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ポール・ヴァーホーヴェン――彼ほど毀誉褒貶激しい映画作家はまれです。神をも恐れぬ描写が続出する73年『ルトガー・ハウアー/危険な愛』によってオランダ本国で名を成したヴァーホーヴェンは、80年代後半にはハリウッドに渡り『ロボコップ』や『氷の微笑』などで物議を醸す過激な映画作家としてその名を広めました。そんな彼が実に10年ぶりに放つ新作が『ELLE エル』です。

かつて『〜危険な愛』を観て女優を志したというイザベル・ユペールとの運命的な出会いで生まれた本作は、レイプ事件を発端とした深刻な題材にも関わらず、不合理な精神から型破りな行動に突き進むミシェル(ユペール)に引きずられるように、周囲の人々の複雑な心理が赤裸々に炙り出されていきます。

ヴァーホーヴェン作品は時に悪趣味ともいわれますが、人間の本質をありのままに描く一貫した姿勢は彼なりの真摯なヒューマニズムなのだと思います。本作はその主題が洗練の極致のような繊細さで明確に打ち出されており、なおかつエレガントな極上のエンターテインメントに仕上げられているのには唸らざるを得ません。一般常識から外れた作風ゆえ不当にもバカ映画監督扱いされる事さえあった彼が、80歳近くにして世界中の批評家をアッと言わせる傑作をものにしたことは、大げさではなくファンとして涙が出るほど嬉しいです…。

一方、『ノクターナル・アニマルズ』の監督はイヴ・サンローランとグッチのクリエイティブディレクターに就任し、数々のファッション界の賞を手にしてきたトム・フォード。批評家から絶賛された前作『シングルマン』と同じく、本作でも彼のヴィジュアルセンスが存分に発揮されており、その映像美は観る者を陶酔させてくれます。

にもかかわらず、そんなスタイリッシュな映像美で生々しく語られるのは、過ぎ去ってしまい決してもとには戻らない人生の残酷さです。本作では監督のモダンアート趣味が全開になっていますが、それはスノッブな趣味のひけらかしではなく、彼が主戦場としてきたファッションの暗喩のように思えます。

高値で取引されるきらびやかなアートや服も、それを生み出す過程には様々な人生の痛みと悔恨が伴っています。おそらく彼は華々しい成功の裏で、そのようなことを幾度も実感してきたのでしょう。彼の独特の人生観に裏打ちされた映像美学は、監督二作目にしてすでに名匠の貫禄すら感じさせます。

(ルー)

エル ELLE
ELLE
(2016年 フランス 131分 DCP PG12 シネスコ) pic 2018年4月7日から4月13日まで上映 ■監督 ポール・ヴァーホーヴェン
■原作 フィリップ・ディジャン「エル ELLE」(早川書房刊)
■脚本 デヴィッド・バーク
■撮影 ステファーヌ・フォンテーヌ
■音楽 アン・ダッドリー

■出演 イザベル・ユペール/ロラン・ラフィット/アンヌ・コンシニ/シャルル・ベルリング/ヴィルジニー・エフィラ/ジョナ・ブロケ

■2016年アカデミー賞主演女優賞ノミネート/ゴールデン・グローブ外国語映画賞・主演女優賞受賞/セザール賞作品賞・主演女優賞受賞/全米批評家協会賞主演女優賞受賞/カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート ほか多数受賞・ノミネート

©2015 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION - FRANCE 2 CINEMA - ENTRE CHIEN ET LOUP

犯人よりも危険なのは彼女だった――

pic 新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった──。


巨匠ポール・ヴァーホーヴェン×イザベル・ユペール
数々の映画賞を賑わせた異色のサスペンス!

pic「なんてキョーレツで、なんて面白い!」様々なドラマを生んだ2016年の賞レースで、ひときわ異彩を放ちながら、次々と膨大な数の賞をさらい、フランス映画にしてアカデミー賞主演女優賞ノミネートも果たした話題作『エル ELLE』。自宅で覆面の男に襲われたゲーム会社の女社長が、自ら犯人をあぶり出すために恐るべき罠を仕掛けていく。彼女は強靭な精神力と、妖艶な魅力を放つ大人の女性だ。だが、事件の真相に迫るに従い、観客は衝撃の連打を浴びる。この女、いったい何者!? 彼女こそが、犯人よりも遥かに危ない存在だった。

世界を驚愕させたヒロインを演じるのは、フランスの至宝にして歳を重ねる度に魅力が増すイザベル・ユペール。監督は『氷の微笑』のポール・ヴァーホーヴェン。原作はラブストーリーの金字塔『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のフィリップ・ディジャン。刺激的でアブノーマルな才能が互いを高め合い、世界初の気品あふれる変態ムービーにして異色のサスペンスが誕生した!

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ノクターナル・アニマルズ
NOCTURNAL ANIMALS
(2016年 アメリカ 116分 DCP PG12 シネスコ)
pic 2018年4月7日から4月13日まで上映 ■監督・製作・脚本 トム・フォード
■原作 オースティン・ライト「ミステリ原稿」/「ノクターナル・アニマルズ」(早川書房刊)
■製作 ロバート・サレルノ
■撮影 シーマス・マッガーヴェイ
■プロダクションデザイン シェーン・バレンティーノ
■音楽 アベル・コジェニオウスキ

■出演 エイミー・アダムス/ジェイク・ギレンホール/マイケル・シャノン/アーロン・テイラー=ジョンソン/アイラ・フィッシャー/エリー・バンバー/カール・グルスマン/アーミー・ハマー/ローラ・リニー/アンドレア・ライズブロー/マイケル・シーン

■2016年ヴェネチア国際映画祭審査員大賞受賞/ゴールデン・グローブ賞助演男優賞受賞(アーロン・テイラー=ジョンソン)監督賞・脚本賞ノミネート/アカデミー賞助演男優賞ノミネート(マイケル・シャノン) ほか多数受賞ノミネート

©Universal Pictures

20年前に別れた夫から送られてきた小説。
それは愛なのか、復讐なのか。

picスーザンはアートギャラリーのオーナー。夫ハットンとともに経済的には恵まれながらも心は満たされない生活を送っていた。ある週末、20年前に離婚した元夫のエドワードから、彼が書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。

彼女に捧げられたその小説は暴力的で衝撃的な内容だった。精神的弱さを軽蔑していたはずの元夫の送ってきた小説の中に、それまで触れたことのない非凡な才能を読み取り、再会を望むようになるスーザン。彼はなぜ小説を送ってきたのか。それはまだ残る愛なのか、それとも復讐なのか――。


監督トム・フォード、7年ぶりの新作は
細部にまで宿る美学に魅了される
愛と復讐の美しきミステリー。

pic グッチやイヴ・サンローランのクリエイティブディレクターを経て、2005年に自身のブランドを立ち上げ、ファッション界で確固たる地位を築いたトム・フォード。本作は、デビュー作『シングルマン』につづく彼の監督第2作目、7年ぶりの最新作である。原作を大胆にアレンジしたオリジナリティあふれる物語は世界で絶賛を受け、ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞した。

主演を務めるのは『メッセージ』のエイミー・アダムスと『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール。さらに、細かな配役にまで目配りされた豪華キャストが映画を彩る。『キック・アス』シリーズのアーロン・テイラー=ジョンソンはゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞、『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・シャノンはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。

離婚した夫婦が20年の時を経て、「捨てた愛」「失った愛」をどう見つめ、如何なる変化を遂げるのか。映画内小説と過去と現在が交差する複雑な物語で紡がれる、心ざわつく極上の恋愛映画にしてミステリー映画が誕生した。

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