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人々は、愛はつねに自分たちのうしろにあって、決して自分達の前にはないというあの考えに支配されて生きている。
愛など過去の世紀の話だ、二十歳のときに忘れてしまったと、嘘をついている。
愛は輝きを供とし、占い師たちのあらゆる眼からなる世界へのあのまなざしを備えているのに、
人々は愛が自分たちのためのものではないということに耐えている。―アンドレ・ブルトン「狂気の愛」

今週の早稲田松竹は、『ブルーバレンタイン』『ザ・ファイター』の二本立て。
恋愛映画とボクシング映画というジャンルの違い、さらには創作された作品と実話を元にしている作品という点で、
多くの部分が異なっているにも関わらず、これらの映画の中の人物たちが生きる時間の重さはとてもよく似ている。

pic運命的にも思えた出会いから、愛情に囲まれた家庭を築いた夫婦が、いつしか傷つけあう。学歴の違いや、数ある障壁を簡単に乗り越えた二人でさえ。
かつての兄の栄光の跡形を、家族の生活とともに背負わせられた弟は、
母や兄の言いなりになるうちに噛ませ犬の役割まで演じることになってしまった。

人生が変化することは否めない。
はじめに大切に思っていたこともいつの日にか姿を変えていく。
過酷な現実や運命に抵抗することに疲れてしまったのか。
それとも人生の時間は一つの変わらない思いを抱えたまま生きるにはあまりにも長いのだろうか。

支え合わずにはいられない、しかしそのかわりにお互いを縛ってしまうこともある家族。
そんなシガラミが己の人生にもたらしたものが、必ずしも本人たちの望む希望や幸福であるとは限らないのは、お互いにとって辛い現実だ。なにしろ決して憎みあっているわけではないのだから。

しかし、もしその関係に何もない、例えばそう愛みたいなものは一切存在しないとしたら…。私たちはどうして一緒に暮らしているのか、私たちはどうして闘っているのか、私たちは何を夢見ているのか。その全てがわからなくなってしまう。

夫婦の、永遠に続くかと思われるほどの平行線。お互いのことを考え尽くした果てに、そこから始まる新たな選択。
ボクサーの、愛する家族たちに疑われることを恐れずに踏みだした、栄光への新たな一歩。

ここまで彼らを優しく育んできた時間は過ぎ去り、願いが残った。
もしかしたら主人公たちは、とても欲張りかもしれない。
自分の気持ちを満足させるためだけの勝利ではなく、自分の気持ちを満足させるだけの愛情ではなく、
自分の周囲にいる人々もろともの幸福を願うから。

私たちは人生を選択することができる。家族や友人がいれば委託することもできる。
挫けることも、耐えることもできる。ただし、この願いを消し去ることだけはどうにも難しいのだ。
これを含んで生きる時間の重さ、複雑さ。
それこそが人生における“奇跡のような時間”のとても優秀な演出家であることをこの二本の映画は教えてくれる。

(ぽっけ)

ブルーバレンタイン
BLUE VALENTINE
(2010年 アメリカ 112分 R15+ ビスタ/SRD) 2011年9月24日から9月30日まで上映 ■監督・脚本 デレク・シアンフランス
■製作総指揮 ダグ・ダイ/ジャック・レクナー/スコット・オスマン/ライアン・ゴズリング/ミシェル・ウィリアムズ
■脚本 ジョーイ・カーティス/カミ・デラヴィン
■撮影 アンドリー・パレーク
■音楽 グリズリー・ベア

■出演 ライアン・ゴズリング/ミシェル・ウィリアムズ/フェイス・ワディッカ/マイク・ヴォーゲル/ジョン・ドーマン

■アカデミー賞主演女優賞ノミネート、ほか男優賞・女優賞多数ノミネート

永遠に変わらない愛なんて、ないの――
愛を知る誰もが経験のある、
しかし誰も観たことのないラブストーリー

picディーンとシンディの夫婦は娘のフランキーとの3人暮らし。長年の勉強の末資格を取り、病院で忙しく働く妻シンディに対し、夫ディーンの仕事は芳しくない。お互い相手に対し不満を抱えているが、口にすれば平和な生活が壊れてしまうことも知っている。出会った頃の2人は若く、夢があった。お互いに夢中で毎日が輝いていた幸せな日々――

希望と絶望、過去と現在が交錯しながら向う、愛の終わりと始まりが重なりあうリアルでありながら夢のようなラストは、観る者の感情を激しく揺さぶり、それぞれの“愛の思い出”を呼び起こす。『ブルーバレンタイン』は、あなたしか観たことのない愛の物語となり、深く心に残る映画となるだろう。

愛が変化していくどうしようもない現実と
だからこそ輝かしい愛が生まれる瞬間。
新たなラブストーリーの傑作!      

