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早稲田松竹では、社会派映画の特集上映をいたします。

『BPM ビート・パー・ミニット』は、90年代初めのパリを舞台に、監督のロバン・カンピヨ自身が関わっていたエイズ活動家団体「ACT UP-Paris」での経験を基に作られています。ACT UPが闘うのは、患者を傍観する政府と製薬会社、そして「エイズは同性愛者だけの病気」とレッテルを貼る一般大衆。ACT UPには、血液製剤によってHIVウィルスに感染した少年とその母親が参加していましたが、当時は性的少数者だけの問題としか捉えられていませんでした。世間の無知と無関心を撃つべく、ACT UPメンバーは「僕らには時間が無いんだ」と叫びます。一体それがどういう意味なのか、『BPM』は実に痛ましい形で観客に突きつけます。ゲイパレードやダンスホールでのきらめく時間と、ほどなく訪れる苦しい未来とを、本作は地続きで語りますが、だからこそ彼ら彼女らが命がけであることが、重みをもって響くのです。タイトルの「BPM」は音楽用語であると同時に、「心拍数」も意味します。鼓動の限り命を使い果たさんとする壮絶さが胸をかきむしる一本です。

1967年7月、アメリカ・デトロイトでは人種間の対立が引き金となり、暴動で街は荒廃しきっていました。そんな中、一軒のモーテルから聞こえた発砲音をきっかけに、黒人客に対する警察官の暴力的尋問と“正当防衛”による殺人事件が起きました。この「アルジェ・モーテル事件」を題材にした『デトロイト』は、今もアメリカ社会に深く根を張る人種差別の実態に肉迫するシーンが続き、観る者を当事者たちと同じ恐怖と絶望の淵に立たせることになります。さらに、地獄のような夜を生き抜いても、差別主義が蔓延する現実では、被害者たちの苛酷さに終わりはありません。『デトロイト』が傑作と呼べるのは、そうした現実を告発しただけにとどまらず、事件で深く傷ついたある歌手の選択を通し、たとえ報いがなくても闘いながら生きることに価値があるのだと示してくれるからです。

19世紀末から20世紀初頭に活動したポーランドの社会主義者、ローザ・ルクセンブルクの激動の生涯を、そぎ落とされた筆致で描き出した『ローザ・ルクセンブルク』。本作では、象徴的な革命の徒として称えられる思想家である彼女の、一人の人間としての素顔が浮かび上がります。恋心に頬を染め、嫉妬で怒り狂う感情豊かな表情。幼い子どもや生き物を慈しむ眼差し。子どもを産み育てるという平凡な願いを、思想のために諦めた悲しみ。人々を魅了したローザに扮した女優バルバラ・スコヴァは、彼女のささいな特徴まで模倣し、ほとんど憑依と呼ぶべき演技で映画に力強さを与えています。

『BPM』や『デトロイト』で人々が命がけで抵抗した差別や偏見は、決して過去のものではありません。ローザは一貫して非戦を訴え続けましたが、その後の社会は全く逆の方へと突き進み、やがて悲劇という言葉で片付けられない時代がおとずれます。『ローザ・ルクセンブルク』の中に、「歴史が判断を下す」とローザが言い放つ印象的な場面があります。闘いの正しさや価値は、すぐには証明されません。だからこそ、世界のあり方を変えようとした先人の闘いの跡から、後世を生きる私たちが受け取るもの、すべきことがあるのだと言えます。

(ミ・ナミ)

デトロイト
DETORIT
(2017年 アメリカ 142分 DCP ビスタ) pic 2018年6月23日から6月29日まで上映 ■監督 キャスリン・ビグロー
■製作 ミーガン・エリソン/キャスリン・ビグロー/マシュー・バドマン/マーク・ボール/コリン・ウィルソン
■脚本 マーク・ボール
■撮影 バリー・アクロイド
■音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード

■出演 ジョン・ボイエガ/ウィル・ポールター/ジャック・レイナー/ベン・オトゥール/オースティン・エベール/ジョン・クラシンスキー/アルジー・スミス/アンソニー・マッキー/ジェイソン・ミッチェル

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1967年、米史上最大級の暴動勃発。
街が戦場と化すなかで起きた戦慄の一夜

pic 1967年7月、デトロイトで起こった暴動発生から3日目の夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたとの通報を受けた大勢の警官と州兵が殺到した。そこで警官たちが、偶然モーテルに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な“死のゲーム”へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった…。

