ミ・ナミ
いつまで経っても、人は「大きな子ども」だ。
“大人”を自覚する年齢になったとき、私はそう痛感したのでした。社会的にもう子供ではないにもかかわらず、まるで背丈に合わない服を着させられたような…。自分にとって“大人”と呼ばれることには、そんな居心地の悪さを感じたものです。一体人間は、いつ本当の“大人”になれるのでしょうか?
父の失業をきっかけに露呈する両親の弱さを、息子ジョーの視点で追う『ワイルドライフ』。父の愛情を一身に受けていたはずの青年ニックがドラッグによって身も心も破滅していくさまをシビアに描写した『ビューティフル・ボーイ』。登場人物たちはみな傷だらけです。だからと言って作り手は、家庭の不和を悲劇的に見せたり、あるいは薬物中毒というショッキングな主題を、むやみにかき立てるように描こうとはしていません。『ワイルドライフ』の監督ポール・ダノは「私が育っていた家庭には愛情が溢れていましたが、大きな波風が立つこともありました。」と、自身のことをふりかえっています。
『ワイルドライフ』のジョーも、『ビューティフル・ボーイ』の父親デヴィッドも、大切な人が抱えていた不安やさびしさを必死で拭おうとし、何とかもう一度絆をたぐり寄せようとします。程度差はあれ家族に困難がつきものであるなら、苦労や不和があることが不幸せなのではなく、わだかまりを放置して互いの気持ちが離れてしまうことが最も悲しいということを、映画は教えてくれます。
身近な人のさびしさを分かち合うことで、気づく「ひとりでは生きてはいけない」自分のもろさ。そんなみっともなさを愛せたその瞬間こそ、人は子どもから大人になれるのかもしれません。
ワイルドライフ
Wildlife
■監督 ポール・ダノ
■製作・共同脚本 ポール・ダノ/ゾーイ・カザン
■撮影 ディエゴ・ガルシア
■編集 マシュー・ハンナム
■音楽 デヴィッド・ラング
■出演 キャリー・マリガン/ジェイク・ギレンホール/エド・オクセンボールド/ビル・キャンプ
■2018年カンヌ国際映画祭批評家週刊オープニング作品/トロント国際映画祭正式出品/サンダンス映画祭正式出品
©2018 WILDLIFE 2016,LLC.
【2019年11月9日から11月15日まで上映】
僕は二人から、人生のすべてを学んだ。
1960年代、カナダとの国境にほど近いモンタナ州の田舎町。14歳のジョーは、ゴルフ場で働く父ジェリーと,家庭を守る母ジャネットの1人息子。新天地での生活がようやく軌道に乗り始めていたのもつかの間、父が職場から解雇されてしまう。さらに、ジェリーは命の危険も顧みず、山火事を食い止める出稼ぎ仕事に旅立ってゆく。
残されたジャネットとジョーは働くことを余儀なくされ、母はスイミングプール、息子は写真館での職を見つけるが、生活が安定するはずもない。やがてジョーは、優しかった母が不安と孤独にさいなまれ、生きるためにもがく姿を目の当たりにすることになる…。
父の失業、母の浮気。別離、そして新たな道――。壊れゆく家族の姿を14歳の息子の心情を通して描く、切なくも優しい物語。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『スイス・アーミーマン』などの個性派俳優ポール・ダノが満を持して鮮烈な監督デビューを飾った。『ルビー・スパークス』で共演したパートナー、ゾーイ・カザンと共同で脚本・製作も担当し、サンダンス映画祭やカンヌ映画祭で絶賛を浴びた。「いつの日か映画を作る時は、きっと、家族についての映画を撮ると思っていた」というダノ。ピューリッツァー賞受賞作家リチャード・フォードの「WILDLIFE」を原作に、ダノ自身の記憶と心情を投影した14歳の少年ジョーの成長物語であり、普遍的な家族の物語が完成した。
互いに愛し合いながら、なす術もなく壊れてゆく夫婦。悲嘆と狂おしいジャネットの思いを圧巻の演技で見せるのは、『わたしを離さないで』のキャリー・マリガン。相手役ジェリーには、『プリズナーズ』でポール・ダノと共演しているジェイク・ギレンホール。そして14歳の主人公ジョーの哀しみと動揺をもの言わぬ演技で表現してみせるのは、『ヴィジット』のエド・オクセンボールド。
幸せだった家族がしだいに壊れていく姿を息子ジョーの目線から静かに深く映し出す。ダノの繊細さと優しさが詰まった『ワイルドライフ』は、観客ひとりひとりの記憶をそっと呼び起こし、温かい余韻をもたらすに違いない。
ビューティフル・ボーイ
Beautiful Boy
■監督 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
■製作 ブラッド・ピット/デデ・ガードナー/ジェレミー・クライナー
■脚本 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン/ルーク・デイヴィス
■原作 デヴィッド・シェフ/ニック・シェフ
■撮影 ルーベン・インペンス
■編集 ニコ・ルーネン
■音楽 ゲイブ・ヒルファー
