【2024/1/27(土)~2/2(金)】『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン	』『バーナデット ママは行方不明』 // 特別モーニング&レイトショー『アリスの恋』

ミ・ナミ

旅行することがさほど好きではない私ですが、それでも日常から離れたどこかの場所を想像するというのは何か心ときめくものがあります。どこかからどこかへの移動とは、今ある環境や、さらにはあきたりない自分自身というからの脱出をも意味しているからなのかもしれません。

今週の早稲田松竹は、『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』『バーナデット ママは行方不明』『アリスの恋』の三本をお届けします。ここで描かれる主人公たちの“脱出”は、小さくつまらないと思い込んでいた自分を再び愛するための大事なプロセスであるように思います。観客の皆さんにとっても、劇場の座席に居ながらにして “ここではないどこか”への夢想へ誘ってくれる3本になることを願っています。

12年間、精神病院に隔離されていた謎の女性モナ・リザが、突如“他人を操る”特殊能力に覚醒して始まる『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、刺激的な街ニューオーリンズで繰り広げられるサイキックアクションドラマの快作で、アクション女優としてもセンス抜群なチョン・ジョンソ演じるモナ・リザの冒険譚としても見ごたえ抜群です。一方、モナ・リザが隔離施設で受けていた非人道的扱いや、逃走した彼女と徒党を組むことになるポールダンサー・ボニーの荒んだ暮らしぶり、その息子チャーリーの抱える鬱屈が影を落とし、映画を単なる娯楽作とは異なる世界観に押し上げています。その展開があるからこそ、いつの時代も抑圧される弱き者が互いに手を携えてヒールを打ちのめす姿に感動してしまいます。

『バーナデット ママは行方不明』のバーナデットも、家族にとっては魅力的な妻であったり頼もしい母であったり、また良き友人ではある一方、街なかで出くわしたファンに怪訝な態度を取ってしまう大の人間嫌いで偏屈、けれどやっぱり一人では生きられないという人間の持つ逃れられない宿命的な厄介な性に振り回されながら生きています。バーナデットが人生でつまずいてしまったのは一体何だったのか?数少ない優秀な女性建築家というよりも、きっとどこにでもいるであろう不完全な人間としてバーナデットを映し出したリチャード・リンクレイター監督の視線に深い優しさを感じます。世界にたった一人の私を愛する術を教えてくれるのです。バーナデットが自分から脱出していくかのようなストーリー展開は、緻密なディレクションとフィクションならではの大胆さがない交ぜとなっていて“これぞ映画!”という至福の時間をくれます。

今や巨匠監督の代名詞的存在となったマーティン・スコセッシ監督の『アリスの恋』は、1974年に制作されたという事実を忘れてしまうほど、アクチュアリティーに富んだ作品です。歌手を目指す夢を振り捨てて家庭に入ったアリスはとてもチャーミング。誰にでも愛される一方で、傲慢で暴力な男性たちも寄り付く災難にも遭います。物語の主軸は、夫の交通事故死で人生の岐路に立たされたアリスが再び歌手の夢に挑戦すべく故郷モンタレーを目指す旅程ですが、思春期で口の達者なトムに手を焼き、行く先々ではどうしようもない男につかまり苦々しい思いに駆られるなど、さわやかなロードムービーというわけにはいきません。でも苦い人生を嘆きつつも少しずつ未来を変えようと前を向いていくアリスの姿勢に、何だか襟を正されるような思いがします。トムの友人でおしゃまな女子オードリーを若き日のジョディ・フォスターを演じているのも必見です。

バーナデット ママは行方不明
Where'd You Go, Bernadette

リチャード・リンクレイター監督作品/2019年/アメリカ/108分/DCP/ビスタ

■監督 リチャード・リンクレイター
■脚本 リチャード・リンクレイター/ホリー・ジェント/ヴィンス・パルモ
■原作 マリア・センプル「バーナデットを探せ」(彩流社刊)
■撮影 シェーン・ケリー
■編集 サンドラ・エイデアー
■音楽 グレアム・レイノルズ
 
