【2024/3/16(土)~3/29(金)】『タクシードライバー』『狼たちの午後』/『イージー★ライダー』『俺たちに明日はない』/『博士の異常な愛情』『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』

パズー

アメリカン・ニューシネマ。アメリカン・ニューウェーブ。あるいはニューハリウッド。多くの映画を観たり映画史を学んだりするうえで、必ず触れることになるであろう重要なムーブメントです。1960~70年代のアメリカで起こったこの大きな潮流のなかで生まれた数多くの傑作は、現代映画のかたちをある種決定づけたといえるでしょう。今日にいたるまで、その後に作られた作品たちに多大な影響を及ぼしています。今回は、そのなかから6本をセレクトして上映いたします。

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『タクシードライバー』と『狼たちの午後』の主人公はどちらもベトナム帰還兵です。本来なら英雄であるはずの彼らが、職にあぶれ、孤独を感じ、その怒りややるせなさが暴力や犯罪に向かってしまうという辛辣な現実。戦場を直接描かずとも、大都会ニューヨークにも暗い影を落とす戦争の「負」を、両作品は突きつけます。

『タクシードライバー』はロバート・デ・ニーロ、『狼たちの午後』はアル・パチーノが主演。盟友にして最大のライバルである二人のその後の活躍は説明するまでもないでしょう。レジェンドアクターの若き日の名演を堪能できます。

ニューシネマ幕開けの作品といわれる『俺たちに明日はない』と、ニューシネマを決定づけた象徴的作品『イージー★ライダー』。“自由”を絵に描いたようなアウトサイダーたちの逃避行を描きながら、あまりにも有名なバッドエンドを迎える両作品。しかし、鑑賞後に残るのは突き落とされるような絶望感とは違う、どこかカラッとした印象です。

「みな自由自由と口にはするが、本当に自由な奴をみるのが怖いんだ」『イージー★ライダー』でジャック・ニコルソンがいうセリフは忘れられません。無鉄砲な登場人物たちに憧れながらも、「上手くいくはずがない」と心のどこかで感じてしまう――“自由”とは何かを見る者へ乱暴すぎるほどに問いかける作品です。

『博士の異常な愛情』と『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』はいわゆるニューシネマに属する作品と語られることはありませんが、当時の世相を強烈なユーモアをもって反映させた異色のコメディ/ホラーです。

冷戦の最中に作られ、核戦争の恐怖を正面切ってナンセンスコメディとして扱った恐れ知らずのキューブリック。「ゾンビ」というジャンルを確立させた記念碑的ホラーというだけでなく、当時は異例だった黒人青年が主人公という設定で、ベトナム戦争や公民権運動などを想起させる人間ドラマに仕立てた革命者ロメロ。熱狂的ファンを持つ巨匠たちの初期作にして重要作といえるでしょう。

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今回上映する6作品はどれも、当時の空気を象徴する作品に違いありません。映画と社会がこんなにも密接に繋がっていたことを、50年以上が経った今、驚きと少しの羨望も感じてしまいます。こんな作品、もう作れない…と。60~70年代にしか生まれ得なかったアメリカ映画傑作選、お楽しみください。

狼たちの午後
Dog Day Afternoon

シドニー・ルメット監督作品/1975年/アメリカ/125分/DCP/ビスタ

■監督 シドニー・ルメット
■製作 マーティン・ブレグマン/マーティン・エルファンド
■脚本 フランク・ピアソン
■撮影 ヴィクター・J・ケンパー
■編集 ディード・アレン

■出演 アル・パチーノ/ジョン・カザール/ジェームズ・ブロデリック/チャールズ・ダーニング/クリス・サランドン/ペニー・アレン/キャロル・ケイン/サリー・ボイヤー/ランス・ヘンリクセン

■第48回アカデミー賞脚本賞受賞・作品賞・主演男優賞ほか3部門ノミネート/1975年LA批評家協会賞作品賞・男優賞・監督賞受賞/英国アカデミー賞主演男優賞・編集賞受賞・作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート

©1975 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

仕事は10分もあればカタがつくはずだった…

1972年8月22日、ニューヨークは茹だるような暑さだった。14時57分、ブルックリンのチェイス・マンハッタン銀行に3人の強盗が押し入った。10分もあれば済む計画だったはずが、1人が怖気づいて逃走。だがソニーとサルがそれ以上に予想外だったのは、行内に現金がほとんど残っていないことだった。途方に暮れるソニーの元に、警察から銀行は完全に包囲した、武器を捨てて出てこいと電話が入るが…。