■出演 スティーヴ・カレル/ティモシー・シャラメ/モーラ・ティアニー/エイミー・ライアン/ケイトリン・デヴァー
■2018年ゴールデン・グローブ賞助演男優賞ノミネート/英国アカデミー賞助演男優賞ノミネート
© 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
【2019年11月9日から11月15日まで上映】
すべてをこえて愛してる
優等生でスポーツ万能、才能豊かな学生として将来を期待されていたニック。しかし彼は、義理の母親、幼い弟たちにとって“いい息子・いい兄”であることがいつも求められていた。そんな日常の中で、つい手を出してしまったドラッグ。断ち切ろうと思いつつも、禁断の誘惑に抗えない自分を恥じる気持ちから、次第にエスカレートしてゆく。
更生施設を抜け出したり、再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で包み込む父親デヴィッド。再生への旅はまだ始まったばかり…。
堕ちていく息子を信じ続けた8年間。ジョン・レノンの名曲が彩る、痛ましくも美しい愛と再生の記録。
本作は、8年という長い歳月をかけてドラッグ依存を克服し、現在はNetflixの人気ドラマ「13の理由」の脚本家として活躍するニック・シェフと、彼を支え続けた家族の物語。原作は、音楽ライターの父親と、依存症だった息子がそれぞれの視点から書いた2冊のベストセラー回顧録だ。破滅の道を突き進む息子ニックを演じるのは、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ。息子を信じ続ける父親デヴィッドを『フォックス・キャッチャー』のスティーヴ・カレルが熱演している。
タイトルは、1980年に発表されたジョン・レノンのアルバム「ダブル・ファンタジー」の同名曲から。当時5歳の愛息ショーンに捧げたこの曲は、劇中でも子守唄として象徴的に使用され、父デヴィッドの心情と見事にリンクする。
2つの異なる視点を融合させ見事なドラマとして完成させたのはベルギー出身のフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督。製作には『ムーンライト』『それでも夜は明ける』など今やオスカー常連となった、ブラッド・ピット率いるプランBエンターテインメント。実話から生まれた残酷なまでにリアルな物語を、克明に描く。
【特別レイトショー】スケート・キッチン
【Late Show】Skate Kitchen
■監督・製作・原案 クリスタル・モーゼル
■脚本 クリスタル・モーゼル/ジェニファー・シルバーマン
■撮影 シャビアー・カークナー
■編集 ニコ・ルーネン
■音楽 アスカ・マツミヤ
■出演 スケートキッチン(カブリーナ・アダムズ/ニーナ・モラン/ジュールス・ロレンゾ/アーディーリア・ラブレス/レイチェル・ヴィンベルク/アジャニ・ラッセル/ブレン・ロレンゾ)/ジェイデン・スミス/エリザベス・ロドリゲス
©2017 Skate Girl Film LLC.
【2019年11月9日から11月15日まで上映】
いま、私たちはここにいる
ニューヨーク郊外に住む17歳の内気な女の子カミーユはスケートボードに熱中しているが、怪我が原因で母親からスケートを止めるように言われる。そんなある日、彼女は“スケート・キッチン”と呼ばれる女の子たちだけのスケートクルーと出会い、彼女たちの一員となる。母親との関係は悪化しつつも、どんどんスケートにのめり込んでいくカミーユは、謎のスケートボーダー男子に恋をする。だが、この男子との関係はスケートボードのどんな基本的な技よりも難しいことが発覚する…。
マンハッタンの“いま”をスタイリッシュに走り抜ける“スケート・キッチン”。『KIDS/キッズ』を彷彿させる、新たなスケボー映画の誕生!
“スケート・キッチン”は、7名で構成されるNYのガールズスケートクルー。 女性はキッチンにいるべきだという固定観念を打破すべく結成され、自分たちの居場所であるスケートパークを“キッチン”としている。
映画『スケート・キッチン』は、さまざまな人種的バックグラウンドをもつ彼女たちが、男社会に生きる女性の生き様と、仲間意識や自己発見の大切さを学び成長していく姿を描いた青春ムービー。監督・脚本を務めたクリスタル・モーゼルは、このガールズスケートクルーに没頭して彼女たちと近づき、共に仕事をした。それが功を奏し、テクニカルなスケートシーンを含む、詩的で独特な雰囲気が漂う作品の完成に繋がった。本作にはスケート・キッチンのメンバーのほか、ウィル・スミスの息子ジェイデン・スミスも出演している。
元となったのは、2011年よりMiu Miuが始めたプロジェクト「Miu Miu Women’s Tales」の1本として、2016年に発表された『That One Day』という短編。それが世界中で注目を浴び、『スケート・キッチン』として長編化されることになった。