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ヴィスコンティ

監督■ルキーノ・ヴィスコンティ

1906年イタリア・ミラノ生まれ。
イタリア有数の名門貴族の家系に生まれ、芸術的環境で育つ。30年代初頭にパリで暮らしはじめ、ジャン・コクトー、クルト・ヴァイル、ココ・シャネルらと出会い、シャネルからジャン・ルノワールを紹介される。

ルノワールの助監督を務め、42年には自ら脚本を書いた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で長編監督デビューを果たす。ネオリアリズモの先駆的作品と注目されるも、当局から目をつけられ公開数日後に上映禁止となり、ネガを失う。この後、レジスタンス活動に参加し逮捕されたが脱走に成功した。

その後次々と舞台・オペラの演出を手掛け、シチリアの漁民たちを起用した映像叙事詩「揺れる大地 海の挿話」に取り組み、ヴェネチア映画祭の国際賞を受賞。60年はアラン・ドロンを迎えた「若者のすべて」で南部の労働移民の悲劇を描き絶賛され、ヴェネチア映画祭審査委員特別賞を受賞。63年に「山猫」でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。65年はクラウディア・カルディナーレ主演「熊座の淡き星影」でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞した。

ナチス政権と鉄鋼財閥の大家族の悲劇を衝撃的に描いた「地獄に落ちた勇者ども」(69)、トーマス・マン原作でカンヌ映画祭25回記念大賞を受賞した「ベニスに死す」(71)、バイエルン国王の謎の死までを壮大に描いた大作「ルートヴィヒ 神々の黄昏」(73)の“ドイツ三部作”を完成させた後、発作で倒れ半身不随となる。車椅子生活を強いられながらも、舞台やオペラの演出を続け、74年は再びバート・ランカスターを主演に「家族の肖像」に取り組み、続いてダンヌツィオの小説を元に「イノセント」(76)を完成させた。

76年3月17日、ローマの自宅で死去。ローマの葬儀ではミラノの街中を人が埋め尽くし、イタリアが世界に誇る芸術家の死を悼んだ。

フィルモグラフィ

・郵便配達は二度ベルを鳴らす(1942)監督/脚本
・トスカ(1944)協力監督
・揺れる大地(1948)監督/脚本/原案
・ベリッシマ(1951)監督/脚本
・われら女性(1953)監督
・夏の嵐(1954)監督/脚本
・白夜(1957)監督/脚本
・若者のすべて(1960)監督/脚本/原案
・ボッカチオ'70(1962)監督/脚本
・山猫 (1963)監督/脚本
・熊座の淡き星影(1965)監督/脚本
・華やかな魔女たち(1966)監督
・異邦人(1968)監督
・地獄に堕ちた勇者ども(1969)監督/脚本
・ベニスに死す (1971)監督/脚本/製作
・ルードウィヒ/神々の黄昏(1972)監督/脚本
・ルートヴィヒ/[完全復元版] (1972)監督/脚本
・家族の肖像(1974)監督
・イノセント(1975)監督
・ヴィスコンティの肖像(1976)出演
・マーティン・スコセッシ 私のイタリア映画旅行(1999)<未>出演
・マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶(2006)出演
・マリア・カラスの真実(2007)出演

あなたが映画に求めるものは何ですか?
名優たちの演技、豪華なセットや煌びやかな衣装
美しい映像、耳に残る音楽、そして重厚な人間ドラマ…。

今週の二本立て『山猫』『ベニスに死す』は、その全てが内在するまさに完璧な映画だと言えるでしょう。

監督の名はルキーノ・ヴィスコンティ。ミラノの名門貴族の末裔として生まれながらも、レジスタンスに傾倒し、映画作家としてのキャリアをネオレアリズモの旗手としてスタートさせた異色の人です。

処女作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『若者のすべて』など、初期の頃の、市井の人々の現実を映した野性的で瑞々しい作品たちも素晴らしいのだけれど、それはまた別の機会に。