圧倒的な人物造形。爆発寸前のニューヨークを繊細な描写で綴る、シドニー・ルメットの傑作。――Vincent Canby, THE NEW YORK TIMES

焼け付くように暑い8月の一昼夜にブルックリンで実際に起こった事件を、大胆かつ衝撃的に映画化。白昼堂々と銀行に押し入った素人の2人組強盗のあまりにも突飛で無謀な行動を克明に追うこの作品は、手痛い黒星を演じた警察側と犯人たちの対立を中心に、人質となった人々やヤジ馬たちの心理をからませて見事な出来映えを示し、全米で大ヒットを記録。骨太のドラマでありながら、どこかユーモラスな雰囲気を醸し出す、傑作社会派スリラー。

監督は『12人の怒れる男』『オリエント急行殺人事件』のシドニー・ルメット。主演のアル・パチーノは『ゴッドファーザー』(72/助演)、ルメット監督との初コンビ作『セルピコ』(73)、『ゴッドファーザーPARTⅡ』(74)、そして1975年の本作と4年連続アカデミー賞候補となり、演技派の地位を確立した。また、後に大ヒット作『スター誕生』の脚本・監督を手掛けたフランク・ピアソンは本作でアカデミー脚本賞を受賞した。

タクシードライバー
Taxi Driver

マーティン・スコセッシ監督作品/1976年/アメリカ/114分/35mm/PG12/ビスタ/SRD

■監督 マーティン・スコセッシ
■脚本 ポール・シュレイダー
■撮影 マイケル・チャップマン
■音楽 バーナード・ハーマン

■出演 ロバート・デ・ニーロ/シビル・シェパード/ピーター・ボイル/ジョディ・フォスター/アルバート・ブルックス/ハーヴェイ・カイテル

■1976年カンヌ国際映画祭パルム・ドール/アカデミー賞作品賞、主演男優賞、助演女優賞、作曲賞ノミネート/全米批評家協会監督賞・主演男優賞・助演女優賞受賞

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

ニューヨークの夜が、ひそやかな何かをはらんで いま、明けてゆく…

ベトナム帰りのタクシードライバー、トラヴィス。彼は毎夜ニューヨークの街を流しながら、世の中への苛立ちを抱えていた。そんなある日、トラヴィスは大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィに目をつけ、デートの約束を取り付ける。しかし彼はこともあろうに彼女をポルノ映画館に連れて行き、絶交されてしまった。鬱屈した精神状態へと追い込まれるトラヴィス。やがて、闇のルートで強力な銃を手に入れ、自己鍛錬に励むようになるが…。

元ベトナム帰還兵のタクシードライバーを通して現代社会の病理を痛烈にえぐり出す、アメリカン・ニューシネマ最後の傑作

1976年のカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞したマーティン・スコセッシの出世作。お互いに心のふれあうことのない大都会で、ひとりの青年が自分の存在を必死で世間に認めさせようとする姿を描く。主演のデ・ニーロは、本作の役作りとして毎日12時間、1カ月の間タクシードライバーとして過ごしたという。また、売春婦アイリス役は250人以上の応募者がいたオーディションで当時13歳のジョディ・フォス ターが勝ち取った。

音楽を担当したのは、ヒッチコック作品の多くを手掛けたバーナード・ハーマン。ニューヨークの乾いた空気を表現た音楽は秀逸。脚本は、『レイジング・ブル』の脚本も手掛けたポール・シュレイダー。後に『アメリカン・ジゴロ』など監督としても活躍し、近年では『魂のゆくえ』『カード・カウンター』で監督・脚本を担当し高い評価を得ている。

俺たちに明日はない
Bonnie and Clyde

アーサー・ペン監督作品/1967年/アメリカ/111分/DCP/ビスタ

■監督 アーサー・ペン
■製作 ウォーレン・ベイティ
■脚本 デビット・ニューマン/ロバート・ベントン
■撮影 バーネット・ガフィ
■音楽 チャールズ・ストラウス

■出演 ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ/ジーン・ハックマン/エステル・パーソンズ/マイケル・J・ポラード

■第40回アカデミー賞助演女優賞・撮影賞受賞・作品賞・監督賞ほか6部門ノミネート/第25回ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演男優賞・主演女優賞ほか3部門ノミネート 他多数受賞・ノミネート

©1967 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

暴力、セックス、芸術。ハリウッド映画のすべてを打ち破ったニューシネマの傑作!

