【2019/9/21(土)~9/27(金)】『アメリカン・アニマルズ』『バイス』

ぽっけ

実際の事件や人物が映画化されるとき、製作者たちは口々に「これは映画にされるべきだと思った」と言います。実際に詳細にリサーチして作られた映画は、多くの場合ただニュースで知るよりも登場人物たちの複雑な背景や事情を知ることができるものです。そして、その人物と連れ添って2時間の時間を過ごすと、例え悪人だった場合でも、どうしてもただ犯人だ、悪だと言い切れない思いを抱えてしまいます。ドキュメンタリーやジャーナリズムとは一味違ったこの感覚がノンフィクション映画の面白いところではないでしょうか。

今週早稲田松竹で上映する二本の映画『アメリカン・アニマルズ』と『バイス』は、正直同情もしたくないような、いや見たところで同情もしないでいられるような人たちかもしれません。

己の欲望や野心のために、ホワイトハウスの仕組みを操り、影の帝国を築いたディック・チェイニーや、他人とは違う“特別さ”に憧れを持ってしまったがために、映画の真似をして犯罪に手を出してしまった大学生たち。しかし、彼らの凡庸で何気ない日常から、ふとした瞬間にぴょんと“あちら側”に飛び込んでしまう姿に、「あれ、ちょっと待って」と思わざるを得ません。それは、自分が何か人生の一歩を踏み出すように、ちょっとした決意を持って行動に移そうとした緊張感とほとんど差がないように見えたからです。

自分の選択が正しい選択であるかどうか。二本の映画が私たちに問うているわけではありません。映画は彼らの人生をなるべく忠実に(しかもある程度批判的に、ブラック・ユーモアをもって)描いただけ。でも、怖い。ちょっと自分と似ていると思ってしまったのかもしれない。そんな危険な二本立てです。

バイス
Vice

アダム・マッケイ監督作品/2018年/アメリカ/132分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 アダム・マッケイ
■製作 アダム・マッケイ/ブラッド・ピット/デデ・ガードナー/ジェレミー・クライナー/ウィル・フェレル/ケヴィン・メシック 
■撮影 グレイグ・フレイザー
■音楽 ニコラス・ブリテル

■出演 クリスチャン・ベール/エイミー・アダムス/スティーヴ・カレル/サム・ロックウェル/タイラー・ペリー/アリソン・ピル

■2018年アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞ほか主要7部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞主演男優賞〈ミュージカル・コメディ部門〉受賞/英国アカデミー賞編集賞受賞、 ほか多数受賞・ノミネート

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【2019年9月21日から9月27日まで上映】

まさかの実話! 世界をメチャクチャにした悪名高き副大統領、その名はディック・チェイニー

1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニーがのちに妻となる恋人リンに尻を叩かれ、政界への道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に魔力的な権力の虜になっていく。

大統領首席補佐官、国防長官の職を得て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任した彼は、いよいよ入念な準備のもとに“影の大統領”として振る舞い始める。2001年9月11日の同時多発テロ事件ではブッシュを差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていく…。

誰も気づかぬうちにアメリカと世界の運命を変えた男。その最強の権力者たる“悪”の謎に満ちた実像に迫る、社会派ブラック・エンターテインメント!

この前例の見当たらないユニークなプロジェクトに挑んだのは、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督。チェイニーを綿密にリサーチするうちに、底知れないほど深くてどす黒い人物像に魅了され、いかに彼が密かにホワイトハウスの権力を掌握し、その後の今に至る世界情勢に多大な影響を与えたのかを徹底的に追求した。題名の『バイス』には、バイス・プレジデント(副大統領)を指すだけでなく、“悪徳”や“邪悪”という意味も込められている。

チェイニーを演じたのは、カメレオン俳優クリスチャン・ベール。約20キロにおよぶ体重の増量、特殊メイクを施して、半世紀にわたるチェイニーの軌跡を体現した。妻リン役には、『ザ・ファイター』『アメリカン・ハッスル』に続いてベールとの3度目の共演が実現したエイミー・アダムス。その他『マネー・ショート~』のスティーヴ・カレルがラムズフェルド国防長官、『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェルがブッシュに扮している。また、プランBを率いるブラッド・ピットがプロデューサーで参加している。

アメリカン・アニマルズ
American Animals

バート・レイトン監督作品/2018年/アメリカ・イギリス/116分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 バート・レイトン
■撮影 オーレ・ブラット・バークランド
■編集 ニック・フェントン /クリス・ギル
■音楽 アン・ニキティン

■出演 エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ブレイク・ジェナー/ジャレッド・アブラハムソン

■2018年英国インディペンデント映画賞編集・新人脚本賞受賞/モントクレア映画祭ジュニア審査員賞受賞/ドーヴィル映画祭審査員賞受賞

【2019年9月21日から9月27日まで上映】

普通の大学生が起こした 普通じゃない強盗事件

アメリカ・ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、自分が周りの人間と何一つ変わらない普通の大人になりかけていることを感じていた。そんなある日、ふたりは大学図書館に時価1200万ドル(およそ12億円)を超えるオーデュボンの巨大な画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知る。「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」そう確信したウォーレンとスペンサーは、大学の友人を巻き込み、『オーシャンズ11』『スナッチ』などの犯罪映画を参考に強盗計画を立て始めるが―。

実際の犯人たちが劇中に登場! 映画史上類を見ないハイブリット・クライム・エンタテインメント!

衝撃の実話の映画化を手掛けたのは、ドキュメンタリー映画『The Imposter』で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞し、長編ドラマとしては本作が初監督作品となるバート・レイトン。事件を起こした本人たちを劇中に登場させ、ドキュメンタリーとドラマのハイブリットにスタイリッシュな映像、音楽を盛りこみ、センセーショナルな作品を誕生させた。

そして、このかつてない物語に挑むのは今大注目の実力派若手俳優たち。『X-MEN』で一躍有名になったエヴァン・ピーターズ。『ダンケルク』『聖なる鹿殺し』で唯一無二の存在感を見せつけたバリー・コーガン。そして『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』のブレイク・ジェナーに、Netflix のシリーズ『トラベラーズ』のジャレッド・アブラハムソン。登場人物たちの不安定な心とアドレナリンに満ちた姿を演じる。本能のままに突っ走る4人のアメリカン・アニマルズの強盗計画は果たして成功するのか。