6年間を共に暮らしてきた子供が他人の子供だった。
ある日突然降りかかってきた残酷な事実。それまでは、自分の子供だと思っていたのに、
野々宮良多(福山雅治)は、自分に似ずにどこか不器用で頼りない子供の姿を思い起こし、
いままで感じてきた違和感を裏付けられたような気がした。
人と人との関係や絆は、目に見えない。
しかし、人はどうしても印のようなものを探してしまう。
血か?過ごしてきた時間か?
野々宮良多は、自分と似たものを血のつながった子供に感じ始めてしまいます。
恋人同士も、二人が二人でいる印のようなものを求め合うことがあります。
ニシノユキヒコ(竹野内豊)が多くの女性を魅了しながらも、どうしても特定の女性と
一緒にいることができないのは、
「誰かのものになる」という感じがしないからだと、恋人のマナミ(小野真千子)は言います。
…しかし、それはどちらもちょっとした違和感や、勘のようなもの。
「そして父になる」「ニシノユキヒコの恋と冒険」
この2本の映画は、ある意味では、曖昧なものによって関係を築いたり、
失ったりするという、
当然のようでいて奇妙な人々のあり方が描かれています。
親は親に決まっている。子は子に決まっている。
しかし、それが一度崩れてしまったとき、その根拠を再び問うのは容易なことではありません。
ニシノユキヒコを取り巻く女性たちとの関係が二度と戻れない道を進むのも、
あらかじめ惹かれあい、それに気づいているというどうしようもない事実。
自分を取り巻く関係に根拠がないとき、そしてそれを求めるときの、
寂しげなニシノユキヒコや良多の姿。
それはしっかりとした絆を求めながら、
逆に人との距離がどんどん離れてしまう、
現代の多くの人が共感できてしまう感情かもしれません。
しかし、子供たちが疑いようもなくパパとママを、パパとママだと思うように、
女性たちが疑いようもなくニシノユキヒコを愛するように、絆が当然のように見えるときもある。
それを彼らや、彼女たちが見つけ出すその瞬間瞬間の輝き、生き生きとした姿に、 私たちはこの映画の、
ひいては日常と周囲の親密な人たちとの間にある、
至福の時間を見つけることができるはずです。
是枝裕和監督と、井口奈巳監督が届けてくれた珠玉の日本映画をどうぞお楽しみください。
(ぽっけ)
ニシノユキヒコの恋と冒険
(2014年 日本 122分 ビスタ)
2014年6月7日から6月13日まで上映
■監督・脚本・編集 井口奈己
■原作 川上弘美「ニシノユキヒコの恋と冒険」(新潮文庫刊)
■撮影・効果・整音 鈴木昭彦
■音楽 ゲイリー芦屋
■主題歌 七尾旅人
■出演 竹野内豊/尾野真千子/成海璃子/木村文乃/本田翼/中村ゆりか/麻生久美子/阿川佐和子
ルックスもよく、仕事もでき、セックスもよく、女には一も二もなく優しい。そして、女に関して懲りることを知らず、愛を求め続けた男、ニシノユキヒコ。彼の周りにはいつも魅力的な女性たちがいた。そして、ニシノは彼女たちの欲望を満たし、淡い時を過ごすのだが、女性たちは、最後には必ずニシノのもとを去ってしまう。彼を取り巻く女性たちの思い出から、真実の愛を探してさまよったニシノユキヒコの美しく切ない人生が浮かび上がる…。
女性たちの圧倒的な支持を集め、ロングランを記録した『人のセックスを笑うな』から5年。井口奈己監督待望の新作が誕生した。原作は、芥川賞をはじめ数々の文学賞を受賞した作家・川上弘美の同名作。とめどないこの世に、真実の愛を探してさまよった稀代のモテ男の、恋と悲しみの道行きを描く連作短編集だ。この傑作小説を、井口監督独特の映像感覚で見事に描き、女性の欲望と解放を品よく貪欲に表現している。
主人公・ニシノユキヒコには竹野内豊。精悍なマスクと確かな演技力で、彼の他には考えられないほどリアルなニシノを演じた。さらに彼をとりまく魅力的な女性たちに、尾野真千子、成海璃子、麻生久美子、本田翼など、今をときめく豪華女優陣が集結し、奇跡のキャスティングが実現。幅広い世代の女性たちを相手に繰り広げる、ニシノの“恋と冒険”に、世の女性たちはきっとトリコになってしまうはず。
そして父になる
(2013年 日本 120分 ビスタ)
2014年6月7日から6月13日まで上映
■監督・脚本・編集 是枝裕和
■撮影 瀧本幹也
■照明 藤井稔恭
■美術 三ツ松けいこ
■音楽プロデューサー 安井輝
■出演 福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二宮慶多/黄升R/中村ゆり/高橋和也/田中哲司/井浦新/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲
■第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞/第37回日本アカデミー賞助演男優賞(リリー・フランキー)・助演女優賞(真木よう子)受賞
大手建設会社に勤め、都心の高級マンションで妻と息子と暮らす野々宮良多。ある日、産院からの電話で、6歳になる息子が取り違えられた他人の子だと判明する。妻のみどりは気づかなかった自分を責め、一方良多は、優しすぎる息子に抱いていた不満の意味を知る。
戸惑いながらも相手方の家族と交流を始めた良多だったが、群馬で小さな電気店を営む斎木夫婦の粗野な言動が気に入らない。息子に一心な愛情を注いできたみどりと、温かでにぎやかな家族を築いてきた斎木夫婦は、育てた子を手放すことに苦しむ。そんななか、早い方がいいという良多の意見で、ついに子供の“交換”が決まるのだが…。
6歳になる息子は、病院で取り違えられた他人の子だった。人生で勝ち続けてきたエリートの男に、突然降りかかった事件。実の子か育ての子か、迫られる無情な選択は、観る者の魂に深い問いを投げかける。本作は第66回カンヌ国際映画祭において、10分以上に渡る熱烈なスタンディングオベーションを受けて審査員賞を受賞した。
主人公を演じるのは、国民的人気を誇る福山雅治。初の父親役にして、人生で初めての壁にぶつかり葛藤する男という難役に挑み、新境地を開拓した。脇を支えるのは、尾野真千子、リリー・フランキー、真木よう子ら実力派俳優陣。そして監督は、世界が新作を心待ちにしている是枝裕和。丹念なリサーチのもと、珠玉のオリジナル脚本を書き上げた。
それぞれの形で6年の歳月を抱きしめるふたつの家族。果たして絆は生まれるのか? 事件の行方を追いながら、いつしか観客は主人公たちと共に考え、苦悩する。そして観た者の心の中で、彼らの人生は続いていく――。