いよいよマーティン・スコセッシ監督の構想28年の執念の企画、
遠藤周作の名作「沈黙」の映画化作品『沈黙-サイレンス‐』が公開になります。
それを記念して、今回はスコセッシの監督作品と遠藤周作の原作作品の特集をお送りします。
スコセッシも遠藤周作も敬虔なカトリック教徒です。
キリスト的宗教観を通して現実を果敢に生きようとする人々を鮮烈に描いてきた二人の作品を振り返り、
『沈黙-サイレンス‐』観賞のガイドとして頂けたらと思います。
ギャング・オブ・ニューヨーク
GANGS OF NEW YORK
(2002年 アメリカ/イタリア 167分 シネスコ/SRD)
1/21(土)・23(月)・25(水)・27(金)上映
■監督・製作 マーティン・スコセッシ
■製作 アルベルト・グリマルディ
■脚本 ジェイ・コックス/ケネス・ロナガン/スティーブン・ザイリアン
■撮影 ミヒャエル・バルハウス
■音楽 エルマー・バーンスタイン/ハワード・ショア
■出演 レオナルド・ディカプリオ/キャメロン・ディアス/ダニエル・デイ=ルイス/リーアム・ニーソン/ヘンリー・トーマス/ブレンダン・グリーソン/ジム・ブロードベント/ジョン・C・ライリー/ゲイリー・ルイス
■2002年アカデミー賞作品賞、主演男優賞、監督賞、 脚本賞ほか6部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞監督賞・歌曲賞受賞/NY批評家協会賞男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)受賞 ほか多数受賞・ノミネート
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★4日間上映
19世紀半ば、ニューヨーク。縄張り争いを繰り広げる移民同士の抗争により、目の前で父親を殺された少年アムステルダム。自らも投獄された彼は、15年の時を経て、父を殺したギャング組織のボス、ビルへの復讐を誓い、この地に帰ってきた。素性を隠し、ビルの組織に入り込んだアムステルダムは、そこで美しくも謎めいた女ジェニーに出会い、許されない恋におちる――。
マフィアによる組織犯罪と厳格な教会の教えが同居するNY(マンハッタンのリトルイタリー)で育ったスコセッシが、自身の生まれ育った都市の形成にまつわるルポタージュを(『沈黙-サイレンス‐』と同じく)長大な年月をかけて映画化したのが本作です。移民たちとネイティヴ(彼らも元を辿れば移民なのですが)、貧しき者と富める者の断絶と衝突を壮絶なタッチで描いた本作のテーマは、公開から15年後の現在(残念ながら、というべきか)よりアクチュアルで切実なものになっています。当時はまだ『タイタニック』のイメージが強かったディカプリオですが、この作品以降2枚目スターから脱皮していくのは周知のとおりです。今最も観直され、再評価されるべき力作です。
タクシードライバー
TAXI DRIVER
(1976年 アメリカ 114分 ビスタ/SRD)
1/21(土)・23(月)・25(水)・27(金)上映
■監督 マーティン・スコセッシ
■脚本 ポール・シュレイダー
■撮影 マイケル・チャップマン
■音楽 バーナード・ハーマン
■出演 ロバート・デ・ニーロ/シビル・シェパード/ピーター・ボイル/ジョディ・フォスター/アルバート・ブルックス/ハーヴェイ・カイテル
■1976年カンヌ国際映画祭パルム・ドール/アカデミー賞作品賞、主演男優賞、助演女優賞、作曲賞ノミネート/全米批評家協会監督賞・主演男優賞・助演女優賞受賞
©1976, renewed 2004 Columbia Pictures Industries,
Inc. All Rights Reserved.
