1960年生まれ、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン出身。 野球選手として奨学金を受けて、サム・ヒューストン大学に進学するも、持病が原因で引退。映画監督への道を進む。
1988年に長編監督デビューし、2作目『スラッカー』(91)がサンダンス映画祭で絶賛され注目を浴びる。続く『バッド・チューニング』(93)で高い評価を得て、イーサン・ホーク&ジュリー・デルピー主演の『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95)では、ベルリン国際映画祭の最優秀監督賞を受賞し、米インディペンデント界を代表する存在になる。
その後も『スクール・オブ・ロック』(03)などのメジャー作品や、『ウェイキング・ライフ』『スキャナー・ダークリー』などアニメーション、「ビフォア」シリーズ3部作など幅広い作品を発表。
少年と家族の12年間の物語を、実際に12年の時間をかけて撮影した『6才のボクが、大人になるまで。』(14)では、ベルリン国際映画祭最優秀監督賞を受賞、アカデミー賞の作品賞・監督賞に初ノミネートされるなど、この年の映画賞を総なめにした。
1985年に設立されたオースティン・フィルム・ソサエティの芸術監督も務めている。
・バッド・チューニング<未>(93)
・ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(95)
・ニュートン・ボーイズ(98)
・ウェイキング・ライフ(01)
・テープ(01)
・スクール・オブ・ロック(03)
・ビフォア・サンセット(04)
・がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン(05)
・スキャナー・ダークリー(06)
・ファーストフード・ネイション(06)
・僕と彼女とオーソン・ウェルズ<未>(08)
・バーニー/みんなが愛した殺人者(11)
・サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ(12)
・ビフォア・ミッドナイト(13)
・6才のボクが、大人になるまで。(14)
くだらなくてバカバカしい話から、夢の話や哲学的な話まで、とにかくリチャード・リンクレイターの映画の登場人物たちはおしゃべりだ。それは原作があるものを除くと、長編第二作目であり劇場デビュー作でもある『スラッカー』から最新作の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』まで共通している。
物語の起伏のダイナミズムに頼らなくとも、シンプルな設定で繰り広げられる会話のどれもが瑞々しい。そして、リンクレイターの人間に対する興味が、魅力的な登場人物を形作る。どこで、どんな人が、どのように話すのか。『6才のボクが、大人になるまで。』のように、役柄を超えたその人のリアリティが作品を豊かにするのだ。(それから、どんなに些細な話でも、耳を傾けるリンクレイターのキャラクターたちは、おしゃべりでもあり、聞き上手でもある。)
会話というコミュニケーションは、登場人物たちに時間と場所を共有させる。部屋の中で、街中で、ライブハウスの中で、彼らは同じ体験をする。そして私たち観客も、1人の聞き手としてその特別な時間を彼らと同じように分かち合うことができる。すれ違うたびに登場人物が変わっていく『スラッカー』のように、その時その場所にいたという偶然性を感じたり、『エブリバディ〜』では新入生が感じる新たな出会い、新たな関係性が始まりつつあるという期待感に満たされるはずだ。
ところで、同じ時間、同じ場所を共有するというのは映画館で映画を観ることに似ていると思う。知り合いであろうと、見ず知らずの誰かであろうと、同じ映画を観ていたという控えめで慎ましい、ある関係性が生まれる瞬間だ。リンクレイターの映画を観たあと、帰り道で映画館にいた人を見つけたら、彼の物語の登場人物のようについ話しかけてたくなってしまうかもしれない。
スラッカー
SLACKER
(1991年 アメリカ 97分 スタンダード)
2017年3月11日-3月17日上映
■監督・製作・脚本・出演 リチャード・リンクレイター
■撮影 リー・ダニエル
■出演 ケイシー・マッカートニー/ルディ・バスケス/キム・クリザン/テレサ・タイラー/マーク・ジェイムズ/ステラ・ウィアー/ジョン・スレイト/ルイス・H・マッキー
©1991 Detour, Inc
テキサス州オースティンを舞台に、見た夢の話を延々と語ったり、母親を轢いてしまったり、月面着陸の陰謀論を論じたり、いまだケネディ暗殺の謎を研究したり、とにかくさまざまなスラッカー(怠けもの)たちがリレーのように登場する。さびれたアメリカの街並みを背景に、次々とスラッカーが登場しては消えていくなかで、次第に不穏な空気が漂いだす。
アメリカン・インディーズ映画の雄として注目を浴び、いまや世界的な映画監督となったリチャード・リンクレイター監督の劇場デビュー作。『スラッカー』は、テキサスのオースティンに住む風変りな若者達の生活の一日を描いている。脚本家・プロデューサー・監督を務めたリンクレイターと撮影スタッフは、型通りの物語ではなく、魅力的な100以上のキャラクターを作り上げることを選んだ。
16mmフィルムで撮影された本作の製作費はわずか2万3000ドル。その製作資金も、自主制作した『It's Impossibe to learn to Plow by Reading Books』をモンテ・ヘルマンに一方的に送りつけ、普段はいちいち見ないのに気まぐれで見たヘルマンからの好意的な手紙を人々に見せて出資を募ろうとするなど、この上なくインディペンデントな体制で作られた。
日本では25年もの間、劇場未公開未ソフト化の状態であった本作だが、当時はサンダンス映画祭で絶賛され、リンクレイターの名前を一躍有名にした。また、90年代以降のインディペンデント映画界に絶大な影響を及ぼした映画史的にも重要な作品である。
エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に
EVERYBODY WANTS SOME!!
(2016年 アメリカ 117分 ビスタ)
2017年3月11日-3月17日上映
■監督・製作・脚本 リチャード・リンクレイター
■撮影 シェーン・F・ケリー
■編集 サンドラ・エイデアー
■出演 ブレイク・ジェナー/ゾーイ・ドゥイッチ/タイラー・ホークリン/グレン・パウエル/ワイアット・ラッセル/オースティン・アメリオ/ テンプル・ベーカー/ウィル・ブリテン/ライアン・グスマン
©2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
野球推薦で大学に入学することになった新入生のジェイク。野球部の寮に入るが、先輩たちは野球エリートとは思えない風変わりな奴ばかり。そんな彼らに大学を巡るツアーに連れ出されたジェイクは、同じ新入生で演劇専攻のビバリーに出会い、一目惚れをするが…。
アカデミー賞をはじめ、2014年の映画賞を総なめにし、映画ファンを唸らせたリチャード・リンクレイター監督の最新作。 誰しも感じる新生活が始まる直前のワクワク感、何にも縛られない大人の自由を満喫しつつも、大人としての責任を同時に気付き始める微妙な心情を眩しいくらいに清々しく描いた青春グラフィティー・ムービーだ。
『スクール・オブ・ロック』や『6才のボクが、大人になるまで。』と同様、もうひとつの主役となるのが音楽。ロック、パンク、ディスコ、ニューウェーブ、ヒップホップの名曲が散りばめられている。本作のタイトルにもなったヴァン・ヘイレンの「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」を始め、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」、シュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」などセンス抜群。『ビフォア〜』シリーズを始めとし、これまでのリンクレイター作品同様、永遠には続かないが、決して色あせることのない青春の断片を見事に切り取ったリンクレイターの集大成と言える作品になっている。