■出演 ケイト・ブランシェット/ビリー・クラダップ/エマ・ネルソン/クリステン・ウィグ/ゾーイ・チャオ/ジュディ・グリア/ローレンス・フィッシュバーン/ジェームズ・アーバニアク/トローヤン・ベリサリオ

■第77回ゴールデン・グローブ賞女優賞ノミネート

© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
Wilson Webb / Annapurna Pictures

【2024/1/27(土)~2/2(金)上映】

退屈な日々にさよなら。彼女が目指したのは…南極!?

シアトルに暮らす主婦のバーナデット。夫のエルジーは一流IT企業に勤め、娘のビーとは親友のような関係で、幸せな毎日を送っているように見えた。だが、バーナデットは極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちとうまく付き合えない。かつて天才建築家としてもてはやされたが、夢を諦めた過去があった。日に日に息苦しさが募る中、ある事件をきっかけに、この退屈な世界に生きることに限界を感じたバーナデットは、忽然と姿を消す。彼女が向かった先、それは南極だった──!

リチャード・リンクレイター監督とケイト・ブランシェットを虜にしたベストセラー小説を映画化! 笑いと涙のドラマチック・アドベンチャー!

これまでジェンダーや種族も超えた存在まで演じ、華麗なる受賞歴を誇るケイト・ブランシェットが自ら演じたいと熱望した女性、それが本作の主人公“バーナデット”。2012年に出版され、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーに約1年間リスト入りした、アメリカの作家マリア・センプルによる小説「バーナデットを探せ!」の主人公だ。同じくこの物語に魅せられたのは、『6才のボクが、大人になるまで。』で世界中に唯一無二の感動を巻き起こしたリチャード・リンクレイター監督。今最も映画ファンを楽しませ心を震わせてくれる監督と俳優によるコラボレーションが実現した。

バーナデットを演じ、破天荒ながら深い共感を呼ぶキャラクターを生み出したケイト・ブランシェットは、本作で見事10度目となるゴールデングローブ賞ノミネートを果たした。夫のエルジーには『スポットライト 世紀のスクープ』のビリー・クラダップ。娘のビーには本作がデビュー作となるエマ・ネルソン。主題歌は1984年にリリースされ日本でも大ヒットしたシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」。シンディの優しく抱きしめてくれるようなハイトーンヴォイスが、明るい未来を予感させる。バーナデットの大胆かつ突飛な行動に笑って泣いて、元気と勇気に満たされるヒューマン・コメディーの傑作が誕生した。

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
Mona Lisa and the Blood Moon

アナ・リリ・アミリプール監督作品/2022年/アメリカ/106分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 アナ・リリ・アミリプール
■撮影 パヴェウ・ポゴジェルスキ
■編集 テイラー・レヴィ
■衣装 ナタリー・オブライエン
■音楽 ダニエル・ルピ
 
■出演  ケイト・ハドソン/チョン・ジョンソ/クレイグ・ロビンソン/エド・スクライン/エヴァン・ウィッテン

■第78回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞ノミネート・最優秀サウンドトラック賞・サウンドトラックスター賞・Funheart賞受賞/シッチェス・カタロニア国際映画祭最優秀音楽賞受賞

© Institution of Production, LLC

【2024/1/27(土)~2/2(金)上映】

赤い月の夜、カノジョは突然覚醒した。

少女の名前は、モナ・リザ。だけど、決して微笑まない。12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出したモナ・リザが辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでワケありすぎる人生を送ってきた様々な人々と出会ったモナ・リザは、自らのパワーを発揮し始める。いったい彼女は何者なのか。まるで月に導かれるように、モナ・リザが切り開く新たな世界とは──?

