今週は骨太アメリカ映画の二本立て。今年のアカデミー賞で共に数多くの賞にノミネートされた
『アメリカン・ハッスル』と『ダラス・バイヤーズクラブ』をお届けします。
『アメリカン・ハッスル』は、『ザ・ファイター』『世界でひとつのプレイブック』のデヴィッド・O・ラッセル監督の最新作。70年代後半に全米を揺るがせた汚職スキャンダル“アブスキャム事件”を題材に、詐欺師とFBIと政治家とマフィアとが騙し騙され、くんずほぐれつの騒動を巻き起こす極上のエンターテインメント作品です。
いっぽう『ダラス・バイヤーズクラブ』は、HIVに感染し突然余命30日を宣告された放蕩者のカウボーイが、生きるために立ち上がり周りを巻き込んでいく姿を描いた人間ドラマ。監督はカナダ人のジャン=マルク・ヴァレ。日本での公開数こそ少ないですが、本国では作品が高く評価されているベテランのフィルムメーカーです。
数々の映画祭を沸かせたこの二作に共通して言えるのは、やはりなんといっても俳優たちの演技合戦でしょう。今回はその魅力を独断と偏見でご紹介したいと思います。
『アメリカン・ハッスル』で主役を張るのは“極限の役作り”でお馴染みのクリスチャン・ベール。激痩せしたり歯を抜いたりとその徹底ぶりには定評がありますが、今回はなんと、薄毛を気にした1:9分けの髪型とぶよっぶよのお腹を披露しております。ほんと、よくやるわ…。天才詐欺師役の彼をとりまくキャラクターも強者ばかり。ハリウッドきってのモテ男ブラッドリー・クーパーは、超強烈なパンチパーマ頭でキレたら手に負えないFBI捜査官を熱演しています。甘いマスクが台無し…でもこれがとんでもなくおもしろいんです。詐欺師の愛人を演じるエイミー・アダムスも、常に胸がこぼれそうなセクシードレスでアラフォーの色気をこれでもかとアピール。マジ最高です。エイミーと熾烈な女のバトルを繰り広げるのが、詐欺師の妻役ジェニファー・ローレンス。撮影時おそらく22歳くらいなのに、なんなんでしょうこの貫録。彼女が画面に現れるだけでつい目で追ってしまう存在感。まさにジェニファーにしか出せないオンリーワンの魅力が全開です。そしてこの曲者たちのなかで唯一まともに見えるのが、騙される善良な市長を演じたジェレミー・レナー。でも私は思うんです、この人の演技力こそすごいと。本作と同時期に出演した『エヴァの告白』でもそうでしたが、弱さと優しさとコミカルさを併せ持つ難しい役をさりげな〜くこなしているのです。
さぁそして『ダラス・バイヤーズクラブ』も負けておりません。主演のマシュー・マコノヒーと助演のジャレット・レトは、アカデミー賞で10年ぶりだという主演&助演男優賞W受賞の快挙を成し遂げました。映画を観ればすぐにふたりの受賞に納得がいくはず。共にHIV患者というハードな身体的役作りをこなした上で、その痩せ細った体からは信じられないほどの生きるエネルギーをメラメラと感じます。“全身で演じる”というのはまさにこの映画の彼らに言えることなのでしょう。途中から役者が演じているのだと忘れてしまうくらいでした。それにしてもマシュー・マコノヒーの最近の快進撃はものすごい。『マジック・マイク』の自慢のマッチョを惜しげもなく披露したかと思えば、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のチョイ役ながらの主題歌(?)まで歌ってしまうピカいちの存在感、『MUD』ではわけあり男を渋みと色気たっぷりに演じ、そしてこの『ダラス・バイヤーズクラブ』では堂々の貫録でまさにキャリア最高の演技! 今さらながら、完全にファンになりました、はい。
とまぁ両作ともこんな感じで俳優の魅力だけでもあと2時間くらいは語れそうです。や〜ハリウッド俳優のプロフェッショナルぶりはやはり凄いですね。あ、もちろん演技だけじゃなく台詞、映像、音楽、衣装など、どれも素晴らしいですよ。どちらも70〜80年代に実際にあった出来事をもとに作られた物語。アメリカという国の一面を感じられる二本立てとなっております。でも今回はあえて俳優押しだけで終わりたいと思います。もうすでに映画の魅力を十分にお伝えすることができたはずなので…。ご清聴、ありがとうございました。
アメリカン・ハッスル
AMERICAN HUSTLE
(2013年 アメリカ 138分 シネスコ)
2014年7月19日から7月25日まで上映
■監督・脚本 デヴィッド・O・ラッセル
■脚本・製作総指揮 エリック・ウォーレン・シンガー
■製作総指揮 マシュー・バドマン/ブラッドリー・クーパー/ジョージ・パーラ
