フィクサー
MICHAEL CLAYTON
(2007年 アメリカ 120分)
2008年11月22日〜11月28日まで上映 ■監督・脚本 トニー・ギルロイ
■出演 ジョージ・クルーニー/トム・ウィルキンソン/ティルダ・スウィントン/シドニー・ポラック/マイケル・オキーフ/デニス・オヘア

■2007年アカデミー賞助演女優賞受賞(ティルダ・スウィントン)/作品・監督・脚本・主演男優(ジョージ・クルーニー)・助演男優(トム・ウィルキンソン)・作曲賞ノミネートほか

フィクサーとは?
弁護士ではあるが法廷には立たず、
驚くべき手段を講じて、罪をもみ消すプロ。
弁護士の裏稼業と言ってもいい。

ニューヨーク最大の法律事務所のフィクサーであるマイケルを演じるのはジョージ・クルーニー。今回彼は大ヒットした『ボーン・アイデンティティー』シリーズの脚本家トニー・ギルロイとタッグを組み、製作総指揮と主演という形でトニー・ギルロイの監督デビューを全面的にバックアップしている。

今まで映画でフィクサーについて描かれた映画はない。一番に社会の正義を担うはずの法律家たち。だが彼らは腐敗した企業社会の一端を実際に担っている。その中で歪められる正義・信念。これは法律家に限られたことでなく、今の資本社会を生きる皆のテーマでもあろう。大法律事務所の弁護士といえども、悩める一人の人間。そこから映画『フィクサー』は始まる。

やはりジョージ・クルーニー演じるフィクサーのマイケルがおもしろい。表の顔は辣腕を振るうフィクサーであり、裏の顔はギャンブル漬けで事業を失敗し借金まみれとなって家族まで崩壊した男である。ただ正義心でいっぱいな男ではない。目に見えるようなヒーローに仕立てなかったことで、ジョージ・クルーニーの内なる真の魅力を引き出せたように思う。

何よりも利益を優先させる巨大企業。それに追随する法律家、弁護士事務所。巨大組織VS個人。巨大組織を固めるのもまた個人だ。

マイケルは自分の命が狙われていることを知り戦い始める。
敵対する企業弁護士カレンは自分の組織を守るために手を仕掛ける。
そこから浮かび出す真相。
エゴイズム、巨大資本社会、人間…。

どんなに巨大な社会を描いても、人間の感情からドラマは始まる。
『フィクサー』は実はそんな生身の人間の魅力に満ち溢れた映画だ。



このページのトップへ

告発のとき
IN THE VALLEY OF ELAH
(2007年 アメリカ 121分)PG-12
pic 2008年11月22日〜11月28日まで上映 ■監督・製作・原案・脚本 ポール・ハギス
■原案 マーク・ボール
■出演 トミー・リー・ジョーンズ/シャーリーズ・セロン/スーザン・サランドン/ジョナサン・タッカー/ジェームズ・フランコ/ジョシュ・ブローリン

■2007年アカデミー賞主演男優賞ノミネート(トミー・リー・ジョーンズ)

『ミリオンダラー・ベイビー』脚本
『クラッシュ』監督・脚本
『硫黄島からの手紙』脚本
『父親たちの星条旗』脚本
『007/カジノロワイヤル』脚本

といった社会派からエンターテイメントまでヒット作を手掛け、3度のアカデミー賞に輝いたポール・ハギスが監督・脚本・製作まで手掛けた力作。クリント・イーストウッドが映画化困難とされたこの映画の製作を強力にサポート。アカデミー賞受賞歴を持つ俳優陣もこの映画の脚本に感銘を受け即出演OKを出した。

この映画のモチーフとなったのは、米プレーボーイ誌の記事”Death and Dishonor(死と不名誉)"

「それは、イラクから帰還したばかりの若い兵士が失踪直後に
焼死体で発見された事件。父親自身が真相を捜査し、3小隊の
戦闘員が殺人罪で告発されるという悲惨な記録だった…」
(『告発のとき』パンフレットより抜粋)

2004年11月1日。父ハンクの元に息子マイクが無許可離隊をしたという知らせが届く。地元の刑事エミリーと共に、マイクの消息を探っていた矢先、マイクの焼死体が発見される。二人は真相を究明しようとするが、殺害現場が軍の管轄内のために捜査を阻まれる。戦争が負わせた息子の心の闇。そしてこの事件に潜む真実に、人はどう立ち向かい答えを出すのか…。

21世紀の幕開けを9・11によって告げられた僕らは戦後ではなくて、戦前に生まれたと言っても過言ではない。ブッシュ政権によるイラク侵攻によるツケは巡りめぐって、目に見える僕らの生活までも脅かそうとしている。そんな人事ではないイラク戦争の真実が、一つの家族を通して暴かれる。

世界中を苦しめるイラク戦争、総じて戦争について深く考察するきっかけをこの映画は与えてくれるだろう。映画における社会性とは、ただこの社会に迎合することではない。真実を模索し表現することは、衝撃を持って社会を撃つ。そこから少しでも何かを感じ取ろうとする使命。この映画を観るとそんな使命感が宿ってくる。

(おじゃるまる)


このページのトップへ