pic監督・脚本はデビュー作『BROTHER TIED』が“視覚表現の天才”と評され話題を呼んだデレク・シアンフランス。その彼が11年以上もかけて改訂し続けた緻密な脚本に魅了され出演を熱望し、製作総指揮も務めたのは、『ハーフ・ネルソン』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたライアン・ゴズリングと、『ブロークバック・マウンテン』で同じくアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたミシェル・ウィリアムズという若手実力派俳優の2人。彼らは体重を増加させ、ライアンは髪を抜き、ミシェルはノーメイクも厭わない熱演を見せ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞ほか数々の映画賞にノミネートされた。“ベストなキャスティング”“キャスティングがどれほど重要かこの映画を観ればわかる”と絶賛された2人の共演は見逃せない。

激しい愛とまばゆい思い出の数々に彩られ、優しさと同時に厳しさを持ち合わせたこの物語に、誰もが身を焦がすような感情を抱き、打ちのめされ、また愛おしさを感じずにはいられない。間違いなく今年必見の1本!


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ザ・ファイター
THE FIGHTER
(2010年 アメリカ 116分 PG12 シネスコ/SRD) 2011年9月24日から9月30日まで上映 ■監督 デヴィッド・O・ラッセル
■製作 デヴィッド・ホバーマン/トッド・リーバーマン/ライアン・カヴァナー/マーク・ウォールバーグ/ドロシー・オーフィエロ/ポール・タマシー
■製作総指揮 タッカー・トゥーリー/ダーレン・アロノフスキー/レスリー・ヴァレルマン/キース・ドリントン/エリック・ジョンソン
■原案 キース・ドリントン/ポール・タマシー/エリック・ジョンソン
■脚本 スコット・シルヴァー/ポール・タマシー/エリック・ジョンソン
■撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ
■音楽 マイケル・ブルック

■出演 マーク・ウォールバーグ/クリスチャン・ベイル/ エイミー・アダムス/メリッサ・レオ/ジャック・マクギー

■アカデミー賞助演男優賞・助演女優賞/NY批評家協会賞助演女優賞/ゴールデン・グローブ助演男優賞・助演女優賞/放送映画批評家協会賞助演男優賞・助演女優賞・アンサンブル演技賞 ほか多数

どん底から、頂点へ――
夢と嘲笑われた世界チャンピオンを目指して、
全力で闘った兄弟の、奇跡の実話。

picマサチューセッツ州の労働者の街、ローウェル。そこには、性格もファイティングスタイルも違うプロボクサーの兄弟がいる。兄のディッキ―は街のヒーローだ。今は弟のトレーナーに専念しているが、かつては実力派の名ボクサー。だが、今では麻薬に溺れ、破綻した生活を送っていた。父親違いの弟ミッキーは、ボクシングの全てを兄から教わった。「俺なしで何ができる?」が口癖の兄と、マネージャー役の過保護な母親アリスに言われるがままに試合を重ねるが、どうにも勝利を収めることができない。

picそんなある日、ディッキ―が窃盗を働いて遂に監獄送りになってしまう。ミッキーは兄と決別し、新しい人生へ旅立つ決意をした。新しいトレーナー、新しい訓練メニュー、スターボクサーになるための対戦カード…やがて勝利を連発するまでに成長するミッキー。だが刑務所の中には、届かない声援を懸命に送るディッキーがいた。そしてついに、ミッキーの世界タイトルマッチへの挑戦が決まり、時を同じくしてディッキーが出所する日が来た――。

歓声と怒号の中、兄の声だけが聴こえていた――
アカデミー賞助演男優賞・助演女優賞W受賞!
“アイルランドの稲妻”ミッキー・ウォード その愛と激闘の日々

pic試合の最後の瞬間にパワーを振り絞り、驚くべき攻撃を仕掛けることから“アイルランドの稲妻”と異名を取ったボクサー、ミッキー・ウォード。彼の実話を元にした本作は、どん底から這い上がり伝説となった男の物語。製作に加わりながら、何年もかけてトレーニングを重ねミッキーになりきったのは、『ディパーテッド』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたマーク・ウォールバーグ。鍛え上げた肉体で、迫真のボクシングシーンを披露する。兄ディッキーに扮するのは、『ダークナイト』のクリスチャン・ベール。13キロの減量をし、髪を抜き、歯並びを変えた感動的なまでの怪演で、アカデミー賞を始め助演男優賞を総ナメにした。また、愛がゆえに息子たちを強烈に支配する母親アリスを演じた『フローズン・リバー』のメリッサ・レオも、本作で見事アカデミー賞助演女優賞を受賞。

兄弟の実人生を綿密に調べ、いくつもの起伏に満ちた物語を書き起こしたのは、『8mile』の脚本家スコット・シルヴァー。アドレナリンを限界まで引き上げるファイティングシーンと、魂を殴り合うような激しい兄弟愛で観る者を圧倒する監督は『スリー・キングス』のデヴィッド・O・ラッセル。男たちの魂の闘いが、あなたの人生を熱く燃え上がらせる――。


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