■監督 スティーヴン・ソダーバーグ
ジョージア州アトランタ出身。父親がルイジアナ大学の教授だったのでルイジアナ州バトンルージュで育ち、高校生の時から16mmで映画を作りはじめた。卒業後にハリウッドに行き編集者として働くが、しばらくしてルイジアナに戻り、映画制作と脚本執筆を続ける。
89年、初めての長編映画「セックスと嘘とビデオテープ」でサンダンス映画祭観客賞とカンヌ国際映画祭パルム・ドールを史上最年少(26歳)で受賞。
98年の「アウト・オブ・サイト」でメジャー・スタジオの映画を監督するようになり、ヒット作が続き巨匠の仲間入りを果たした。2000年には「エリン・ブロコビッチ」と「トラフィック」でアカデミー監督賞をダブル・ノミネートされ、後者で受賞。
また、撮影監督や編集を務めることも多く、「トラフィック」や「オーシャンズ11」では監督と撮影を兼任している(ハリウッドでは組合の問題もあって撮影監督としてのクレジットは認められない為、撮影監督ピーター・アンドリューズ、編集マリー・アン・バーナード名義になっている。)。
2012年、かねてより公言してきた監督業を休止することを発表。2013年「サイド・エフェクト」を経て、「恋するリベラーチェ」が最後の劇場用映画となった。
・セックスと嘘とビデオテープ(89)監督/脚本
・KAFKA/迷宮の悪夢(91)監督
・蒼い記憶(95)監督/脚本
・グレイズ・アナトミー(96)監督
・スキゾポリス(96)監督/脚本/撮影/出演
・ミミック(97)脚本
・ナイトウォッチ(97)脚本
・アウト・オブ・サイト(98)監督
・カラー・オブ・ハート(98)製作
・イギリスから来た男(99)監督
・エリン・ブロコビッチ(00)監督
・トラフィック(00)監督/撮影
・オーシャンズ11(01)監督/撮影/出演
・ウェイキング・ライフ(01)声の出演
・インソムニア(02)製作総指揮
・ソラリス(02)監督/脚本/撮影/編集
・エデンより彼方に(02)製作総指揮
・コンフェッション(02)製作総指揮
・ウェルカム トゥ コリンウッド(02)製作
・ナコイカッツィ(02)製作総指揮
・フル・フロンタル(03)監督/撮影
・オーシャンズ12(04)監督/撮影
・愛の神、エロス(04)監督/脚本/撮影
・シリアナ(05)製作総指揮
・グッドナイト&グッドラック(05)製作総指揮
・ジャケット(05)製作
・迷い婚 -すべての迷える女性たちへ-(05)製作総指揮
・Bubble/バブル(05)監督/撮影/編集
・スキャナー・ダークリー(06)製作総指揮
・さらば、ベルリン(06)監督/撮影/編集
・オーシャンズ13(07)監督/製作総指揮/撮影
・フィクサー(07)製作総指揮
・アイム・ノット・ゼア(07)製作総指揮
・チェ 28歳の革命(08)監督/撮影
・チェ 39歳 別れの手紙(08)監督/撮影
・インフォーマント!(09)監督/撮影
・ガールフレンド・エクスペリエンス(09)監督/撮影
・ソリタリー・マン(09)製作
・コンテイジョン(11)監督/撮影
・少年は残酷な弓を射る(11)製作総指揮
・エージェント・マロリー(11)編集/撮影/監督
・サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ(12)出演
・マジック・マイク(12)監督
・サイド・エフェクト(13)監督/撮影/編集
・恋するリベラーチェ(13)監督
※日本公開作品のみ
俊英、スティーヴン・ソダーバーグ。
ジュリア・ロバーツ主演の社会派『エリン・ブロコビッチ』、ブラット・ピットやジョージ・クルーニーの代表作の一つ『オーシャンズ』シリーズ、アカデミー賞監督賞を受賞した『トラフィック』と、オールスターを迎え世界的大ヒットを飛ばした作品は少なくない。一方でソダーバーグは、予算や有名俳優に依らない、より独創的なインディペンデント作品も数多く手掛けてきた。史上最年少(26歳)でカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得したデビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』、無名俳優と彼らの自宅で撮影したという実験的衝撃作『Bubble/バブル』、ポルノ女優を起用した『ガールフレンド・エクスペリエンス』など、フィルモグラフィには実に多種多様な作品が並ぶ。