今回上映する二作品は、これが映画然たる圧倒的な輝きと風格に満ちた、ヴィスコンティ芸術の神髄を味わえる代表作です。

完璧主義者と言われるヴィスコンティ。『山猫』の一番の見どころである大舞踏会のシーンでは、パレルモにある実際の宮殿を借り切って撮影し、宮殿の主人一家や親戚たち、つまり本物の貴族の生き残りがエキストラとして出演しました。

『ベニスに死す』では、原作のモデルであるとされるロマン派の作曲家グスタフ・マーラーの交響曲が使われています。主演のダーク・ボカードの容姿は、マーラーの生き写しのごとく似せ、美しい楽曲は映画のもうひとつの主役のようです。

すべて本物にこだわる。それはキャストや衣装、音楽だけではありません。ヴィスコンティの映画は常に、表面的でない人間の心理を見つめていました。

『山猫』は、イタリア近代化の波の中で、自分の時代が終わりつつあるのを感じているシチリア貴族のサリーナ公爵、『ベニスに死す』は、静養中のベニスで一人の美少年に心を奪われてしまった老作曲家アシェンバッハが主人公です。

後期の作品郡において重要なテーマであった“老い”と“死”。これはもちろんヴィスコンティ自身の問題でした。

「(かつての『若者のすべて』のような)完全に知ることのできない現実問題に立ち向かうには、私はあまりに年をとりすぎた。いまもう一本の映画をつくることが許されるとしたならば、それは私にもっともふさわしいと感じる映画だ。」

サリーナ公爵とアシェンバッハ。映画における、おなじ人生の終盤に差し掛かったふたりの姿はあまりにも違います。新たな世代に道を譲り、威厳を保ったまま消え去るものと、美と若さに恋焦がれ、さびしく終わっていくもの。2作の間にある8年の歳月は、ヴィスコンティの“老い”に対する心情の変化が現れているのかもしれません。

ちなみに、当館で去年の夏に特集を組んだジャン・ルノワール監督。ヴィスコンティは、ルノワールの『ピクニック』の助監督として、映画の世界に足を踏み入れました。自然主義のおおらかなルノワールの映画と豪華絢爛で重厚なヴィスコンティの映画。ふたりの作品は一見全く異なるもののように思えます。けれど、ヴィスコンティの、時に残酷なほどのリアリズムは、まさしくルノワールの影響を受けています。

終わりゆくものの美しさと醜さを包み隠さず描き、“人間の本当”に迫ったヴィスコンティ。彼にしか成し得なかったその圧倒的な迫力は、作品が生まれて4、50年経った今日でもまったく色褪せるものではありません。

(パズー)

山猫【イタリア語・完全復元版】
IL GATTOPARDO
(1963年 イタリア/フランス 187分*復元謝辞含む シネスコ/MONO)
2013年4月6日から4月12日まで上映
■監督・脚本 ルキーノ・ヴィスコンティ
■原案 ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ
■脚色 スーゾ・チェッキ・ダミーコ/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ/エンリコ・メディオーリ/マッシモ・フランチョーザ
■撮影 ジュゼッペ・ロトゥンノ
■音楽 ニーノ・ロータ

■出演 バート・ランカスター/アラン・ドロン/クラウディア・カルディナーレ/リーナ・モレッリ/パオロ・ストッパ/ロモーロ・ヴァッリ/ジュリアーノ・ジェンマ

■第16回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞

シチリアの大地に最後の輝きを放つ 貴族社会の壮麗なる落日
抬頭する新勢力と滅びゆく者の美学を
豪華絢爛に描く一大叙事詩

pic1860年、イタリアは近代国家に統一される歴史的変革のときを迎えていた。山猫の紋章で知られるシチリアの名門貴族サリーナ公爵にもその波は押し寄せていた。貴族社会が終わりを告げる日が目前に迫りながらも、公爵の優雅さは何ら変わることはなかった。一方公爵が息子たちよりも目をかけている甥のタンクレディは革命軍に参加、時代の変化に機敏に適応。さらに新興ブルジョワジーの絶世の美女アンジェリカと出会い、身分違いでありながら公爵の計らいで婚約へとこぎつける。

二人の婚約が発表され、アンジェリカの社交界デビューとなる舞踏会。公爵は彼女の誘いでワルツを踊る。この流麗なダンスこそが新しい時代の幕開けを告げるものであり、サリーナ公爵のひとつの役目が終わったときでもあった…。