刑務所から出所してきたクライドは、街で車を盗もうとするが、ボニーに見つかってしまう。田舎町のしがないウエイトレスであるボニーは、平然と強盗を働くクライドに惹かれた。そしてふたりは、ともに街から街へと渡りつつ、強盗を繰り返すようになる。そしてガソリンスタンドの店員のモス、クライドの兄バックとその妻ブランチも仲間に加わり、バロウズ・ギャングとして有名になっていった。彼らは厳重な捜査網をかいくぐりつつ、逃避行を続ける。

20世紀初頭のアメリカ中西部に実在した銀行強盗犯クライド・バロウとボニー・パーカーをモデルにしたクライム映画。大恐慌時代の閉塞感を見事に活写しつつ、虚無的で刹那的な一組のカップルをめぐる青春ストーリーという側面ももつ。その冷徹で乾いた作風は、公開された1967年という時代の空気と相まって、観衆に強烈なインパクトを与えた。今日では、アメリカン・ニューシネマに先鞭をつけた作品として評価が高い。第40回アカデミー助演女優賞(エステル・パーソンズ)、撮影賞を受賞。

この映画のプロデューサーでもあるウォーレン・ベイティは、当初クライド役にはミュージシャンのボブ・ディランがふさわしいと考えていたが、結局自身が演じることになった。一方、ベイティの姉のシャーリー・マクレーンは、ボニー・パーカー役の有力候補であり、それを強く望んでいたが、ベイティはさすがに実姉と恋人役を演じるのは無理と考え、彼女の起用を断念した。

イージー★ライダー
Easy Rider

デニス・ホッパー監督作品/1969年/アメリカ/95分/Blu-ray/R15+/ビスタ

■監督・脚本 デニス・ホッパー
■製作・脚本 ピーター・フォンダ
■脚本 テリー・サザーン
■撮影 ラズロ・コヴァックス
■音楽 ザ・バーズ

■出演 ピーター・フォンダ/デニス・ホッパー/アントニオ・メンドーサ/ジャック・ニコルソン

■1969年アカデミー賞助演男優賞・脚本賞ノミネート/1969年カンヌ国際映画祭新人監督賞・国際エヴァンジェリ映画委員会賞受賞・パルムドールノミネート ほか多数受賞・ノミネート

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

伝説のチョッパーバイクと爆発するロック! アメリカの心と、人間の自由を旅に求めた男たち!

マリファナの密輸で大金を得たキャプテン・アメリカとビリーは時計を捨て、バイクを駆ける無計画なアメリカ横断の旅に出た。途中留置場に入れられる。そこで出会った弁護士ハンセンと意気投合する。釈放後3人はマリファナを吸い野宿しながら旅を続けるが、「自由」を体現する彼らは行く先々で沿道の人々の思わぬ拒絶に遭い、ついには殺伐としたアメリカの現実に直面する…。

60年代を鮮烈に描いたアメリカン・ニューシネマの最高峰!

ピーター・フォンダプロデュース第一作である異色作。ハリウッドのトラブルメイカーだったデニス・ホッパーはこの作品で監督デビューし、カンヌ映画祭・新人監督賞を受賞。超低予算のインディペンデント作品だったにもかかわらず、全世界で大ヒットし、映画史に革命を起こした。また、作品と共にヒットしたステッペンウルフのテーマ曲「ワイルドでいこう!」(Born to Be Wild)をはじめ、ザ・バンドやジミ・ヘンドリックス、ロジャー・マッギンなどのロックミュージックも楽しい。

脚本はピーター・フォンダ、デニス・ホッパーそして『キャンディ』のテリー・サザーンが共同執筆し、マリファナ、人種問題、ベトナム戦争、既存社会に反抗する若者と大人の断絶等、数多くの難問を抱えて喘ぐ巨人“アメリカ”の今日像が鋭く描かれてる。

この映画を撮るにあたって、スタッフ一同は全く撮影スケジュールを組まなかった。オール・ロケーションで大陸を横断、ハプニング続出の撮影旅行を続けた。(当時のチラシより一部抜粋)

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4Kリマスター版
Night of the Living Dead

ジョージ・A・ロメロ監督作品/1968年/アメリカ/96分/DCP/スタンダード

■監督・原案・脚本・撮影・編集 ジョージ・A・ロメロ
■製作 カール・ハードマン/ラッセル・ストライナー
■共同脚本 ジョン・A・ルッソ
■音楽 ウィリアム・ルース/フレッド・シュタイナー
■特殊効果 トニー・パンタネラ/レジス・サーヴィンスキー

■出演 デュアン・ジョーンズ/マリリン・イーストマン/ジョージ・コサナ/ジュディス・オーディア/カール・ハードマン/キース・ウェイン/ジュディス・リドリー/ラッセル・ストライナー/チャールズ・クレイグ/ビル・カーディル

■アメリカ国立フィルム登録簿1999年

4K restoration © 2017 Image Ten, Inc. All rights reserved.
“NIGHT OF THE LIVING DEAD was restored by the Museum of Modern Art and The Film Foundation,
with funding provided by the George Lucas Family Foundation and the Celeste Bartos Preservation Fund.