まばたきさえも許さない――
極限サスペンスに貫かれた
キャスリン・ビグロー監督最新作!

pic女性初のアカデミー賞監督賞を受賞した『ハート・ロッカー』で一触即発のイラクの戦場へ、『ゼロ・ダーク・サーティ』では闇夜に包まれたビンラディンの隠れ家へと観客を引き込んだキャスリン・ビグロー監督。5年ぶりの最新作は米史上最大級の暴動<デトロイト暴動>の最中に起こった“戦慄の一夜”を描く。センセーショナルな題材選びと圧倒的なリアリティ、臨場感溢れる作風で世界を驚嘆させてきたビグロー監督が極限サスペンスの最高傑作を誕生させた。

pic 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で一躍スターダムにのし上がったジョン・ボイエガが、警官側と被害者の間に立たされた複雑なキャラクターを熱演。差別主義者の白人警官に扮した『レヴェナント:蘇えりし者』のウィル・ポールターも、全身全霊をかけて鬼気迫る演技を見せた。ほか『アベンジャーズ』シリーズのアンソニー・マッキー、『トランスフォーマー/ロストエイジ』のジャック・レイナーなど豪華キャストが監督の野心的な挑戦に集結した。

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BPM ビート・パー・ミニット
120 battements par minute
(2017年 フランス 143分 DCP R15+ シネスコ)
pic 2018年6月23日から6月29日まで上映 ■監督・脚本・編集 ロバン・カンピヨ
■脚本 フィリップ・マンジョ
■撮影 ジャンヌ・ラポワリー
■音楽 アルノー・ルボチーニ

■出演 ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート/アルノー・ヴァロワ/アデル・エネル/アントワン・ライナルツ

■2017年カンヌ国際映画祭グランプリ、国際映画批評家連盟賞、フランソワ・シャレ賞、クィア・パルム受賞/リュミエール賞作品賞ほか主要6部門受賞/セザール賞作品賞ほか主要6部門受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©Celine Nieszawer

全力で生きて、
愛して、
闘った――

pic90年代初頭のパリ。HIV/エイズが発生してからほぼ10年の間に、その脅威が広がるなか、政府も製薬会社もいまだ見て見ぬ振りを決め込んでいた。仲間が次々と亡くなっていくなか、業を煮やした活動団体「ACT UP-Paris」のメンバーたちは、より過激に人々へ訴える手段に出る。彼らにとってこれは文字通り生死をかけた闘いであり、一刻の猶予もならない事態だったのだ。そんななか、新たにメンバーとなったナタンは、グループの中心的な存在であるショーンに出会い、ふたりは徐々に惹かれ合うようになる。だが、ショーンはすでにHIVに感染しており、自分の運命を自覚していた――。

生きたいと強く願い、社会と闘った若者たちの
生命の鼓動(ビート)は今も激しく鳴り響く。
実話から生まれた、
濃厚で鮮烈な愛と人生の物語。

pic 前作『イースタン・ボーイズ』がヨーロッパで高く評価されたロバン・カンピヨ監督は、実際に当時ACT UPのメンバーであり、自らの体験を元に脚本家のフィリップ・マンジョとともにストーリーを構築した。それだけに、当時のパリの空気やメンバーたちの活動ぶりがヴィヴィッドにスクリーンに再現されている。とくにゲイパレード並みの華やかなデモ行進や、ダンス・ミュージックが響くパリのクラブの場面などは、絶望のかたわら、運命に抗い、限りある生を謳歌しようとした彼らの痛切な叫びが聞こえてくるようだ。

そんな彼らの生きざまを鮮烈に体現した若い俳優たちのアンサンブルもまた、本作のみどころのひとつ。カンピヨ監督はほぼ9ヶ月を掛けてオーディションをおこない、知名度に拘らずそれぞれのキャラクターにもっとも合った俳優を選び出した。彼らの生き生きとした表情や、全身からほとばしるエネルギーがスクリーンに刻み込まれ、観る者の感情を激しく揺さぶる迫真のドラマに仕上がっている。第70回カンヌ国際映画祭ではグランプリと国際映画批評家連盟賞をダブル受賞し、審査員長のペドロ・アルモドバルには「心のパルムドール」と評された。

line 特別レイトショー「ローザ・ルクセンブルク」