〈次世代のタランティーノ〉が放つ、ポップで、ダークなおとぎ話

「次世代のタランティーノ、現る!」と大注目された、アナ・リリ・アミリプール。2014年に長編映画監督デビュー作『ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~』がサンダンス映画祭で絶賛され、ゴッサム・アワードでユニークかつオリジナリティ溢れるセンスを発揮する新進映画監督に贈られるビンガム・レイ賞を受賞。さらに、監督第2作目の『マッドタウン』では、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞した輝ける才能だ。その後、ギレルモ・デル・トロが企画・製作総指揮を務めたオムニバス作品「ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋」に監督の一人として参加。本作はそんな独自の道を迷いなく進み続けるアナ・リリ・アミリプールの長編映画監督第3作だ。起承転結のすべてが全く予測できないオリジナル脚本も自ら手掛けている。

モナ・リザを演じるのは、韓国人俳優のチョン・ジョンソ。村上春樹の短編小説の映画化として話題となった『バーニング 劇場版』を観て一目で惚れ込んだアミリプール監督からオファーを受け、本作でハリウッドデビューを果たした。モナ・リザをある計画に引き込むシングルマザーのポールダンサー、ボニー・ベルには、『あの頃ペニー・レインと』のケイト・ハドソン。撮影は『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』のパヴェウ・ポゴジェルスキ。不穏な月が微笑むネオンカラーの街を、ポップでエキサイティングなおとぎ話の舞台としてスクリーンに出現させた。

【レイトショー】アリスの恋
【Late Show】Alice Doesn't Live Here Anymore

マーティン・スコセッシ監督作品/1974年/アメリカ/113分/35mm/PG12/ビスタ

■監督 マーティン・スコセッシ
■脚本 ロバート・ゲッチェル 
■撮影 ケント・L・ウェイクフォード
■編集 マーシア・ルーカス
■音楽 リチャード・ラサール

■出演 エレン・バースティン/クリス・クリストファーソン/ビリー・グリーン・ブッシュ/ジョディ・フォスター/ダイアン・ラッド/ハーヴェイ・カイテル/ヴァレリー・カーティン/ローラ・ダーン

■1974年アカデミー賞主演女優賞受賞・助演女優賞・脚本賞ノミネート/カンヌ国際映画祭正式出品/英国アカデミー賞作品賞・主演女優賞・助演女優賞・脚本賞受賞・監督賞・新人賞ノミネート

© 2004 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

【2024/1/27(土)~2/2(金)上映】

歌手になりたい…すべてを失った今、夢を求めて旅を行く。アリスに過去はない!

小さい頃から歌手を夢見ながら結局は平凡な主婦に落ち着き、満たされない毎日を送っていたアリス。夫の事故死の知らせが彼女の人生を一変させた。歌手として人生を出直すことを決意したアリスは、息子のトムと共に故郷モンタレーに向けて出発。アルバイトで生活費を稼ぎ、モーテル暮らしを続けながらようやくトゥーソンの町にたどり着くと、とりあえずウェイトレスとして働き始めた。そんなある日、店の常連客デイビッドに愛を打ち明けられるが…。

「映画史上初の女性のための映画!」と絶賛されたマーティン・スコセッシ監督初期の傑作

事故で夫を亡くした主婦が歌手になるという長年の夢を叶えようと、新たな人生を歩み出していく姿を描くハート・ウォーミングなロード・ムービー。公開当時「映画史上初の女性のための映画」と全米のマスコミから絶賛されたマーティン・スコセッシ監督の初期の傑作。当時のハリウッド映画にしては珍しく女性スタッフが多く参加した。主演は『ラスト・ショウ』『エクソシスト』のエレン・バースティン。本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。相手役はフォークシンガーとして活躍し、当時『ビリー・ザ・キッド』『ガルシアの首』など主演作が続いていたクリス・クリストファーソン。また、若かりしジョディ・フォスターも出演している。