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

その日、何の前触れもなく生ける屍が歩き出し人々を襲い始めた…

父の墓参りにやってきたバーバラと兄のジョニーに、突然よみがえった死体が襲い掛かる。ジョニーは抵抗するも殺害され、バーバラは恐怖と悲しみに襲われながら近くの民家に逃げ込む。彼女に続けて飛び込んできたのは、黒人青年のベン。地下室には、若いカップルのトムとジュディ、クーパー夫妻と大きな傷を負った娘のカレンが隠れていた。外部との連絡も取れないまま、民家はゾンビの群れに取り囲まれていく。ベンはゾンビの侵入を食いとめながら脱出の方法を探るが、クーパー夫妻の夫ハリーは救助が来るまで地下室に隠れていることに強くこだわり、対立を深める。容赦なく押し寄せてくるゾンビの群れ。彼らは生き延びることができるのか…?

歴史にその名を刻むゾンビ映画の原点が最高のクオリティで蘇る!

その登場で、すべてが変わった――。当時、弱冠28歳だったジョージ・A・ロメロ監督の長編デビュー作にしてホラー映画の革命的存在、ゾンビ映画の祖となった『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)。本作の出現により定義された“ゾンビ像”は、世界各国で現在に到るまで、バージョンアップを経ながらも映画・コミック・アニメ・ゲームなどあらゆるエンターテインメントやアートに影響を及ぼし続けてきた。

その本作を、世界中の名作をレストアしリリースしている米クライテリオン・コレクション社が、逝去する前年である2016年にロメロ、そして共同脚本ジョン・A・ルッソらの監修により4Kデジタルレストア。サウンドトラックに関してもロメロらの監修で新たに修復。画も音も鮮明に、かつてない迫力でよみがえり、ふたたびその異様さと《恐怖の根源》を以て猛威を振るう。もっともシンプルかつ揺るぎない力を持ち、映画史における歴史的重要作品は、全人類必見。人間が人間を破滅させていく――常に社会風刺を込めてきたロメロならではのテーマは時を越え、我々に今、痛烈に襲いかかる。

博士の異常な愛情 
Dr. Strangelove

スタンリー・キューブリック監督作品/1964年/アメリカ・イギリス/93分/Blu-ray/ヨーロピアンビスタ

■監督・製作・脚本 スタンリー・キューブリック
■製作 ヴィクター・リンドン
■原作 ピーター・ジョージ「赤い警報」
■脚本 ピーター・ジョージ/テリー・サウザン
■撮影 ギルバート・テイラー
■編集 アンソニー・ハーヴェイ
■音楽 ローリー・ジョンソン

■出演 ピーター・セラーズ/ジョージ・C・スコット/スターリング・ヘイドン/キーナン・ウィン/スリム・ピッケンズ/ピーター・ブル

■第37回アカデミー賞作品賞・主演男優賞・監督賞・脚色賞ノミネート/第30回NY批評家協会賞監督賞受賞/第18回英国アカデミー賞作品賞・美術賞・国連賞受賞、男優賞・脚本賞ノミネート

【2024/3/16(土)~3/29(金)上映】

鬼才キューブリックが、核戦争の恐怖に迫るブラック・コメディの傑作。

時は冷戦の真っ只中。アメリカの戦略空軍基地司令官リッパー将軍が突然、ソ連への水爆攻撃を命令する。ところがソ連が保有している核の自爆装置は水爆攻撃を受けると10ヶ月以内に全世界を破滅させてしまうと判明。両国首脳陣は最悪の事態を回避すべく必死の努力を続けるが、水爆はついに投下されてしまう…。

元英空軍パイロット、ピーター・ジョージの極めてシリアスな小説「破滅への二時間(原題:赤い警報)」を原作に、核戦争の恐怖と現実の不条理を一級のブラック・コメディに仕立てた異色作。 スタンリー・キューブリックの代表作であり、後に続く『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』とあわせて、“SF三部作”とも呼ばれる。

主演は『ロリータ』『ピンクパンサー』シリーズのイギリスの名優ピーター・セラーズ。英軍大佐、マフリー米大統領、ストレンジラブ博士の一人三役を見事に演じ、一層異彩を放っている。キューブリックは彼の即興演技を高く評価し、原作よりも大幅に出演シーンを増やしたという。