何も足さず何も引かない完璧なる3時間6分の陶酔!
映像の世界遺産とも呼べる名作が、燦然と真の輝きを放つ。

pic第16回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いた巨匠ルキーノ・ヴィスコンティの『山猫』。ヴィスコンティが唯一自身を語った意味でも真の代表作であり、フランシス・F・コッポラ、ベルナルド・ベルトルッチら後の巨匠に大きな影響を与えた作品である。ヴィスコンティという唯一無二の才能のみが成し得た、もう二度と創ることのできない華麗なる一大叙事詩。特殊効果やデジタル映像の力に溺れない映画本来の豊かな時間、そして極上の陶酔感を存分に味わえるに違いない。

シチリア貴族、ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサが死の直前に完成させた原作小説を、ミラノを統治した名門貴族の末裔ヴィスコンティが映像化した、滅びゆく貴族社会の最期の輝き。ヴィスコンティの分身と言われる老貴族サリーナ公爵を演じるのはバート・ランカスター。新時代を象徴する若く美しい恋人たちは、アラン・ドロンとクラウディア・カルディナーレ。音楽はニーノ・ロータ、撮影はジュゼッペ・ロトゥンノと、ヴィスコンティ組の常連が参加した。全編の約1/3を占める大舞踏会のシーンは、映画史上の伝説ともいえる、ヴィスコンティ美学の真髄である。


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ベニスに死す
DEATH IN VENICE
(1971年 イタリア/フランス 131分 シネスコ/MONO)
2013年4月6日から4月12日まで上映
■監督・製作・脚本 ルキーノ・ヴィスコンティ
■脚本 ニコラ・バラルッコ
■原作 トーマス・マン「ベニスに死す」(集英社文庫)
■撮影 パスクァリーノ・デ・サンティス
■音楽 グスタフ・マーラー「交響曲第3番」「交響曲第5番」

■出演 ダーク・ボガード/ビョルン・アンドレセン/シルヴァーナ・マンガーノ/ロモロ・ヴァリ/マーク・バーンズ/ノラ・リッチ/マリサ・ベレンソン/キャロル・アンドレ/フランコ・ファブリッツィ

■1971年カンヌ国際映画祭25周年記念賞/1971年英国アカデミー賞撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞・音響賞受賞

美は滅びない。
大作曲家の心をとらえたギリシャ彫刻のような美少年…
その愛と死を華麗に描く一大交響詩!!

pic1911年、夏。ベニスを静養のために訪れたドイツの高名な作曲家アシェンバッハは、滞在先のホテルで出会ったポーランド人の美少年タジオに心を奪われる。夏の終り、コレラが蔓延するベニスで出会ってしまった“究極の美”。その瞬間、美の囚人となったアシェンバッハの苦悩と恍惚が始まった…。

映画史に燦然と輝く総合芸術の頂点が、
今再び私たちの前にその姿を現す。

picヴィスコンティの作品の中でも『山猫』と並んで屈指の完成度を誇る傑作『ベニスに死す』。日本では遅れていたヴィスコンティの評価を不動のものとし、かつ最も愛されるヴィスコンティ作品となった。原作はノーベル文学賞に輝くドイツの文豪トーマス・マンの同名小説。主人公のモデルは、ロマン派の大作曲家グスタフ・マーラー。主題曲に使用された「交響曲第5番(アダージェット)」の旋律は百を語るより雄弁に主人公の苦悩と歓喜、恍惚と絶望を謳い上げている。見事な音楽と映像の融合や、映画史上例を見ない甘美で残酷なラストシーンは圧巻である。

主人公アシェンバッハを見事に演じたのは名優ダーク・ボガード。そのアシェンバッハを虜にするタジオには、当時15歳のビョルン・アンドレセン。原作の「ギリシャ芸術最盛期の彫刻作品を思わせる」金髪碧眼の少年を求め、ヴィスコンティ自らヨーロッパ中を旅して発見した。その完璧なまでの美しさは、今も伝説として語り継がれている。



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