■撮影 リヌス・サンドグレン
■音楽 ダニー・エルフマン
■音楽監修 スーザン・ジェイコブス
■出演 クリスチャン・ベイル/ブラッドリー・クーパー/ジェレミー・レナー/エイミー・アダムス/ジェニファー・ローレンス/ロバート・デ・ニーロ
■2013年アカデミー賞作品賞ほか主要10部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演女優賞・助演女優賞受賞/全米批評家協会賞助演女優賞受賞/NY批評家協会賞作品賞、助演女優賞、脚本賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
完全犯罪を続けてきた天才詐欺師アーヴィンと、そのビジネスパートナーにして愛人のシドニー。ついに逮捕された二人は、イカれたFBI捜査官リッチーに、自由の身と引き換えに捜査協力を強いられる。それは偽のアラブの大富豪を使って、アトランティック・シティのカジノの利権に群がる政治家とマフィアを罠にハメるという危険な作戦だった。ターゲットはカーマイン市長。しかし、アーヴィンの妻ロザリンが、アーヴィンとシドニーへの嫉妬から捜査をブチ壊す動きを見せ…。
『ザ・ファイター』でアカデミー賞6部門、『世界にひとつのプレイブック』ではアカデミー賞8部門と、2作連続で作品賞・監督賞にノミネートされたデヴィッド・O・ラッセル監督の最新作。1970年代後半に実際に起こった汚職スキャンダル「アブスキャム事件」を基に、FBI捜査官に捜査協力を依頼された天才詐欺師が政治家たちにオトリ捜査を仕掛けていく様をユーモアたっぷりに描くエンターテインメント作品だ。
クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンスらオスカー常連の豪華キャストが集結した。70年代のクラシックでグラマラスなファッションを着こなし、アッと驚く変貌っぷりを披露。さらに音楽も当時のヒット曲を多用し、雰囲気を盛り上げる。あの手この手で仕掛ける巧妙なハッスル(=詐欺)に最後まで目が離せない!
ダラス・バイヤーズクラブ
DALLAS BUYERS CLUB
(2013年 アメリカ 117分 シネスコ)
2014年7月19日から7月25日まで上映
■監督 ジャン=マルク・ヴァレ
■脚本 クレイグ・ボーテン/メリッサ・ウォーラック
■撮影 イヴ・ベランジェ
■編集 ジョン・マック・マクマーフィー/マーティン・ペンサ
■出演 マシュー・マコノヒー/ジャレッド・レト/ジェニファー・ガーナー/デニス・オヘア/スティーブ・ザーン/マイケル・オニール/グリフィン・ダン
■2013年アカデミー賞主演男優賞・助演男優賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞/ゴールデン・グローブ賞主演男優賞・助演男優賞受賞/NY批評家協会賞助演男優賞受賞/LA批評家協会賞助演男優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
1985年ダラス。多くの異性と交渉していた電気技師でロデオカウボーイのロンはHIV陽性、余命30日と宣告される。生きたい一心でエイズについて猛勉強を始める彼だったが、米国の承認薬の少なさにがく然とする。代替薬を求めてメキシコに渡り、密輸を思いついた彼は、入院先で知り合ったトランスジェンダーのレイヨンと共に、裏の販売組織「ダラス・バイヤーズクラブ」を立ち上げるが…。
エイズへの偏見が強かった1980年代のアメリカで、HIV陽性と宣告された男性ロン・ウッドルーフの実話を基にしたヒューマンドラマ。ロンを演じたマシュー・マコノヒーは、病に冒されて刻々と体重を減らしていく様を21キロの減量によって体現。2013年アカデミー賞主演男優賞を受賞した。さらに共演のジャレッド・レトも助演男優賞に選ばれるなど、本作は多数の映画賞に輝いた。
政府や製薬会社を相手取り、生きるための闘いを続けたロン。ケンカっ早く、口が悪い彼が少しずつ周囲、そして世の中とのつながりを見つけていく物語を、ジャン=マルク・ヴァレ監督はドキュメンタリーのようなリアリティーを持って描いた。「欲しいものを理解すること。それが何かを手に入れるための鍵となる」。その言葉を残し、HIVの宣告を受けた7年後の1992年、エイズによる合併症でこの世を去ったロン・ウッドルーフ。彼の生き様をぜひその目に焼き付けてほしい。