【2019/9/28(土)~10/4(金)】『魂のゆくえ』『ハイ・ライフ』

ぽっけ

「WILL GOD FORGIVE US?:神は許し給うか」

『魂のゆくえ』の主人公エルンスト・トラー牧師は、牧師として従軍したイラク戦争で息子を亡くした。父子代々続く家柄から、妻の反対を押し切って息子を戦争に行かせたのだ。彼は妻と別れ、通称「お土産屋」と揶揄されるファースト・リフォームド教会で観光客の相手をしながら、自責の念を隠すように祈り、暮らしていてた。ある日彼の元に妊婦メアリーが訪ねてくる。極端な環境保護論者である彼女の夫は、地球の未来を案じて、彼女の出産に反対しているのだという。

「自分の心配はしてない、世界がこうなるのも仕方ないと思う。
でも、分からないんです。
こんな世界に子供を産めますか?」

囚人たちを乗せた宇宙船が光の速さで銀河の果てのブラックホールへ向かっている。空気・水・土すべてが船室で循環し、排泄物から取り出された蒸留水が植物に降りかかる完全循環型の生活システム。この宇宙船「7」で行なわれる彼らのミッションは、刑期の短縮と引き換えに、命がけでブラックホールからエネルギーを取り出すという無謀なものだ。

SFといえど完全に厳密に限定された『ハイ・ライフ』の空間で描かれる、漆黒の闇の中に落下するように脱落していく命と、一人の女医によって生殖実験が行われる中、性交を禁止された囚人たちの生々しい性と欲望の姿。罪深きものたちの罪深き旅路。ここは神の背中に回った場所なのだろうか。

「父」「タブー」。放射能に晒された船内で生まれた初めての子・ウィローに父モンテが最初に教えた言葉は、未来の見えない孤独な旅路でモンテ自身が心に定めた唯一のルールだった。果てしなく上昇しながら光の行く末を見据える父と娘。彼らの歩みは地上に暮らす我々には眩しすぎる。

『魂のゆくえ』のトラーや『ハイ・ライフ』のモンテが、自分たちを取り巻く過酷な環境のなかで孤独に耐える姿は、現代を生きる誰もが心に抱えながらも誰にも見せることのできない闇をこじ開けてしまうかもしれない。しかし、絶望よりももっと大きく口を開ける虚無と向き合う姿は私たちの心を震わせる。

社会のシステムは人間自身を反映している。いま自分を取り囲む世界の仕組みを私たちは自覚しているのだろうか。こんなことを日夜考えながら都市生活を送っていたら頭が変になってしまうかもしれない。しかし映画はそんなふうに普段は隠している不安や罪の意識、抑圧されたエネルギーの在処を、まるで救いのように照らし出してくれている。

ハイ・ライフ
High Life

クレール・ドゥニ監督作品/2018年/ドイツ・フランス・イギリス・ポーランド・アメリカ/113分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 クレール・ドゥニ
■共同脚本 ジャン=ポール・ファルジョー
■撮影 ヨリック・ル・ソー
■編集 ギ・ルコルヌ 
■音楽 スチュアートA・ステイプルズ 

■出演 ロバート・パティンソン/ジュリエット・ビノシュ/アンドレ・ベンジャミン/ミア・ゴス

■2018年トロント国際映画祭GALA部門正式出品/サン・セバスティアン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞/ゲント国際映画祭最優秀音楽賞受賞

© 2018 PANDORA FILM – ALCATRAZ FILMS

【2019年9月28日から10月4日まで上映】

究極の密室、目覚める欲望

太陽系をはるかに超え宇宙を突き進む一隻の宇宙船「7」。その船内で、モンテは生まれたばかりの娘ウィローと暮らしている。宇宙船の乗組員は、9人全員が死刑や終身刑の重犯罪人たち。モンテたちは刑の免除と引き換えに、美しき科学者・ディブス医師が指揮する“人間の性”にまつわる秘密の実験に参加したのだった。だが、地球を離れて3年以上、究極の密室で終わり無き旅路を続ける彼らの精神は、もはや限界に達しようとしていた。そんな中、ミッションの最終目的地「ブラックホール」がすぐ目の前に迫っていた――。

フランスの鬼才クレール・ドゥニが仕掛ける、新たなるSFスリラーの傑作!

本作は、『ショコラ』『パリ、18区、夜。』『ネネットとボニ』など、女性監督ならではの感性で時代を切り開いてきたフランスを代表する巨匠クレール・ドゥニ監督が、初めて挑むSF作品であり、初めての英語による長編映画。宇宙船という逃げ場のない“究極の密室”に渦巻く、嫉妬、怒り、欲望。美しきマッド・サイエンティストの禁断の実験と、壊れゆく人間たちのサバイバルを描く。

主人公モンテ役には、監督が『トワイライト』から注目していたというロバート・パティンソンを抜擢。新作『サスペリア』など活躍めざましいミア・ゴスらが共演している。そして、謎の科学者・ディブス医師役には監督の前作に続くタッグとなるジュリエット・ビノシュ。彼女が体当たりで演じた衝撃的なシーンは、世界各地の映画祭で物議を醸した。

魂のゆくえ
First Reformed

ポール・シュレイダー監督作品/2017年/アメリカ/113分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 ポール・シュレイダー
■撮影 アレクサンダー・ディナン
■編集 ベンジャミン・ロドリゲスJR. 
■音楽 ラストモード 

■出演 イーサン・ホーク/アマンダ・セイフライド/セドリック・カイルズ/ヴィクトリア・ヒル/フィリップ・エッティンガー

■2018年アカデミー賞脚本賞ノミネート/全米批評家協会賞主演男優賞受賞/NY批評家協会賞男優賞・脚本賞受賞/インディペンデント・スピリット賞主演男優賞受賞、作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

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【2019年9月28日から10月4日まで上映】

傷ついた心 聖なる願い 静かなる怒り

ニューヨーク州北部の小さな教会「ファースト・リフォームド」。牧師のトラーは信徒のメアリーから相談を受ける。彼女の夫が地球の環境問題を思い悩むあまり、出産に反対しているというのだ。夫の説得を試みるトラーだったが、逆に教会が汚染企業から間接的に献金を受けている事実を知ってしまう。悩めるトラーは、やがてある決意をする。彼の聖なる願いと魂の行き着く先は…。

巨匠ポール・シュレイダーが再び、時代を射抜く! 構想50年の末に完成させた渾身作にして最高傑作

『タクシードライバー』『レイジング・ブル』などの傑作を手がけた脚本家として知られ、監督としても『アメリカン・ジゴロ』などの映画史に残る作品を生み出してきたポール・シュレイダー。本作『魂のゆくえ』では、戦争で失った息子への罪悪感を背負って暮らす牧師が、自分の所属する教会が社会的な問題を抱えていることに気づき、徐々に諦念と怒りで満ちていく様子を衝撃的に描いていく。

聖職者でありながら内なる怒りと葛藤を抱える主人公トラー牧師を熱演するのはイーサン・ホーク。彼を頼る女信徒メアリー役を『マンマ・ミーア!』『レ・ミゼラブル』などのスター女優アマンダ・セイフライドが演じている。
ブレッソン、ベルイマン、タルコフスキーなど偉大なる映画作家達にオマージュを捧げながらも、シュレイダーのほとばしる情熱が現代アメリカ社会の闇を容赦なく暴き出す。