早稲田松竹での監督特集は2001年の『トラフィック』『イギリスから来た男』、2009年の『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』以来3回目。今回は昨年公開された近作から、『マジック・マイク』と『恋するリベラ―チェ』の二本を上映する。
『マジック・マイク』はどちらかと言えばインディペンデントの匂いと影を感じさせる作品で、人気絶頂のチャニング・テイタム×男性ストリッパーという題材から思い描くほどの絢爛さはない(それがかえって現実味を増して、妙にナマナマしく見えるのだ)。シンプルな空間で二人の俳優が何気ない、けれどどこか探り合うような会話を淡々と繰り広げる…その静かな息遣いの中で迸る映画のエネルギーと心の襞にそっと触れる優しさは、監督個人の嗜好をあまり意識させないソダーバーグ作品の中でも最も彼らしい瞬間の一つだろう。鼻血モノのパフォーマンスを見せてくれるマシュー・マコノヒーの怪演もお楽しみに(ドル札掴んで飛びつきたくなる女性は私だけではないはず)。
そして各方面から絶賛を浴びる『恋するリベラーチェ』は、スタッフやキャストの並々ならぬ力の入れようが伝わってくる快作。キンキラキン&ピッカピカの宣伝から想像するに違わず超・ド・ハ・デ!のエンターテインメントだが、その仕上がりは完璧の一言に尽きる。話し方も仕草も瞳の輝きも、全てにおいて、まるで骨の髄まで本人になりきったマイケル・ダグラスの素晴らしいこと! ソダーバーグ作品常連のマット・デイモンは相変わらず役に没頭し、最後まで観客の心を掴んで離さない。クローゼット・ゲイ(性的指向をカミングアウトしていない)そして同性愛というテーマを含みながら、シリアスとコメディ、ウェットとドライの絶妙なバランスは万人を魅了してやまないだろう。そしてもちろんソダーバーグは、見終わった私たちの心にそっと傷を残すことも忘れないのだ。
監督・脚本・撮影・プロデュースまでこなすマルチな才能と確かな技術を併せ持ち、型にはまらないスタイルでハリウッドの最前線に立ち続けてきたにも関わらず、ソダーバーグは『恋するリベラ―チェ』をもって長期休業すると宣言した。今年51歳の彼にとってはこれからがキャリアの本番と言えるところ。遠からぬ将来の復帰を望む声は既に続々と寄せられていることだろう。
“時間と能力があるうちに、他のアートにも取り組んでみたいんだ。
自分には向いていないとわかってお金もなくなったら、
新しい『オーシャンズ』シリーズでも撮るよ”※
さよなら、スティーヴン・ソダーバーグ! また会えるその時まで。
(ザジ)
※ニューヨーク・タイムズ掲載記事より。 http://www.nytimes.com/2011/08/28/movies/all-star-cast-for-steven-soderberghs-contagion.html?_r=1&ref=todayspaper
マジック・マイク
MAGIC MIKE
(2012年 アメリカ 110分 シネスコ)
2014年1月11日から1月17日まで上映
■監督 スティーヴン・ソダーバーグ
■製作 ニック・ウェクスラー/グレゴリー・ジェイコブズ/チャニング・テイタム
■製作・脚本 リード・キャロリン
■撮影 ピーター・アンドリュース
■衣装 クリストファー・ピーターソン
■音楽監修 フランキー・パイン
■振付 アリソン・フォーク
■出演 チャニング・テイタム/アレックス・ペティファー/マシュー・マコノヒー/マット・ボマー/ジョー・マンガニエロ/コディ・ホーン/オリヴィア・マン/ライリー・キーオ
■全米批評家協会賞助演男優賞受賞(マシュー・マコノヒー)/インディペンデント・スピリット賞助演男優賞受賞(マシュー・マコノヒー)/NY批評家協会賞助演男優賞受賞(マシュー・マコノヒー)
自称・青年実業家のマイクは、実は人気No.1の男性ストリップ・ダンサー。夜になると男たちが華やかなレビュー・ショーを行うクラブ「エクスクイジット」で、“マジック・マイク”として女性たちを熱狂させている。
ある日、知り合った19歳の青年アダムに才能を感じたマイクは、クラブに彼を連れていく。マイクが見抜いた通り、即興で大胆なヴァージン・ステージを飾ったアダムはクラブの一員に迎えられ、マイクの手ほどきで人気ダンサーへと成長していく。大金・女・クールな仲間との付き合いにどっぷり浸かっていくアダムとは裏腹に、マイクはアダムの堅実な姉と知り合い、自分が本当に求める人生に気づき始める――。
