【2024/7/13(土)~7/19(金)】『落下の解剖学』+『12日の殺人』 // 特別モーニング&レイトショー『ルーベ、嘆きの光』

まつげ

今週の早稲田松竹は、ジュスティーヌ・トリエ監督作品『落下の解剖学』とドミニク・モル監督作品『12日の殺人』の二本立て。また、アルノー・デプレシャン監督作品『ルーベ、嘆きの光』をモーニング&レイトショーで上映致します。“現代フレンチ・サスペンス”3本がやってきました。

“サスペンス”―ある状況に対して不安や緊張を抱いた不安定な心理、またそのような心理状態が続く様を描いた作品―suspend(サスペンド=宙吊り)に由来しているそうで、簡単に言うと、気持ちがとどまることなく宙ぶらりんになるように、ハラハラ・ドキドキが持続している状態のこと。

今週の作品は”真実の見えない事件”が、観客を物語の最後まで強烈に引き込んでいきます。憑りつかれたようにその真実を見出そうと葛藤する登場人物たちと同じように、観る者もスクリーンから目が離せなくなるのです。真実を知りたいという欲求は、人間の性なのだろうと改めて感じます。

私の頭から離れないのは、『12日の殺人』のシーン。陽の沈んだ夜中、殺人事件の真相を探る捜査班の班長・ヨアンは仕事の後、自転車競技用トラックを走っている。きつく傾くバンクは、世の中に無限に蔓延る歪んだ闇のようです。彼は真実という一本のラインを探すかのように、何度も周ります。堂々巡りが始まり、ラインはやがて見えなくなってトラックが蟻地獄に変貌していくように見えるのです。

サスペンスの巨匠ヒッチコックは「サスペンスは観客の注意をひきとめる最も強力な手段だ」と語りました。今もなお変わらぬ映画のテクニックでありマジックのひとつである、サスペンス。

非常に強度の高いサスペンスにどっぷりと浸かり、登場人物と共に事件の真実を探ることで、私たちが生きる世界の複雑さを痛感する事でしょう。フランスの現代作家たちが作り上げた作品を、どうぞお楽しみ下さい。

落下の解剖学
Anatomy of a Fall

ジュスティーヌ・トリエ監督作品/2023年/フランス/152分/DCP/ビスタ

■監督 ジュスティーヌ・トリエ
■脚本 ジュスティーヌ・トリエ/アルチュール・アラリ
■撮影  シモン・ボーフィス
■美術  エマニュエル・デュプレ
■編集  ロラン・セネシャル

■出演 ザンドラ・ヒュラー/スワン・アルロー/ミロ・マシャド・グラネール/アントワーヌ・レナルツ

■第96回アカデミー賞脚本賞受賞・作品賞含む5部門ノミネート/第76回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/第81回ゴールデン・グローブ賞脚本賞・非英語作品賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©2023 L.F.P. – Les Films Pelléas / Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma

【2024/7/13(土)~7/19(金)】

これは事故か、自殺か、殺人か――疑念の中に<落ちて>いく

人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ<真実>が現れるが――。

カンヌ映画祭パルムドール受賞! 仏注目の作家J・トリエによる人間の深淵に迫るサスペンス

2023年のカンヌ国際映画祭で審査員長を務めたリューベン・オストルンド監督(『逆転のトライアングル』)から「強烈な体験だった」と称賛を受け、最高賞のパルムドールに輝いた、ジュスティーヌ・トリエ監督の長編4作目となる『落下の解剖学』。

夫殺人の疑惑の目を向けられる主人公サンドラ役には、本作で賞レース主演女優賞をにぎわせたドイツ出身のザンドラ・ヒュラー。カンヌ国際批評家連盟賞受賞の『ありがとう、トニ・エルドマン』や現在日本でもヒット中の『関心領域』など、演技派で名高い彼女は、作家としての知的なポーカーフェイスの下で、底なしの冷酷さと自我を爆発させる圧巻の演技で、観客を一気に疑心暗鬼の渦へと引きずりこむ。また息子のダニエル役のミロ・マシャド・グラネールと、彼の愛犬スヌープに扮しパルムドッグ賞を受賞したボーダーコリーのメッシの、演技を超越した存在感も物語のカギを握る。

あの日、あの場所で、いったい何があったのか? 事件の真相を追っていくうちに、観る者は想像もしなかった人間の深淵に、登場人物たちと共に〈落ちて〉いく。

12日の殺人
The Night of the 12th

ドミニク・モル監督作品/2022年/フランス/114分/DCP/ビスタ

■監督 ドミニク・モル
■原案 ポーリーヌ・ゲナ 「18.3. Une année passée à la PJ」
■脚本 ドミニク・モル/ジル・マルシャン
■撮影 パトリック・ギリンジェリ
■編集 ローラン・ルーアン
■音楽 オリヴィエ・マリグリ

