パズー
今週の二本立ては、『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』『ミセス・ハリス、パリに行く』。それぞれ1980年代と1950年代のイギリスから始まる物語です。
名家に生まれながら、妹の家庭教師であった10歳年上のメアリーと恋に落ち、家族の大反対を押し切って結婚してしまうルイス・ウェイン。戦争未亡人で家政婦として生計を立てる日々のなか、雇い主のクローゼットで見つけたクリスチャン・ディオールのドレスに心奪われ、この服が買いたい!と奮起するミセス・ハリス。
彼らは、今よりずっと厳しかった階級社会のイギリスで、周りの目を気にせずに自分の信じた道を選びます。そこから始まるのは本人たちが予想もしない紆余曲折の連続。ルイス・ウェインは当代随一の人気猫イラストレーターに、ミセス・ハリスはパリのディオール本社に飛び込むことに・・・。しかし、もちろん人生はうまくいくことばかりではありません。
「忘れないで。つらいことばかりで、もがき苦しんでも、世界は美しさで満ちている」
ルイスの妻メアリーが、病床でルイスに語りかけた言葉です。
ルイスがメアリーと猫のピーターに出会い、ミセス・ハリスがディオールのドレスを見つけたように、「これしかない!」という大切なものとの出会いがあれば、それが生きる糧になり、人生に光が差すのだと教えてくれる二本です。
ちなみに本特集、『ルイス・ウェイン~』とレイト&モーニングショーで上映する『猫たちのアパートメント』はいわずもがな猫つながりでありますが、実は『ミセス・ハリス、パリに行く』もちょっとだけ猫要素があるんです。
『ミセス・ハリス、パリに行く』の原作者ポール・ギャリコは大の猫好き。“猫が猫のために書いた猫のマニュアル本”「猫語の教科書」という風代わりな作品も書いています(猫好きの本棚にはマストの一冊!)。『ミセス・ハリス~』には猫は出てきませんが、ひょっとしたらミセス・ハリスも猫好きで、ルイス・ウェインのイラストをノートに挟んでいたんじゃないかしら?とつい想像してしまいますね。
ミセス・ハリス、パリへ行く
Mrs. Harris Goes to Paris
■監督 アンソニー・ファビアン
■製作 グザヴィエ・マーチャンド/ギョーム・バンスキー/アンソニー・ファビアン
■原案 ポール・ギャリコ
■脚本 キャロル・カートライト/アンソニー・ファビアン/キース・トンプソン/オリヴィア・ヘトリード
■撮影 フェリックス・ヴィーデマン
■衣装 ジェニー・ビーヴァン
■編集 バーニー・ピリング
■音楽 ラエル・ジョーンズ
■出演 レスリー・マンヴィル/イザベル・ユペール/ジェイソン・アイザックス/ランベール・ウィルソン/アルバ・バチスタ/リュカ・ブラヴォー/ローズ・ウィリアムズ
■2022年アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート/ゴールデングローブ賞女優賞ノミネート/英国アカデミー賞衣装デザイン賞ノミネート
©2022 FOCUS FEATURES LLC.
【2023/6/3(土)~6/9(金)上映】
夢はいつだって、人生を輝かせる
第二次世界大戦後のロンドン。夫を亡くした家政婦ハリスは働き先でクリスチャン ディオールのドレスに出会う。あまりの美しさに完全に魅せられたハリスは、ディオールのドレスを手に入れるためにパリへ行くことを決意する。なんとか集めたお金でパリへと旅だった彼女が向かった先は、ディオールの本店。威圧的なマネージャーのコルベールから追い出されそうになるが、ハリスの夢をあきらめない姿勢は会計士のアンドレやモデルのナターシャ、シャサーニュ侯爵ら出会った人々を魅了していく。果たして彼女はクリスチャン ディオールのドレスを手に入れて、夢を叶えることができるのだろうか…。
ディオールのドレスに魅せられた家政婦が起こす、とびきり素敵な奇跡
クリスチャン ディオールの全面協力により当時のデザインを再現したメゾンでのファッション・ショーをはじめ、心浮き立つシーンがたっぷりと織り込まれた本作。主人公ハリスには『ファントム・スレッド』でオスカーにノミネートされたレスリー・マンヴィル。ディオールで働くマネージャー役には『エル ELLE』のイザベル・ユペール。英仏を代表する女優が共演し、Netflix「エミリー、パリへ行く」で一躍脚光を浴びたリュカ・ブラヴォーらフレッシュな面々も顔を揃えた。
全米では夏の大作がひしめく中で公開され、1000館以下の公開でありながら2週連続トップ10にランクイン。全米映画評論サイトRotten Tomatoesでは公開後1か月を過ぎても評論家、観客ともに90%以上の支持を得るなど、ドレスに恋をしたことで新しい出会いを引き寄せ、人生を輝かせていくハリスの姿が、あたたかな感動を呼んでいる。
ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
