無人島で助けを求める孤独な青年が、流れ着いた死体とともに故郷を目指すというとんでもない設定の『スイス・アーミー・マン』。そして白人の彼女の両親の家に招待される黒人男性の不安から始まる『ゲット・アウト』。この二つの作品が共通しているのは、自分がいる(いた)場所から受ける「居心地の悪さ」という感覚がどちらの作品も物語が進むにつれて浮彫になっていくということです。
体内にたまった腐敗ガスでジェットスキーのように海を渡ったり、硬直した指で火をおこし、腕で木々を伐採、そしてまさかの会話が出来るという『スイス・アーミー・マン』に登場する万能な死体・メニ―。青年と死体のサバイバル生活には、様々な困難が立ちはだかりますが、どこか充実しているようにも見えます。生きている時の記憶を失ったメニーに、人間の生活をいちから教えていく中で、青年が感じていたかつての生活における孤独や葛藤、叶うことのなかった願望がちらりと見え始めます。そしてもう一度やり直すかのようにかつての生活を再現する二人はとても満ち足りている様です。
一方『ゲット・アウト』では、彼女の両親に会いに行くというただでさえ緊張してしまいそうな状況と、異なる人種間に生じる妙な隔たりが、そのまま怪しい雰囲気となって恐怖を呼び起こします。自分が馴染みのない集団や環境に関わるときに誰もが感じるであろう疎外感、何かを共有していない感触への不安を丁寧な演出で積み重ね、体感させてくれます。そして物語はまさかの結末へと向かっていきます。
アドベンチャーとホラー、内省的な世界と社会的な背景など、この二つの映画は手法も色合いも全く違いますが、ともに私たちをハラハらさせ、驚かし、ときに笑わせてくれます。さらに、誰もが社会生活の中で経験したことのある普遍的な出来事が織り込まれているからこそ、単なるジャンル映画という枠を超えて、心に残るのかもしれません。
スイス・アーミー・マン
Swiss Army Man
(2016年 アメリカ 97分 シネスコ)
2018年4月14日から4月20日まで上映
■監督・脚本 ダニエルズ(ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン)
■撮影 ラーキン・サイプル
■編集 マシュー・ハンナム
■音楽 アンディ・ハル/ロバート・マクダウェル
■出演 ダニエル・ラドクリフ/ポール・ダノ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド
■2016年サンダンス映画祭最優秀監督賞受賞/シッチェス・カタロニア国際映画祭作品賞・主演男優賞受賞/ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭観客賞受賞
©2016 Ironworks Productions, LLC.
無人島で助けを求める孤独な青年ハンク。絶望の淵で自ら命を絶とうとしたまさにその時、波打ち際に男の死体が流れ着く。ハンクは、その死体からガスが出ており、浮力を持っていることに気付く。まさかと思ったが、その力は次第に強まり、死体が勢いよく沖へと動きだした! 様々な便利機能を持つ死体の名前はメニー。果たして、ハンクとメニーは無事に大切な人がいる故郷に帰ることができるのか──!?
2016年のサンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞した他、数々の映画祭で注目を浴び話題をさらった『スイス・アーミー・マン』。愛する人の元に帰るため、青年と死体が奇想天外で過酷なサバイバルを繰り広げる青春アドベンチャーだ。
前代未聞の主役・死体のメニーを演じるのは『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフ。 無人島で遭難してしまった青年ハンクを『プリズナーズ』など個性派演技で定評を得ているポール・ダノが務める。
監督は、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーと同じく、ミュージック・ビデオで数々の賞に輝いてきたクリエイティブ・デュオのダニエルズ(ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン)。彼らが織り成す独特の映像美と躍動感ある音楽は、観るものを魅了する!
ゲット・アウト
Get Out
(2017年 アメリカ 104分 シネスコ)
2018年4月14日から4月20日まで上映
■監督・製作・脚本 ジョーダン・ピール
■製作 ショーン・マッキトリック/ジェイソン・ブラム/エドワード・H・ハム・Jr.
■撮影 トビー・オリヴァー
■編集 グレゴリー・プロトキン
■音楽 マイケル・アーベルス
■出演 ダニエル・カルーヤ/アリソン・ウィリアムズ/ブラッドリー・ウィットフォード/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/キャサリン・キーナー
■2017年アカデミー賞脚本賞受賞、作品賞・主演男優賞・監督賞ノミネート/ゴールデン・グローブ章作品賞・男優賞ノミネート/インディペンデント・スピリット賞作品賞・監督賞受賞、他3部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート
©Universal Pictures
アフリカ系アメリカ人のクリスは、白人の彼女ローズの実家へ招待される。若干の不安とは裏腹に、過剰なまでの歓迎を受けるものの、黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚えるクリス。そしてその夜、管理人や家政婦の異常な行動を目撃する。
翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに多くの友人が集まるが、何故か白人ばかり。唯一黒人の若者を見つけて話しかけるが、急に「出て行け!」と叫ばれる。“何かがおかしい”と感じたクリスは、ローズと一緒に実家から出ようするが…。
じわじわ来る“恐怖”とあっと驚く“結末”が待ち受ける、 今まで誰も観たことないオリジナリティ溢れる『ゲット・アウト』。監督・脚本を務めたのは、アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”のジョーダン・ピール。コメディ出身の彼が挑んだのは、黒人男性が白人の彼女の実家を訪ねたことからはじまるホラー映画だった。「この映画には、人種問題や私が長年取り組んできたもの、つまりコメディの要素が含まれている。これは、私の本当の恐怖やこれまでに経験してきた問題が反映された映画なんだ。」とピール監督は言う。
低予算ながらも全米初登場NO.1のスマッシュヒットを記録した本作は、監督デビュー作にも関わらず米映画レビューサイトで99%フレッシュを記録。各映画賞、批評雑誌でも大絶賛され、ついに今年の米アカデミー賞で並み居る作品を抑えて脚本賞を受賞した。