ラストキング・オブ・スコットランド
THE LAST KING OF SCOTLAND
(2006年 アメリカ 125分 R-15
2007年9月29日から10月5日まで上映 ■監督 ケヴィン・マクドナルド(『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』『運命を分けたザイル』)
■原作 ジャイルズ・フォーデン(『スコットランドの黒い王様』新潮社刊)
■脚本 ジェレミー・ブロック/ピーター・モーガン

■出演 フォレスト・ウィテカー/ジェームズ・マカヴォイ/ケリー・ワシントン/ジリアン・アンダーソン

■オフィシャル・サイト  http://movies.foxjapan.com/lastking/

笑顔の裏に潜むは限りなき猜疑心。
人間の本性はぞっとするほど恐ろしい。
アフリカで最も血塗られた独裁者、イディ・アミン。
付いた呼び名は、人食いアミン――

pic1971年、スコットランドの医学校を卒業したニコラスは、人助けの理想に燃え、アフリカの内陸国ウガンダで働く道を選ぶ。ウガンダのムガンボ村の診療所に赴任したニコラスは、ある日、軍事クーデターを成功させ大統領の座についたばかりのアミンが演説する様子を見て、彼のカリスマ性に強く惹かれるのだった。その演説直後、アミンは不慮の事故に遭い、偶然その治療にあたった経緯で気に入られたニコラスは、大統領一家の主治医に。主治医という立場以上に重用され、贅沢三昧の生活を満喫するニコラスだったが…

監督は、長編デビュー作の『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー長編ドキュメンタリー部門を受賞し、話題をさらった実力派ケヴィン・マクドナルド。側近の青年医師ニコラスの視点から、アミン政権時代の悪夢を生々しく描き出した。

pic見どころはやはり、反体制の国民を30万人も虐殺したといわれる独裁者イディ・アミンを演じ、アカデミー主演男優賞をはじめ全米の映画賞主演男優賞をほぼ独占したフォレスト・ウィテカーの演技だ。「食人大統領」という言葉から安易に想像してしまいがちなステレオタイプな人物像を打ち破る、真に迫った演技を見せる。国民に見せる気さくで溌剌とした表の顔と、暗殺の恐怖に怯え、疑心暗鬼に苛まれる裏の顔。この見事なまでの演じ分けは、見る者に強い印象を与え、観客を物語へとグイグイ引きずりこむ。力強い演説に心震える瞬間、剥き出しの狂気に戦慄を覚える瞬間、前人未到の現地ロケの臨場感も相まって、客席ではあたかも当時のウガンダ国民になったかのような錯覚さえ感じられるだろう。

(タカ)



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クィーン
THE QUEEN
(2006年 イギリス・フランス・イタリア 104分)
pic 2007年9月29日から10月5日まで上映 ■監督 スティーヴン・フリアーズ(『ハイ・フィデリティ』)
■脚本 ピーター・モーガン
■出演 ヘレン・ミレン/マイケル・シーン/ジェームズ・クロムウェル/シルヴィア・シムズ/アレックス・ジェニングス

■オフィシャルサイト http://queen-movie.jp/

例えば毎日乗る電車の中で、あなたはふと、いつもと格別に違う違和感に襲われる。吊革につかまるサラリーマンが、優先席に座る年老いた親子が、ドアにもたれている高校生が、その時その車両に居合わせた、名前も知らない乗客全員が、食い入るように自分の顔を見つめている。その言い知れない緊迫感の中で、あなたはこう言えるだろうか。背筋を伸ばし、凛と響く声で、

「ごきげんよう、国民の皆様」

1997年8月31日、世界中がそのニュースに震撼した。ダイアナ元皇太子妃の事故死。

皇太子妃であった頃は、数々のスキャンダルを起こして、英国王室のイメージを落としたダイアナ元妃だったが、チャールズ皇太子との離婚が成立し、民間人に戻った後も、彼女に対するマスコミの攻勢は衰えるどころか益々ヒートアップしていくばかりだった。そんな最中にアルマ橋のトンネルで起きた、パパラッチとの激しい攻防戦の末の悲劇。世界中のゴシップ誌に名を馳せたスキャンダルの女王は、悲劇の聖母として、国民の感情を否応なしに哀悼の意へと駆り立てた。

バッキンガム宮殿は、ダイアナの死を悼む人々と花束で溢れ返った。国中の人々が、まるで競うように悲しむ中、その様子に困惑しながらも、冷静を保つ初老の女性がいた。女王、エリザベス2世。ダイアナの死後、葬儀について話し合われた会合で、女王は頑なに「NO」を守った。国葬は行わない、半旗は掲げない、マスコミに対してスピーチはしない…。それは、英国王室を背負って立つ者として至極まっとうな対応だったのかもしれないが、それは国民の悲しみを怒りに変える引き金になってしまう。

この世に、生まれた頃から、自身の姿を余すところなく世界中に見つめられること。そしてその視線を真正面から受け止め、見つめ返すこと。その尋常では想像もできない苦悩と勇気を、ヘレン・ミレンが過剰な物真似に走ることなく、最小限の演技で見事に表現している。

内なる激情や欲望を、自分の外へ解放する勇気も、全てを飲み込んで身を焦がしながらも蓋をすることも、費やす力はどちらも計り知れない。

日本で皇室を舞台にこんな映画を撮るのは半世紀経っても不可能だと思います。この機会に、是非、と言うのはおこがましいのですが、是非。

(猪凡)




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