【2019/5/25(土)~5/31(金)】『万引き家族』『日日是好日』

しかまる。

茶道というと、格式高くて何だか難しいと思う方がほとんどだと思いますが、『日日是好日』は、そう感じている人にこそ観てもらいたい作品です。例えば、茶せんを手首を回しながら穂先が曲がっていないか確認する所作だったり、茶碗を拭き清める時はゆの字を描くという所作だったり、茶道の形式を順番に体に染み込ませるようにして同じ動作を繰り返します。その所作一つ一つの意味を問う主人公の典子とその従妹である美智子は、さながら観客である私たちの気持ちを代弁しているかのようです。しかし、樹木希林演じる武田先生は言います。「お茶というのは、まず形を作っておいて、その入れ物にあとから心が入っていくものなの」と。この言葉を聞いた典子は「わからん…。」と心の中でつぶやくのですが、回数を重ねるごとに発見する様々な気づきによってその言葉の意味が証明されていきます。それはもう一つの武田先生の名言「世の中にはすぐわかるものと、すぐには分からないものがある」という言葉通り、典子はじっくりと時間をかけて気づいていくのです。

そうした、日々の気づきや人生の豊かさについて明瞭な答えや共感を覚える『日日是好日』とは対照的に、『万引き家族』で提示される「真の“つながり”とは何か」という問いには明確な答えはありません。

様々な家族の形を真摯に見つめ続けてきた是枝監督が今回描いたのは、血のつながりがなく、犯罪という形でしか社会とつながれなかった家族です。生計を立てるため、家族ぐるみで万引きなどを重ねていくうちに強くなる彼らの絆が、社会では許されないものであるのは明白です。しかし、貧困や過去に負った傷など、それぞれの事情を抱えながらも笑いが絶えない彼らの暮らしは、本物の家族のように温かく、血を分けた家族だけが本当の家族なのか、何をもってして家族というのか、そのテーマをより一層浮かび上がらせます。観る人に委ねられたこの命題への答えはきっと人それぞれで、その多様性を受け入れることでこそ未来への希望が見いだせるのではないでしょうか。

日日是好日
Every Day a Good Day

大森立嗣監督作品/2018年/日本/100分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 大森立嗣
■原作 森下典子『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊)
■撮影 槇憲治
■編集 早野亮
■音楽 世武裕子

■出演  黒木華/樹木希林/多部未華子/鶴田真由/鶴見辰吾

■2018年日本アカデミー賞主演女優賞・助演女優賞ノミネート

©2018「日日是好日」製作委員会

【2019年5月25日~5月31日まで上映】

それはお茶が教えてくれた幸せ。

真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな典子は、いとこの美智子とともに「タダモノじゃない」と噂の武田先生のもとで“お茶”を習うことになった。細い路地の先にある瓦屋根の一軒家。武田先生は挨拶も程々に稽古を始めるが、意味も理由もわからない所作にただ戸惑うふたり。「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っておいて、後から『心』が入るものなの。」と武田先生はいうが――。

青春の機微、就職の挫折、そして大切な人との別れ。人生の居場所が見つからない典子だが、毎週お茶に通い続けることで、何かが変わっていった…。

“お茶”の魅力に惹かれていった女性が体験する、驚くべき精神の大冒険。樹木希林、黒木華共演で贈る、一期一会の感動作!

雨の日は雨を聴く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを、冬は身の切れるような寒さを。五感を使って、全身で、その瞬間を味わう。内なる自由と生きる喜び、かけがえのない“今”を描く物語が誕生した。

原作は人気エッセイスト、森下典子が茶道教室に通った20年の日々を綴ったロングセラー。瑞々しく描かれる心象風景と、お茶が教えてくえる「気づき」の数々は、茶道の経験の有無や世代も性別も超え、多くの人々の共感を読んでいる。

主人公・典子を演じるのは黒木華。その卓越した演技力で、一人の女性の人生をたおやかに演じる。また、武田先生を演じるのは昨年惜しまれつつも亡くなった樹木希林。「習い事の先生」という枠を超えた人生の師匠として、大きな包容力で典子たちを導いていく。監督・脚本は『さよなら渓谷』の大森立嗣。ハードボイルド作品が多い監督にとって新境地ともいえる作品となった。

万引き家族
Shoplifters

是枝裕和監督作品/2018年/日本/120分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・編集 是枝裕和
■撮影 近藤龍人
■美術 三ツ松けいこ
■音楽 細野晴臣

■出演 リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/樹木希林/緒形直人/森口瑤子/高良健吾/池脇千鶴/柄本明

■2018年カンヌ国際映画祭パルムドール/LA批評家協会賞外国映画賞受賞/アカデミー賞外国語映画賞ノミネート/日本アカデミー賞作品賞・主演女優賞・助演女優賞ほか多数受賞・ノミネート

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

【2019年5月25日~5月31日まで上映】

盗んだのは、絆でした

高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活品は、万引きで賄っていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにするのだが…。

カンヌ映画祭パルムドール受賞! 家族を描き続けてきた是枝裕和監督の集大成

「10年くらい自分なりに考えて来たことを全部この作品に込めようと、そんな覚悟で臨みました。」と自ら語る、是枝裕和監督の最新作。2018年のカンヌ国際映画祭で、日本映画としては1997年の『うなぎ』以来21年ぶりの最高賞パルムドールを受賞したほか、米国アカデミー賞外国映画賞ノミネート、日本アカデミー賞主要8部門受賞を果たし、名実ともに監督の代表作となった。

様々な家族の形を真摯に見つめ続けてきた是枝監督が今回描いたのは、犯罪でしかつながれなかった家族だ。生計を立てるため、家族ぐるみで万引きなどを重ねていくうちに、一層強く結ばれる一家。だがそれは、社会では許されない絆だった。人と人との関係が希薄な今の時代に、真の“つながり”とは何かを問う稀有なる作品が誕生した。

教養も甲斐性もないが、情が深く憎めない父に扮するのは、『そして父になる』のリリー・フランキー。夫が連れてきたゆりに愛情をかけていくことで、自身が親から受けた傷を癒していく妻には、『百円の恋』「まんぷく」の安藤サクラ。妹の亜紀には、若手女優の中でも突出している松岡茉優。そして飄々としながらも、家族のまとめ役となっている祖母を、是枝作品に欠かせない樹木希林が、唯一無二の存在感を見せている。