰もが解読不能の謎のメッセージを、ルイーズは思考錯誤しながら解読しようとする。
この二本のフィルムはあえて通常では理解不能なものとコンタクトを交わそうとする人々の物語に挑んでいる。 いま目に見えている現実社会では存在しないとされているもの、 あるいはもしあったとしても無視されているものに、どんなメッセージが託されているのか。
幼いときから霊能力があるモウリーンも、言語学のエキスパートであるルイーズも超越的な能力で選ばれた人間かもしれない。しかし恐怖に慄きながらも、謎の存在に近づいていこうとする姿、そしてコンタクトを交わすことに喜びを感じている姿を見ていると、彼女たちがただ選ばれただけではなく、誰よりもその者たちの声に耳を澄まし、その声を求めている人物であることがわかる。
携帯に送られてきた謎のメッセージに戸惑いながらもコンタクトを続けるモウリーン、 そして解読した文字でコミュニケ―ションを取りながら、ルイーズだけがそのメッセージの背後にある真意を知ろうとするとき、何故か、その純粋で直向きな、同時に心細げな彼女たちの姿が、このコンタクトのあとに訪れる時間がとても美しい時間であることを想像させる。それはとても不思議なことだ。しかしメッセージの受け取り方は様々だ。もしこの映画たちに秘められたメッセージが、想像されたような美しい時間であっても私は一向に構わない。こんな不思議な映画がもっとたくさんあったらいいのにと願いたくなる。
パーソナル・ショッパー
Personal Shopper
(2016年 フランス 105分 シネスコ)
2017年9月16日から9月22日まで上映
■監督・脚本 オリヴィエ・アサイヤス
■製作 シャルル・ジリベール
■撮影 ヨリック・ル・ソー
■編集 マリオン・モニエ
■美術 フランソワ=ルノー・ラバルテ
■衣装デザイン ユルゲン・ドーリング
■音響デザイン ニコラ・カンタン/ニコラ・モロー/オリビエ・ゴワナール
■出演 クリステン・スチュワート/ラース・アイディンガー/シグリッド・ブアジズ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー
■2016年カンヌ国際映画祭監督賞受賞
©2016 CG Cinema - VORTEX SUTRA - DETAILFILM - SIRENA FILM - ARTE France CINEMA - ARTE Deutschland / WDR
忙しいセレブに代わって服やアクセサリーを買い付ける“パーソナル・ショッパー”としてパリで働くモウリーン。飛びぬけたセンスで完璧に仕事をこなしていたが、最愛の双子の兄が亡くなり、悲しみから立ち直れずにいた。そんな中、携帯電話に奇妙なメッセージが届く。まるで監視しているかのように居場所や行動を把握され、送り主の発する命令に従わざるを得なくなる。送信者は、モウリーンの別人になりたいという秘めた欲望を暴いていく。やがて周りで次々と不可解な出来事が起こり、遂には殺人事件へと発展する――。
「これは挑戦的な作品だ」――2016年のカンヌ国際映画祭で、オリヴィエ・アサイヤス監督は、自らの最新作についてそう宣言した。上映されるやいなや「型破り」「心をかき乱される」「純粋な狂気」といったセンセーショナルな批判が駆け巡ったが、賛否に割れるかに見えた評価は、監督賞受賞という栄誉で華々しく締めくくられた。
モウリーンを演じるのは、『アクトレス 〜女たちの舞台〜』で数々の賞に輝き、演技派女優としての地位を確立したクリステン・スチュワート。シャネルの広告にも登場し、ファッションリーダーとしても注目されている。そして、舞台はパリのカンボン通り。シャネルが衣装協力をしたほか、カルティエなどハイブランドのショップが続々と登場し、スクリーンに華麗な彩りを与えている。
メッセージ
ARRIVAL
(2016年 アメリカ 116分 シネスコ)
2017年9月16日から9月22日まで上映
■監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
■原作 テッド・チャン「あなたの人生の物語」(ハヤカワ文庫刊)
■脚色 エリック・ハイセラー
■編集 ジョー・ウォーカー
■音楽 ヨハン・ヨハンソン
■出演 エイミー・アダムス/ジェレミー・レナー/フォレスト・ウィテカー/マイケル・スタールバーグ/マーク・オブライエン/ツィ・マー
■第89回アカデミー賞音響編集賞受賞・作品賞ほか7部門ノミネート/ナショナル・ボード・オブ・レビュー主演女優賞受賞/英国アカデミー賞録音賞受賞・作品賞ほか7部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート
突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズは、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは――。
SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編の監督に抜擢されたことでも注目の、『プリズナーズ』『ボーダーライン』などで独特の映像美と世界観が高く評価されているドゥニ・ヴィルヌーヴ。彼の最新作『メッセージ』は、優れたSF作品に贈られるネビュラ賞を受賞したアメリカ人作家テッド・チャンによる小説「あなたの人生の物語」を原作に映画化された、全く新しいSF映画。
謎の知的生命体と意志の疎通をはかろうとする言語学者のルイーズ役には、『アメリカン・ハッスル』を含め5度アカデミー賞にノミネートされたエイミー・アダムス。彼女とチームを組む物理学者イアンには『ハート・ロッカー』など2度アカデミー賞にノミネートされたジェレミー・レナー。軍のウェバー大佐役には『ラストキング・オブ・スコットランド』の演技でアカデミー賞主演男優賞を受賞したフォレスト・ウィテカーが扮している