■出演 バスティアン・ブイヨン/ブーリ・ランネール/テオ・チョルビ/ヨハン・ディオネ/ティヴー・エヴェラー/ポーリーヌ・セリエ/ルーラ・コットン・フラピエ

■第75回カンヌ国際映画祭プレミア部門正式出品/第48回セザール賞作品賞・監督賞ほか4部門受賞/第28回リュミエール賞作品賞・脚色賞受賞/第12回マグリット賞主演男優賞・外国語映画賞受賞

© 2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

【2024/7/13(土)~7/19(金)】

10月12日の夜、私は殺された—

フランス南東の地方都市グルノーブルで、10月12日の夜、帰宅途中の21歳の女性が何者かに火をつけられ、翌朝焼死体という無惨な姿で発見される。そして、地元警察でヨアンを班長とする捜査班が結成され、地道な聞き込みから次々と容疑者が捜査線上に浮かぶも、事件はいつしか迷宮入りとなってしまう…。浮かび上がる容疑者、そして掴めない証拠。あなたは、この事件から抜け出せるだろうか。

“未解決事件”――それは、人間の欲望を刺激する

思いもよらぬ様々な「偶然」が重なって起きるある殺人事件を描いたサスペンス『悪なき殺人』の鬼才ドミニク・モル監督が、新たに挑んだテーマは「未解決事件」。それは実際の事件をもとにしたものであれ、フィクションであれ、これまで数多くの優れた映画監督たちをも虜にしてきた。『12日の殺人』は、中でも、モルがデヴィッド・フィンチャーの映画でもっとも好きだと公言している『ゾディアック』のように、行き詰まるような犯人探しだけでなく、事件にのめり込むうちに、いつしか私生活にも影響を受けていく捜査員たちの日常をも丁寧に掬い取った優れた人間ドラマにもなっている。

主人公の班長・ヨアンを演じたのは、『悪なき殺人』でも警官役だったバスティアン・ブイヨン。この役でセザール賞の最優秀新人賞を受賞。ヨアンの相棒フマルソー役に『素顔のルル』『あさがくるまえに』のブーリ・ランネール。ランネールも、この演技でセザール賞の最優秀助演男優賞を受賞した。本作はフランスのアカデミー賞に相当するセザール賞で見事最多6冠に輝いた。

【特別モーニング&レイトショー】ルーベ、嘆きの光
【Morning & Late Show】 Oh Mercy!

アルノー・デプレシャン監督作品/2019年/フランス/119分/DCP/ビスタ

■監督 アルノー・デプレシャン
■脚本 アルノー・デプレシャン/ レア・ミシウス
■撮影 イリナ・ルブチャンスキー
■編集 ロランス・ブリオー
■音楽 グレゴワール・エッツェル

■出演 ロシュディ・ゼム/レア・セドゥ/サラ・フォレスティエ/アントワーヌ・レナルツ

■2019年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/セザール賞主演男優賞受賞・監督賞ほか4部門ノミネート

© 2019 Why Not Productions – Arte France Cinéma

【2024/7/13(土)~7/19(金)】

光り輝くクリスマスの夜に起きた殺人事件。2人の女が事件を迷宮へと誘う――

フランス北部ルーベ。クリスマスの夜にもかかわらず、労働者階級の地区にある警察は多忙を極めていた。チーフ捜査官ダウードは新人のルイと共に、炎上した車、パン屋の襲撃、放火などの捜査にあたっていた。放火事件の目撃者としてクロードとマリーが浮上するが、ふたりは容疑者を確認するものの、その男たちには事件の夜アリバイがあった。ダウードは、クロードとマリーの曖昧な態度に不信を持つ。そんな折、クロードとマリーの隣人の老女の絞殺死体がみつかる。信用できない証人のふたりにダウードたちは疑惑を持ち始める…。

『あの頃エッフェル塔の下で』の名匠アルノー・デプレシャンが、生まれ故郷ルーベの警察署の様子を記録したドキュメンタリーから着想を得て、ほぼ設定も台詞も変えず、実際に警察で働く、あるいは街で暮らす人々とプロの俳優たちを織り交ぜて撮り上げた初のフィルム・ノワール。2019年カンヌ国際映画祭コンペティション出品作品。ダウード警察署長を演じたロシュディ・ゼムはセザール賞最優秀男優賞を受賞した。