The Electrical Life of Louis Wain
■監督 ウィル・シャープ
■原案 サイモン・スティーヴンソン
■脚本 ウィル・シャープ/サイモン・スティーヴンソン
■撮影 エリック・アレクサンダー・ウィルソン
■編集 セリーナ・マッカーサー
■音楽 アーサー・シャープ
■出演 ベネディクト・カンバーバッチ/クレア・フォイ/アンドレア・ライズボロー/トビー・ジョーンズ/オリヴィア・コールマン(ナレーション)
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
【2023/6/3(土)~6/9(金)上映】
君とネコとの思い出が、永遠に僕を守ってくれる
イギリスの上流階級に生まれ、父亡きあと一家を支えるためにイラストレーターとして活躍するルイス。妹の家庭教師エミリーと恋におちた彼は、大反対する周囲の声を押し切り結婚するが、まもなくエミリーは末期ガンを宣告される。庭に迷い込んだ子猫にピーターと名付け、エミリーのために彼の絵を描き始めるルイス。深い絆で結ばれた“3人”は、残された一日一日を慈しむように大切に過ごしてゆくが、ついにエミリーがこの世を去る日が訪れる。以来、ピーターを心の友とし、ネコの絵を猛然と描き続け大成功を手にしたルイスだった。しかし、次第にルイスは精神的に不安定となり、奇行が目立つようになる。やがて「どんなに悲しくても描き続けて」というエミリーの言葉の本当の意味を知る──。
夏目漱石にも影響を与え、英国で爆発的な人気を博したネコ画家ルイス・ウェイン──彼を守り続けた妻とネコとの愛の物語
19世紀末から20世紀にかけて、イギリスで大人気だったイラストレーター、ルイス・ウェイン。夏目漱石の「吾輩は猫である」に登場する、絵葉書の作者だとも言われている。彼が描いたネコは、愛らしくてコミカル、生き生きとしたタッチで今にも絵から飛び出してきそうなものばかり。そんな絵を残したルイス・ウェインとは、どんな人物だったのか? ネコを描き始めたきっかけと理由とは? そこには、周囲からの大反対のなか結婚し、3年後にこの世を去ってからも、その愛で夫を生涯守り続けた妻エミリーと、親友であり人生の師でもあるネコのピーターとの物語があった。
出演は、ベネディクト・カンバーバッチ(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)、クレア・フォイ(『ファースト・マン』)。監督は、俳優・監督としても、その才能が注目されている日系英国人のウィル・シャープ。たとえ命が尽きても、愛は残された者と共に生き続ける──その美しくも貴い真実を観る者に信じさせてくれる、優しく温かな愛の物語が誕生した。
【特別モーニング&レイトショー】猫たちのアパートメント
【Morning & Late Show】Cats' Apartment
■監督 チョン・ジェウン
■撮影 チャン・ウーイング/チョン・ジェウン
■編集 キム・キョンジン
■音楽 チャン・ヨンギュ
■出演 トゥンチョン団地に暮らす猫たち/キム・ポド/イ・インギュ
★本作品はモーニング&レイトショー上映です。
☟入場料金
一律1000円/割引なし
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
©2020 MOT FILMS All rights reserved.
【2023/6/3(土)~6/9(金)上映】
解体が近づくソウル市内のマンモス団地――そこに暮らす250匹のノラ猫たちのお引越し大作戦
ソウル市内・江東区のかつてアジア最大と呼ばれたマンモス団地。老朽化で再開発が決まり、少しずつ住民の引越しや取り壊し工事が進んでいる。そこには住民に見守られて250匹の猫たちが暮らしていた。猫たちのこれからはどうなるのか? 猫と住民によるお引越し大作戦が始まる。
伝説的デビュー作『子猫をお願い』のチョン・ジェウン監督最新作! 猫目線で<地域猫>と人々の暮らしをほんわかあたたかくみつめる
20代の女性5人の友情、夢や恋、挫折、拾った子猫との関係をみずみずしく描いた、記念碑的傑作『子猫をお願い』でデビューしたチョン・ジェウン監督。フィクションとノン・フィクションを自在に手掛ける、独自の作品歴を誇る稀有な作家である。デビューから20年、チョン監督待望の最新作は、地域住民に見守られ団地に暮らす<地域猫>と、そこに暮らす人々との交流と別れを描いたドキュメンタリーだ。
団地に住むイラストレーターや作家、写真家などの女性たちを中心に結成された<遁村(トゥンチョン)団地猫の幸せ移住計画クラブ>(略称<トゥンチョン猫の会>)の活動を中心に、撮影は2年半にも及んだ。都市空間における生態系、アニマルライツ、環境といったテーマも盛り込み、都市の生態系の問題に対するさまざまな考え方に目を向けさせる本作からは、私たちが暮らす街や社会の矛盾や変化、未来へのヒントが見えてくる。