これは革命家チェ・ゲバラが残した言葉。
今回上映のチェ二部作『チェ28歳の革命』と『チェ39歳別れの手紙』を
観る前に、『チェ・ゲバラ 人々のために』(監督マルセロ・シャプセスプロダ)
というドキュメンタリー映画を観た。
その映画の中でかつてチェと一緒に戦っていた女性が、
目を爛々と輝かせて彼のことを「いかすぜ」と語っていたのが印象的だった。
何を訳して「いかすぜ」になるのかは分からなかったが、
とにかくチェ・ゲバラは「いかすぜ」が似合う男だ。
アルゼンチン生まれのゲバラは若い時、友人と一緒にバイクに乗って
南米大陸を縦断する旅に出た。
2004年に公開された『モーターサイクル・ダイアリーズ』
(監督ウォルター・サレス)はその時のことを描いたロードムービーである。
そこでゲバラは権力によって虐げられた最下層の人々に出会い、
南米社会のおかれた悲惨な現実を知る。
医師を目指す恵まれた青年が、自由な旅から人々の現実を直視し、
革命家としての思想的契機を得るというロマンチズム。
チェ・ゲバラにはやっぱり”愛”と”ロマン”が似合う。
世界中が資本主義という名の利己主義に陥っている今、
本当の愛が必要とされている。
本当の愛とは何か?
それを彼の生き方がつぶさに示しているように思うのだ。
チェ 28歳の革命
CHE PART1:THE ARGENTINE
(2008年 スペイン・フランス・アメリカ 132分 シネスコ/SRD)
2009年7月25日から7月31日まで上映
■監督・撮影 スティーヴン・ソダーバーグ
■脚本 ピーター・バックマン
■出演 ベニチオ・デル・トロ/デミアン・ビチル/サンティアゴ・カブレラ/エルビラ・ミンゲス/カタリーナ・サンディノ・モレノ/ロドリゴ・サントロ/ジュリア・オーモンド
■2008年カンヌ国際映画祭主演男優賞
革命家誕生。世界はその日、光を得た――。
かつて、本気で世界を変えようとした男、チェ・ゲバラ。これは、チェという旅人と共に海を渡り、チェという英雄と共に革命を追体験する、世紀の2部作。
中国の作家魯迅は医学生の時、人々を救うのは医学ではなく文学による精神の改造であると考えたという。チェ・ゲバラは若き日の南米大陸の放浪から、人々を救うのは医学だけでなく福祉・教育を充実させるための社会構造の改革が必要であると考えた。
1956年11月25日、カストロやチェら82人の戦士を乗せたグランマ号がメキシコからキューバへ出発する。キューバで圧政を強いるバティスタの軍事独裁政権を倒すために。ベニチオ・デル・トロ扮するチェがグランマ号に乗り、遠く前方を見つめる眼差しがすばらしい。自分がこれから行うことに対しての、信念と確信に満ち溢れている。
キューバ上陸後、最初の戦いで生き残ったのはたった12人。その中のチェ、カストロ兄弟、カミロなどの革命戦士たちが主導してまたバティスタ軍にゲリラ戦を挑むことになる。チェは元々軍医であったが、強い精神力と行動力で人望に厚く、カストロに次ぐ第2部隊のコマンダンテ(司令官)に任命される。
この映画の中で特に印象深いのは、チェがぜん息の発作に度々見舞われるところだ。彼は2歳の時に重度のぜん息と診断されていたという。山中のゲリラ戦の最中でも止まらないぜん息。それでも前進を止めないチェ。この映画を観ているとぜん息という困難こそ、彼の不屈の精神を作ったのではないかと思わせる。
行軍の休憩中、草むらで本を読むチェの姿も印象深い。彼は詩や文学、写真を愛好する文化人であり、部下に読み書きを教える教育者でもあった。克明に再現された国連総会の演説を見れば、チェが詩的な自分の言葉を持ち、表現する力も併せ持っていたことが分かる。
『28歳』ではキューバ革命成功への道のりが、詳細に描かれている。いかに手探りで泥臭く困難な戦いであったか。戦いを通して、チェの人間性が色濃く浮かび上がる。ぜひこの革命を早稲田松竹でチェと一緒に体験して欲しい。
チェ 39歳 別れの手紙
CHE PART2:GUERRILLA
(2008年 スペイン・フランス・アメリカ 133分 ビスタ/SRD)
2009年7月25日から7月31日まで上映
■監督・撮影 スティーヴン・ソダーバーグ
■脚本 ピーター・バックマン
■出演 ベニチオ・デル・トロ/カルロス・バルデム/デミアン・ビチル/ヨアキム・デ・アルメイダ/エルビラ・ミンゲス/フランカ・ポテンテ/カタリーナ・サンディノ・モレノ/ロドリゴ・サントロ/ルー・ダイアモンド・フィリップス/マット・デイモン
『チェ28歳の革命』と『チェ39歳別れの手紙』では画面サイズが違う。『39歳』は横のサイズが狭くなる。よって焦点が革命から、より人間チェに絞られてくる。
『28歳』が”光”なら、『39歳』は”影”と言ってもいいだろう。ここではチェの死が刻まれる。僕はどちらかといえば、『39歳』の影に魅かれてしまった。国家の要人という地位を捨て、また革命家としてゲリラ生活に帰ったチェ。
「もしわれわれが空想家のようだといわれるならば、
救いがたい理想主義者だといわれるならば、
できもしないことを考えているといわれるならば、
何千回でも答えよう
そのとおりだ、と」
彼の革命の理想は国家だけではなく、世界にこそ向けられていた。南米大陸の真ん中にあり、その拠点となるであろうボリビアに旅立ったのはそのためだ。第三世界からの革命。この大いなる理想と、命を懸けた行動。その生き様が見事に彼の思想となって、今でも人々の心を魅了し続けている。命と引き換えに、彼の残した功績の大きさは計り知れない。
『39歳』は今だに謎の多いボリビアの戦いで、チェが死の2日前まで記し続けた日記に基づいて描かれている。スティーヴン・ソダ―バーグ監督は語る。「僕らが勝手な想像力ででっちあげたようなシーンはひとつもない。すべてのシーンは、細部を含め、きちんとしたリサーチやインタビューに基づいている」この冷めた視点が偶像としてではなく、人間としてのチェを強く印象づける。
『39歳』ではその通り、チェの最後の瞬間まで克明に描かれている。客観的な死ではなく、チェの目から見つめた”死”。この映画で描かれたのは、過酷な現実と対峙する一人の人間の姿であり、それは現在を生きる僕たちにも繋がっている。
今チェが生きていたら、何を思い、どう行動するだろう?
『チェ28歳の革命』と『チェ39歳別れの手紙』を通してチェを身近な人間にできたら、世界の見方や自分の生き方について深く考えさせられることだろう。