ハリウッドで敬愛されるフィルムメーカー、スティーヴン・ソダーバーグ。豪華オールスターを束ねて大ヒットに導く売れっ子ヒットメーカーでありながら、インディーズスピリットに溢れた斬新で挑戦的な作品を次々と世に送り出している。そんな彼が主演チャニング・テイタムの実体験に想を得て、男性ストリップの世界とその裏側を活写した本作は、全米で大ヒットを記録。サタデー・ナイト・ライブでジョセフ・ゴードン=レヴィットがストリップ・ダンスを完コピするなど、“マジック・マイク旋風”を巻き起こした。本作の大ヒットによりテイタムは、12年のPeople誌が選ぶ「最もセクシーな男性No.1」に輝く。今やハリウッドきっての人気俳優となった彼の、秘められし青春サクセスストーリーなのである。
なんといっても見逃せないのは、実際にストリップ経験のあるテイタムを筆頭に、実力派イケメン俳優らが披露する本気モード全開のレビュー・ショーだ。踊り、挑発し、服を剥ぎ取り、鍛え抜かれた裸体をさらす。思わずクラブの客席さながら、セクシーな彼らに見とれ、大興奮すること間違いなし! そして、強烈な存在感を放つのがクラブのオーナー、ダラスを演じるマシュー・マコノヒー。元ストリッパーにしてヤリ手ビジネスマンという、カリスマと俗っぽいギトギト感を絶妙に滲ませ、全米批評家協会賞をはじめとする各賞で助演男優賞を受賞した。
恋するリベラーチェ
EHIND THE CANDELABRA
(2013年 アメリカ 118分 ビスタ)
2014年1月11日から1月17日まで上映
■監督 スティーヴン・ソダーバーグ
■製作総指揮 ジェリー・ワイントローブ
■原作 スコット・ソーソン「Behind the Candelabra」
■脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ
■撮影 ピーター・アンドリュース
■衣装デザイン エレン・マイロニック
■音楽 マーヴィン・ハムリッシュ
■出演 マイケル・ダグラス/マット・デイモン/ダン・エイクロイド/スコット・バクラ/ロブ・ロウ/トム・パパ/ポール・ライザー/デビー・レイノルズ
エルヴィス・プレスリーやエルトン・ジョン、マドンナやレディー・ガガの登場よりも前、リベラーチェという男がいた。彼は名ピアニストであり、天賦の才能を持つ斬新奇抜なエンターテイナー、そして舞台やTVでは派手な衣装に身を包むスターだった。
1977年夏、そんな彼の元を見知らぬハンサムな青年スコット・ソーソンが訪れる。年齢も住む世界も異なる2人は、たちまちお互いの魅力に取りつかれ、5年間に及ぶ秘められた恋愛関係がスタートする…。
20世紀で最も偉大なエンターテイナーの1人であり、世界が恋したピアニストと評されるリベラーチェ(1919-1987)。当時決して明かされることのなかった私生活と、生前に必死に隠そうとした同性愛者であるという事実に基づき製作されたのが本作だ。彼の愛人となり、運転手を務めることになるスコット・ソーソンとの出会いから、リベラーチェの死の床での告白まで…心のすき間を持った二人がお互いを認め合い、懸命に必要としていたほろ苦い関係に苦悩する姿をとらえた普遍的な恋愛ドラマである。
主演には『ウォール街』でアカデミー賞とゴールデングローブ賞を受賞したマイケル・ダグラス。本作は彼の経歴中、最高の演技とも評されている。そしてもう一人の主演には、『オーシャンズ11』などソダーバーグとは7作目のタッグとなるマット・デイモン。ハリウッドを代表する二大俳優の夢の競演、しかも彼らが“恋愛関係”を演じるというニュースは、全世界の映画ファンに衝撃と興奮をもたらした。
『サイド・エフェクト』を経て、本作を撮り終えた後、長期休暇に入ると宣言したスティーヴン・ソダーバーグ監督。13年前から企画していたという本作について、「これが最後の作品だとは言えない。でも、もしそうなったとしても誇りに思う」と記者会見で発表した。2013年カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門でプレミア上映され、スタンディング・オベーションは鳴りやまなかったという。