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ブロークバック・マウンテン
BROKEBACK MOUNTAIN
(2005年 アメリカ 134分
2006年10月7日から10月13日まで上映 ■監督 アン・リー
■脚本 ラリー・マクマートリー/ダイアナ・オサナ
■出演 ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール/ミシェル・ウィリアムズ/アン・ハサウェイ

2005年アカデミー賞・監督賞、ゴールデングローブ賞・作品賞、ヴェネツィア国際映画祭・グランプリなどあらゆる賞レースを座巻したラブストーリー。

1963年、ワイオミング州はブロークバック・マウンテン。20歳のイニスとジャックは夏の放牧シーズンの季節労働者として雇われ、共に一夏を過ごすこととなる。寡黙なイニス(ヒース・レジャー)と天衣無縫なジャック(ジェイク・ギレンホール)は対照的な性格ながらも、互いに助け合いながら仕事をこなし、次第に友情を深めていく。友情はやがて愛情に変わるが、夏が過ぎて下山した二人は何の約束も交わさぬまま別れることに。互いに別の土地で結婚をして家庭を築いた二人であったが、ブロークバック・マウンテンでの思い出と互いへの想いは消えることはなかった。やがて、再会した二人は20年に渡って密かに愛を育んでいく。

主人公二人の愛が、そのセクシャリティ故に社会的な障害に邪魔される様の切なさは勿論物語りの中心である。ジェイク・ギレンホールとヒース・レジャーの演技は、この苦悩や切なさを確かなものにしており、間違いなく数々の賞に値する。同様に、主人公の妻を演じたミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイの頑張りも素晴らしい。イニスの視点のみで描かれた原作の脚色において肉付けされた妻たちのキャラクターに人間味を持たせる難しさは、主人公を演じた二人に勝るとも劣らないだろう。愛する者の心が自分にはないことに気がつきながらも関係を続けていく女達の苦悩は、今作が普遍的な「ラブストーリー」であることを別の角度から裏付けているといえる。

pic監督のアン・リーは、優れたシナリオを正攻法で演出。容易にキワモノになりそうな設定を美しい叙事詩に仕上げている。また、監督と役者陣はディティールを徹底的に重視。20年に渡る物語におけるキャラクターの齢にリアリティをもたせる為、脚本を3つのシークエンスに分け、それぞれに異なる声のトーンを設定した。加えて、アクセントや話すペースを変えるという工夫もなされている。

脚本/プロデューサーのダイアナ・オサナがアニー・プルーの同名小説の映画化を思い立ってから、完成までに7年の歳月がかかったそうだが、周囲の"カウボーイのゲイムービー”に対する「恐れ」は想像に難くない。それでも、今作が低予算作品でありながらアメリカ全土で公開され、作品賞は逃したもののアカデミー賞(監督賞・脚色賞・オリジナル音楽賞)を始めとする各賞の栄誉に輝いたことはアメリカ文化の「懐の深さ」と言えるのではいだろうか。もっとも、つまらない偏見を寄せ付けない強さを今作は持っており、一度でも誰かを愛したことのある人であれば物語の普遍性に胸打たれることのなるのだが。

今週の早稲田松竹二本立ては人種差別を扱った『クラッシュ』(アカデミー賞・作品賞受賞)。「今のアメリカ・アメリカ映画」の底力を実感できる組み合わせを是非劇場でご覧下さい。

(Sicky)



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クラッシュ
CRASH
(2005年 アメリカ 112分
pic 2006年10月7日から10月13日まで上映 ■監督・製作・原案・脚本 ポール・ハギス
■出演 ドン・チードル/マット・ディロン/サンドラ・ブロック/ブレンダン・フレイザー/ライアン・フィリップ

■2005年アカデミー賞 作品・脚本・編集賞受賞/監督・助演男優(マット・ディロン)・脚本賞ノミネート

冬のロサンゼルス。深夜のハイウェイで黒人刑事のグラハムと同僚のリアは交通事故に巻き込まれた。車から降り立ったグラハムは、偶然道路脇で行われていた捜査に引きつけられる。そこには、若い男性の死体が横たわっていた…。この交通事故をきっかけに、思いもよらない“衝突”の連鎖が生まれ、人々の運命を動かしてゆく。

pic自動車強盗、地方検事とその妻、警官、TVディレクター、雑貨店の主人、鍵屋とその娘。人種も階層も違う人々が、様々な角度でぶつかり合う。怒り、哀しみ、憎しみ、恐れ、喜び。いくつもの感情を持ちながら。時にそれは何の術もなく、内に閉じ込められたまま、時にそれは歯止めが利かず、とめどなく溢れ出す。差別や抑圧や犯罪に姿を変えて。大切なものを守る強さとなって。

『ミリオン・ダラーベイビー』の製作・脚本で一躍注目を集めたポール・ハギスは、これが監督デビュー作となる。多彩な登場人物を描き出した脚本と、多面的なキャラクターを演じる個性豊かな俳優たちが、魅力的なストーリーを創り上げている。

pic何が正しくて何が間違いなのかなんてわからない。どれが真実でどれが偽りなのかも。“衝突”の連鎖は映画の中だけでなく観る者にも新たな連鎖を引き起こす。そして自分自身と衝突し、誰かと衝突し触れ合い、また次の連鎖を生み出してゆく。

(ロバ)



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