★4日間上映
ベトナム帰りのタクシードライバー、トラヴィス。彼は毎夜ニューヨークの街を流しながら、世の中への苛立ちを抱えていた。そんなある日、トラヴィスは大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィに目をつけ、デートの約束を取り付ける。しかし彼はこともあろうに彼女をポルノ映画館に連れて行き、絶交されてしまった。鬱屈した精神状態へと追い込まれるトラヴィス。やがて、闇のルートで強力な銃を手に入れ、自己鍛錬に励むようになるが…。
時に過激な暴力やドラッグの描写が物議を醸すスコセッシ作品ですが、そんな殺伐とした現実と、自らのキリスト的倫理観の間で苦悶する登場人物がしばしば登場します。「俺は神に選ばれし孤独な男だ」と日記に書き連ねる『タクシードライバー』の主人公トラヴィスはその典型です。宗教とテロリズム(暴力)の関係は、近年よりクローズアップされる問題になっていますが、暴力に走る危うい感情は極端に狂信的な一部の人たちのものではなく、理想と現実に齟齬を感じて苦悩するすべての現代人が多かれ少なかれ持っているものなのだと思います。公開から40年以上経った本作が、今なお多くの人たちの心を掴んで離さないことがそれを証明しています。スコセッシの代表作であり、永遠の問題作です。
海と毒薬
(1986年 日本 123分 ビスタ/MONO)
1/22(日)・24(火)・26(木)上映
■監督・脚本 熊井啓
■原作 遠藤周作
■撮影 栃沢正夫
■美術 木村威夫
■音楽 松村禎三
■出演 奥田瑛二/渡辺謙/岡田真澄/成田三樹夫/西田健/神山繁/岸田今日子/根岸季衣/田村高廣
■1987年ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)受賞/ブルーリボン賞監督賞受賞
©滝島恵一郎
★3日間上映
昭和20年5月、敗戦の色はもはや隠しようもなく、九州F市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。F帝大医学部研究生、勝呂と戸田の二人は、物資も薬品もろくに揃わぬ状況の中で、なかば投げやりな毎日を送っていた。そんなある日、勝呂と戸田は、教授たちにのもとに呼び出され、驚くべきことを要請される。それは、B29爆撃機の捕虜8名の生体解剖実験を手伝えというのものだった…。
熊井啓監督によって映画化された「海と毒薬」は戦争末期に九州の病院で起こったアメリカ人捕虜の生体解剖実験を題材にした作品です。とはいえ、そのおぞましくセンセーショナルな事件自体よりも、そこに加担してしまった普通の人々の姿を通し、「無宗教」という「宗教」を漫然と信奉している日本人の罪と罰について鋭く問いかけた作品です。熊井監督も構想から長い年月をかけ、執念で本作を完成させました。リアリズムを徹底的に追及した美術、コントラストの強いモノクロ画面から生まれる緊張感が、登場人物たちの生きた時代に私たちを引き込みます。監督補として『ゆきゆきて、神軍』の監督・原一男が付いていることも見逃せません。
沈黙 SILENCE(1971)
(1971年 日本 130分 スタンダード/MONO)
1/22(日)・24(火)・26(木)上映
■監督・脚本 篠田正浩
■原作・脚本 遠藤周作
■撮影 宮川一夫
■美術 栗津潔
■音楽 武満徹
■出演 ディヴィッド・ランプソン/マコ・岩松/ダン・ケニー/岡田英次/岩下志麻/三田佳子/丹波哲郎
■1972年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート
©表現社
★3日間上映
★本編はカラーです。
17世紀中頃の日本。激しい弾圧がキリシタンに加えられている長崎に、密かに入った二人のポルトガル宣教師がいた。ガルペとロドリゴである。20年前に渡来し捕らえられた恩師の消息を探るのが目的だ。キチジローに案内され隠れキリシタンの村にかくまわれたガルペとロドリゴだったが、キチジローは金欲しさにロドリゴを役人に売り渡してしまう…。
66年に発表された小説「沈黙」は、信仰に対する根源的な問いに苦悶するポルトガル宣教師の姿を重厚かつドラマチックに描いた世界的名作です。本作は遠藤周作自身の共同脚本で一度映画化されており、それが今回上映する篠田正浩監督の『沈黙 SILENCE』です。原作にかなり忠実でありながら、篠田監督らしいスタイリッシュな映像が印象的な作品に仕上がっています。撮影の宮川一夫、美術の粟津潔、音楽の武満徹といった世界的に名高い芸術家たちが参加しているのにも注目です。スコセッシ版で浅野忠信が演じている通詞役を戸浦六宏が、リーアム・ニーソンが演じているフェレイラ役を丹波哲郎が(!)それぞれ演じているなど、新旧で見比べるのもおもしろいと思います。
(ルー)