【2020/10/17(土)~10/23(金)】『ミッドサマー ディレクターズカット版』『ウィッチ』

ルー

平穏な日常を食い破る悪と、それと対峙する者たちを描くのがホラー映画の定石です。特にキリスト教的な価値観が根強い欧米において、明確な悪(闇)を描くことは、逆説的に聖なるものや善なるもの(光)の存在を肯定することにつながっているのだと思います(その典型は、悪魔と神父との闘いを描いた『エクソシスト』でしょう)。多くのホラー映画の基本をなす図式は実は保守的であり、ある意味では楽天的なものです。

今回上映する『ウィッチ』の革新的な恐ろしさは、その常識が徹底的に無効化されていくことです。敬虔なキリスト教徒の一家に訪れる、ある不幸を発端とした事件の連鎖。それは本来であれば彼らを救ってくれるはずの信仰によって抑止されるどころか疑心暗鬼を呼び寄せ、さらなる凄惨な事態を引き起こしてしまいます。惨劇を止めることができず、むしろ悪化させてしまう神を信じることの意義は何なのか。悪が激しく揺さぶり、打ち壊そうとするのは、主人公一家の信仰心だけでなく、常識的な思考にぬくぬくと安住している私たちの精神のありかたなのです。

ホラー映画にしては異常なほど眩い光に満ちた『ミッドサマー』もまた、私たちの常識をどこまでも破壊していく作品です。ここにははっきりした悪が存在しません。主人公たちを恐怖のどん底に陥れる祝祭は、いくら主人公たち(観客)の一般常識からは理解しがたいとしても、主宰する人々にとっては敬虔で神聖な儀式です(それをむりやり止める者は、彼らにとっては紛れもなく「悪」でしょう)。言葉は通じても決定的な価値観が理解しあえない恐怖。それは人あらざるモンスターを相手にするより、不条理で戦慄的な事態かもしれません。

とはいえ本作がそれ以上に恐ろしいのは(そして同時にエモーショナルなのは)、私たちもいつしか祝祭の熱気に巻き込まれ、そこに抗いがたい崇高な光景を見てしまうことだと思います。今まで見えていなかった絶望や希望、美も醜も聖も俗もないまぜになった豊かに広がる世界。そんな世界のとらえかたは『ウィッチ』が最終的に提示するヴィジョンとも共通しています。私たちは圧倒的な恐怖の先にある恩寵に抱きしめられながら、新しい一歩を踏みだすのです。

ウィッチ
The VVitch

ロバート・エガース監督作品/2015年/フランス・西ドイツ/93分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ロバート・エガース
■撮影 ジェアリン・ブラシュケ
■編集 ルイーズ・フォード
■音楽 マーク・コーヴェン

■出演 アニヤ・テイラー=ジョイ/ラルフ・アイネソン/ケイト・ディッキー/ハーヴィー・スクリムショウ/エリー・グレインジャー/ルーカス・ドーソン

■2016年サンダンス映画祭監督賞受賞/インディペンデント・スピリット賞新人作品賞・新人脚本賞受賞/放送映画批評家協会賞SF/ホラー映画賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

©2015 Witch Movie,LLC.All Right Reserved.

【2020年10月17日から10月23日まで上映】

愛する娘は魔女なのか―

1630年、ニューイングランド。街を追い出された父ウィリアムと母キャサリンは、5人の子供たちと共に森の近くの荒れ地にやって来た。しかし、赤子のサムが何者かに連れ去られ、行方不明に。連れ去ったのは森の魔女か、それとも狼か。悲しみに沈む家族だったが、父ウィリアムは、美しく成長した愛娘トマシンが魔女ではないかと疑いはじめる。疑心暗鬼となった家族は、やがて狂気の淵に陥っていく…。

誰も観たことがないダーク・ファンタジー・ホラー

ヘンゼルとグレーテル、赤ずきんちゃんを彷彿させる―グリム童話のダークな部分が永遠の悪夢になったような怖さ! とファンの間で評判を呼び、2016年のサンダンス、インディペンデント・スピリットほか映画賞も数多く受賞した本作。監督は、最新作『The Lighthouse(未)』がカンヌ映画祭で絶賛、アカデミー賞にもノミネートされたことも記憶に新しいロバート・エガース。ハリウッドで近年最も期待される俊英監督の長編初監督作品が『ウィッチ』である。

主演は、本作での圧倒的な評価でいきなりM・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』のヒロインへと抜擢され、瞬く間にメジャー女優の仲間入りを果たしたアニヤ・テイラー=ジョイ。気鋭の制作スタジオA24は本作の世界配給を手がけたことで注目を浴びた。

ビジュアルショックでおどろかす映画とは一線を画し、人間の内面を暴き出すダーク・ホラー――男女を問わず、ホラー初心者から映画マニアの方まで幅広く堪能できる最高・最上の映画が誕生した。

ミッドサマー ディレクターズカット版
Midsommar: The Director's Cut

アリ・アスター監督作品/2019年/アメリカ・スウェーデン/170分/DCP/R18+/ビスタ

■監督・脚本 アリ・アスター
■撮影 パヴェウ・ポゴジェルスキ
■編集 ルシアン・ジョンストン
■プロダクション・デザイン ヘンリック・スヴェンソン
■衣装 アンドレア・フレッシュ
■音楽 ボビー・クルリック

■出演 フローレンス・ピュー/ジャック・レイナー/ウィル・ポールター/ウィリアム・ジャクソン・ハーパー/ヴィルヘルム・ブロングレン/ アーチ・マデクウィ/エローラ・トルキア/ビョルン・アンドレセン

© 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

【2020年10月17日から10月23日まで上映】

明るいことが、おそろしい

家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

太陽と花々に満たされた祝祭の果ては、究極の恐怖と、未体験の解放感ーー前代未聞の”フェスティバル・スリラー”

長編デビュー作『ヘレディタリー/継承』が世界中で絶賛され、いまハリウッドの製作陣が“最も組みたいクリエイター”として注目しているアリ・アスター監督が、前作に続き気鋭の制作スタジオA24とタッグを組んだ最新作。恐怖の歴史を覆す、暗闇とは真逆の明るい祝祭を舞台に、天才的な発想と演出、全シーンが伏線となる綿密な脚本、観る者を魅惑する極彩色の映像美が一体となり、永遠に忘れられない結末に到達する。

主人公ダニーを演じるのは、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』や、マーベルシリーズ最新作『ブラック・ウィドウ』に出演している注目の若手女優フローレンス・ピュー。ダニーの恋人役を『トランスフォーマー/ロストエイジ』『ビリーブ 未来への大逆転』のジャック・レイナーが演じ、『デトロイト』の強烈な演技で賞賛を集めたウィル・ポールター、『ベニスに死す』の美少年役で知られるスウェーデンの名優ビョルン・アンドレセンらが顔を揃える。

※当館ではオリジナルの劇場公開版ではカットされた未公開シーンを追加したディレクターズカット版を上映いたします。